ヘルスキーパー制度導入のための手引書
障害者雇用の拡大を目指して
ヘルスキーパー制度導入のための手引書

〜 総務・人事担当者のためのマニュアル 〜




国立身体障害者リハビリテーションセンター

職場開拓検討委員会




まえがき
「ヘルスキーパー制度導入のための手引書」改訂版の発行に当たって

 先般、内閣府から平成15年10〜12月期の国内総生産(GDP)速報値が発表され、この中で、「年率換算7.0%増、バブル経済期以来13年半ぶりの高い伸び率、穏やかに景気が回復している」と経済財政相の発言が報道されました。しかしながら、失業率の高止まり状態や新卒者の就職難等を見ると、数値が示すほど回復しているような実感がありません。
このような経済・雇用状況下では、障害を有する人々の働く場を確保することは、今後も困難が予測されます。
 30数年前、わが国が高度成長の最中に“でも求人”という言葉が使われていました。これはこの時代、企業が求人案内を行ってもなかなか人材が集まらず、「身体障害者でもいから雇いたい」といっていた時に出た言葉でした。「身体障害者雇用促進法」があったにもかかわらず、身体障害者に対する一般企業の理解の低さからくる言葉でした。身体障害者の能力開発校や更生施設で進路指導を担当している者にとって、この言葉には怒りを覚えながらも、企業に出かけ理解を得ようと努力した思い出があります。その後、障害者の法定雇用率制度が導入され、雇用制度も充実し、一般企業の障害者に対する理解も深まり障害者雇用が進んだことは喜ばしい限りです。
 国立身体障害者リハビリテーションセンター理療教育課程では、中途視覚障害者を対象に、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の養成を行っておりますが、マッサージ、はり、きゅうの施術効果が広く社会に認められるにつれて、規制緩和により、晴眼者を対象にした「はり師、きゅう師養成施設」が全国各地に新・増設されております。このことから理療業界にも過当競争時代が到来しております。
 当センターでは、社会の要請に応えることのできる施術者を送り出すために、教育訓練内容の充実をはかり、入所者の施術能力(知識・技術、接遇等)の向上に努め、全員があん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格の取得を目指し、授業の充実に加え個別指導によるきめ細かな教育訓練を積極的に展開しております。卒業生の進路は、治療院の開業や治療院、病院、特別養護老人ホーム、企業等への就職などがありますが、なかなか本人の希望どおりにならないのが現状です。
 このため、当センターでは、入所者の進路指導の充実と職場開拓を推進する目的で「職場開拓検討委員会」を設置し、平成12年度以降、ヘルスキーパー(企業内理療師)の職域拡大を目指したマニュアルを毎年発行しています。このマニュアルは、副題の「総務・人事担当者のためのマニュアル」が示すように、企業が新たにヘルスキーパー制度を導入する際の考え方や準備作業を具体的にまとめ、冊子および当センターホームページで提供するものです。さまざまな観点から解りやすく編集し、参考資料もふんだんに取り入れておりますので、同制度の導入を企画されている企業の方々にとりましては、受け入れ態勢を整える上で大いに役立つものと確信しております。
 マニュアルの発行にあたり、企画から原稿の執筆、編集、校正に至るまで担当された株式会社テプコシステムズの清水委員をはじめ関係各位に心より謝意を表します。
 


平成16年3月31日
 国立身体障害者リハビリテーションセンター 
   理療教育部長 竹之内 康

 
 

目次
○ まえがき
第1章 わが国の障害者雇用制度
  1.障害者雇用を進めるに当たって
  2.障害者雇用を進める上での阻害要因
  3.新たな職域の開拓を目指した取り組み

第2章 ヘルスキーパー制度導入の意義
  1.ヘルスキーパー制度とは
  2.ヘルスキーパー制度の導入の効果

第3章 ヘルスキーパー制度の導入に係わる準備作業
  1.企画書、承認書の起案
  2.実施事項の抽出と検討
  3.マッサージ室設置条件の調査
  4.マッサージ室設置場所の検討
  5.マッサージ室への設置器具

第4章 ヘルスキーパーの採用
  1.採用条件の検討
  2.採用活動

第5章 マッサージ室の利用と管理
  1.利用料金の徴収
  2.利用条件の検討
  3.施術範囲の検討
  4.申込受付
  5.利用者への周知
  6.利用者の管理

第6章 マッサージ室の開設届
  1.必要書類
  2.届出と確認審査

第7章 ヘルスキーパー業務へのパソコンの導入
  1.視覚障害者にとっての情報化の支援
  2.視覚障害者に有効なソフト
  3.ヘルスキーパー業務におけるパソコンの導入
  4.ヘルスキーパーにとっての情報のバリアフリー

第8章 ヘルスキーパー導入に関するQ&A

第9章 ヘルスキーパー就業の現場から

参考資料
  1.ヘルスキーパー制度導入に関する電子ファイル内容
  2.「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」抜粋
  3.「同上施行規則」抜粋
  4.施術の種類
  5.施術室事例(平面図)
  6.助成金制度の活用手続

○ あとがき






第1章 わが国の障害者雇用制度

  内閣府の発行した障害者白書(平成15年度版)によりますと、わが国の身体障害者数(18歳以上)は、342万人を超え、年々、増加する傾向にあります。18歳以上では、人口千人当たり約31人が身体に何らかの障害を持っていることになります。
  わが国では、日本国憲法によって国民の勤労の権利が認められていますが、障害者の場合には、働く意志と能力を持っていても、社会の理解や社会的条件の未整備などにより、雇用の場が十分に確保されているとはいえない状況にあります。
  こうしたことから、昭和35年に、「身体障害者雇用促進法」が制定され、昭和62年に今日の「障害者の雇用の促進等に関する法律」という名称に改められました。
  この法律は、
  ○ 障害者に対する職業訓練、職業紹介などを促進し、職業生活における自立をはかるための職業リハビリテーションの実施
  ○ 障害者の雇用を法的義務とした雇用率制度の導入
  ○ 障害者の雇用を経済的側面から支える納付金制度の実施を骨子としています。
 この法律により、民間企業(56人以上)では法定雇用率1.8%以上の障害者を雇用し、ノーマライゼーションの実現を目指すことが義務づけられています。
 また、法定雇用率に満たない企業が納める納付金や、法定雇用率を達成した企業に対して支給される調整金や報奨金が定められています。
  さらに、納付金を財源として、障害者の雇用促進をはかるために、企業が障害者の雇用に伴い作業施設・設備の設置または、整備や雇用上の配慮(雇用管理等)を行った場合に、その経済的負担を軽減するための各種の助成金も用意されています。
  なお、ここでいう「障害者」とは、「身体または、知的、精神に障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者」をいいます。

1.障害者雇用を進めるに当たって
 企業が障害者雇用に積極的に取り組む動機は、「法的要請」と「社会的責任」によるところが大きいといえましょう。特にわが国では、障害者の法定雇用率が1.8%と定められているため、企業はこれを達成する義務を負います。現状では、多くの企業が法定雇用率を達成することを目的としていると考えられます。
しかし、今、社会では少子・高齢化によって人口構造が変化し、その結果、社会保障システム
や福祉システムに限界が生じ、従来の価値観や個人の意識が変化してきています。このような中で企業社会もパラダイムの転換が求められています。
すなわち従来のような利益追求型の「企業単独の幸せ」ではなく、社会全体との調和を求め「社会の構成員としての全体の幸せに貢献する企業」のみが生き残っていけるようになるのではないでしょうか。「社会には色々な人々が混在している」ことを踏まえ、「それぞれの人達が自然に働く場に参加できる社会」を実現することが、これからの企業に求められています。障害者を受け入れることは、易しいことではありません。配属、教育・訓練、業務管理、評価と処遇、福利厚生など全ての分野で様々な課題が生まれます。これらを一つひとつクリアして障害者に企業の中 で自立し定着してもらうには、企業の腰を据えた対応が求められます。
 さらに、障害者雇用を着実に推進するためには、企業、障害者職業能力開発校・養成校、障害
者本人による三位一体となった協力体制が不可欠であり、それぞれの立場で次のような積極的な取り組みが期待されます。
(1)人事担当者の熱意と努力
    企業が障害者を雇用する上で最も重要なポイントは、人事担当者の熱意です。人事担当者は、採用から配属、教育・訓練、さらには配属後のフォローまで障害者雇用の全てにかかわりを持ちます。時には、業務の枠を越えた対応が求められることもあるでしょう。親になりかわって厳しいこともいわなければならない場合もあります。優しさだけではなく、自立を願う強い気持ちが必要となります。
    このような、人事担当者の熱意と地道な努力があって初めて、経営トップを動かし、職場の理解を得ることが可能となります。
(2)経営トップの理解・決断
   バブル崩壊後における企業経営は、“人材”に負うところが非常に大きくなっています。特に組織のフラット化が進んでいる企業では、グループマネジャー制の導入が行われ、マネジャーを中心に適材適所を実現する「仕事と人とのマッチング」やチーム編成の成否により生産性が大きく影響を受けます。
    一方、障害者についての理解が乏しい職場では、とかく生産性が低い、支援が必要、職域が限られるなどの偏見やマイナスイメージが先行し、職場への受入に消極的になりがちです。このような状況下にあって、障害者雇用の促進をはかるには、経営トップの理解と決断が不可欠な要素です。
(3)職場の理解と協力
    良い仕事を進めるためには、円滑なコミュニケーションが必要です。特に、日々、障害を克服するために努力している障害者にとっては、職場の同僚や上司との良好なコミュニケーションは、過不足のない支援を受けるための基盤・前提となるものです。仕事に必要な連絡や指示ばかりでなく、色々な情報や意見なども気楽に交換できるような職場をつくるよう、職場全体の理解と協力を得ることが大切です。
(4)障害者職業能力開発校・養成校の役割
    各障害者職業能力開発校や養成校は、一般の技術専門校で訓練を受けることが困難な障害者を対象に、正規の授業はもとより個々の障害者の能力に応じて、実技を主体に基礎知識・技能を磨き、職業人として自立できるよう熱心な指導を行っています。
    当センターでは、優秀なヘルスキーパーを企業に送り出すために教育訓練内容の充実をはかり、入所者の施術能力の向上に努め、全員が三療の国家資格取得を目指し、授業の充実はもとより放課後における個別指導を含め、きめ細かな教育訓練を積極的に展開しています。
    さらに、最近の情報技術の進展を踏まえパソコンの操作能力を高める努力も行っています。
     (注)理療教育課程のカリキュラム内容は電子ファイルを参照のこと
(5)本人の意欲・自覚
    障害者本人にとって、働くことは社会参加や自己実現のために最も大切なことです。この点で、仕事に取り組む強い意志と自覚が必要であり、この意志と自覚があってこそ上司や同僚の真の理解と協力が得られるものと思います。
                  

2.障害者雇用を進める上での阻害要因
  まえがきで述べましたとおり景気の低迷下にあって、各企業は生き残りをかけた企業統合、不 採算部門の切り捨て、リストラ等、徹底した経費の切りつめを行うとともに、効率化や省力化を 目指したIT(情報技術)を業務に活かす努力を積極的に展開し、競争力の強化をはかっていま す。
   このように、企業のリストラによる常用雇用者数の減少やIT化の推進に伴う単純定型業務の システム化による一般管理部門の要員の減少は、障害者雇用を進める上の阻害要因となっていま す。さらに、障害者の採用に伴い環境の整備や本人にふさわしい仕事をさがしたり、開発したり する必要性があることも主な要因と考えられます。

3.新たな職域の開拓を目指した取り組み
(1)特例子会社制度の活用
    特例子会社とは、障害者の雇用に関する特別な配慮をした会社で雇用されている障害者を親会社(グループ企業)に雇用されているものとみなし、親会社(グループ企業)の障害者雇用率に含めて計算する制度です。
    特例子会社の認定を受けるためには、一定割合以上の障害者を雇用する他、親会社から子会社への出資比率、緊密な人的関係などの条件があります。
(2)障害者雇用機会創出事業の活用
    この制度は、障害者の採用経験の乏しい企業が、障害者を短期間(3ヶ月)、試行的に雇用(トライアル雇用)することによって、障害者の雇用の促進と定着をはかる制度です。
    企業が、当制度により採用した障害者を継続して雇用するか否かは、トライアル雇用期間の終了時点で、継続雇用するか、期間満了で終了とするかを選択することができます。
    なお、この事業を活用する企業にはトライアル雇用奨励金が支給されるばかりでなく、公共職業安定所や地域の障害者職業センターの支援が受けられます。
(3)ヘルスキーパー制度の活用
    ヘルスキーパー制度の導入を検討されている企業の総務や人事採用担当者の方に当冊子をお読みいただき、マッサージ施設の整備、ヘルスキーパーの採用、マッサージ室の届出、助成金の申請、利用者の管理など準備作業を進めてもらうものです。
    なお、できるだけ効率よく効果的に準備作業を展開できるよう、冊子で考え方や進め方をまとめるとともに、手続書類を電子化して提供することにしました。つきましては、各企業の実態に沿って手直しされ、お使いください。



第2章 ヘルスキーパー制度導入の意義

1.ヘルスキーパー制度とは
企業が職員の健康管理、疲労回復、疾病の予防などのためにマッサージ施設を設け、あん摩マ
ッサージ指圧師等の免許(国家資格)を保有する者(ヘルスキーパー)を採用し、マッサージな
どを施す制度です。

2.ヘルスキーパー制度の導入の効果
   企業で働く者にとって、リストラの不安、仕事の高密度化などから、心と体に多大なストレス
を感じ、それが積み重なって疾病を引き起こす例も少なくありません。特に、職場における情報
機器の普及に伴い、長時間にわたるパソコンの操作からくる眼精疲労、首・肩・腕・腰などのこ
りや痛みなどを訴える者が増えており、これらの治療にマッサージは大変効果的だといわれてい
ます。
   しかし、一般のマッサージ施設では、40分、3,500円から4,000円と高く、体調が
悪いからといって頻繁に通院できないのが実態です。
   一方、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正(平成10年7月)に伴い、障害者の法定
雇用率が1.8%に引き上げられたことから、各企業では法定雇用率の確保を目指し障害者の雇
用と定着に努めています。
   これらの状況を踏まえ、企業内にマッサージ施設を設け、職員を対象にした低料金によるマッ
サージを行うことは、職員の健康管理、疲労回復、疾病の予防、メンタルヘルスの観点と、障害
者雇用の促進をはかれるなど多くの効果が期待できますので、前向きに検討してください。



第3章 ヘルスキーパー制度の導入に係わる準備作業

 ヘルスキーパー制度を導入するに当たり最初に取り組まなければならないことをあげると次のとおりです。

1.企画書、承認書の起案
   ヘルスキーパー制度を導入する目的、マッサージ室の開設時期、ヘルスキーパーの業務内容、ヘルスキーパーの採用、利用条件などについて概要を企画書としてまとめ、承認書(計画稟議)を起案し決裁者の承認を得る必要があります。

2.実施事項の抽出と検討
   次に、準備作業を迅速・的確に進めるために必要な事項の洗い出しと検討を行います。具体的には、検討事項、問題点や留意点をまとめたスケジュール表を作り、検討や管理のための資料とすることをお奨めします。
   このスケジュール表を作成する段階で、当リハビリテーションセンターで実施すべき事項の漏れがないかの確認や、疑問点の相談に応じますのでお気軽にご連絡ください。
   また、既にヘルスキーパー制度を導入している企業の人事採用担当者に相談したり見学することも有効です。
   なお、スケジュール表で管理すべき主な項目をあげると、次表のとおりです。

(1)ハード面のスケジュール管理表

【マッサージ室】

項 目 具体的取組事項 問題点・課題
oマッサージ室
 設置の検討
・マッサージ室を単独で設ける
 か、診療所内で行うかの検討
・メリット・デメリットの
 まとめ
o候補箇所の検
 討・決定・起
 案(単独設置)
・候補箇所の検討
・平面図の作成
・予算書の作成
・計画承認書の起案
・メリット・デメリットの
 まとめ
o工事計画・実
 施・管理
・設計書の作成
・施行業者の選定
・建物改修承認書の起案
・改修を伴う場合、助成金
 の申請
o備品・消耗品
 の検討・購入
・リストの作成
・他社の実態把握
・備品などの購入準備
・国立身体障害者リハビリ
 テーションセンター協議
o設置基準の調
 査
・あん摩マッサージ法に基づく
 確認
・助成金の申請・面積、設備


【マッサージ室以外】

項 目 具体的取組事項 問題点・課題
o建物内外の安
 全対策
・点字ブロック、点字表示の
 設置
・採用予定者の状況を勘案


(2)ソフト面のスケジュール管理表
【採用面】

項 目 具体的取組事項 問題点・課題
oヘルスキーパー
 の採用
・採用条件の検討
・採用ソースの検討
・施術範囲の検討
・仕事の範囲(受付、カルテ管
理、利用料金の受領)の検討
・面接時に確認すべきこと
の把握

・採用予定者の能力による
o利用条件・利用
 者管理
・有・無料の検討
・利用資格の検討
・利用要領の作成・周知
・メリット・デメリットを
考慮
・同一人の度を超える利用
制限


【申請面】

項 目 具体的取組事項 問題点・課題
o申請書類の作成 ・マッサージ室の届出
・助成金の受給申請
・事前に審査を受ける


3.マッサージ室設置条件の調査
(1)設置条件
    マッサージ室の設置条件は、法的規制として「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」(以下、「あはき法」と記す。)「同法施行規則」に基づき、面積、備えつけるべき設備・器具について定められています。(巻末資料参照)
    o 施術場所の面積 = 6.6u以上  
    o 待合室の面積  = 3.3u以上
     (参考)ヘルスキーパー就業実態調査結果に基づくマッサージ室の広さは、平均20uである。
    o 室面積の7分の1以上に相当する部分を外気に開放できるか、これに代わる適当な換気装置を備えること。  
    o 消毒設備の設置
   なお、企業によっては、マッサージ室を設けずに診療所(室)にマッサージコーナーを設け、施術を行う場合もあります。この場合には、「あはき法」に基づく保健所または市区町村への届出は不要です。ただし、診療所(室)届出内容の変更として、医師、看護師に加えヘルスキーパーを追加する必要がありますのでご注意ください。
(2)設置上の留意点
    次の点に留意してマッサージ室のスペースや備えつけるべき物品を準備してください。
    o 消毒設備は、手指消毒器を備えつけるだけでも良く手洗い設備までは求められていません。
    o 換気設備としては、最近のビルでは窓が開放できないことが多いと思われます。このような場合には、適当な換気装置があれば良いことになっています。
    o カーテンは耐火性の材質が望ましく、消火器も備えつけてください。
4.マッサージ室設置場所の検討
   マッサージ室は、その利用目的から出入りしやすく静かで安心できるような場所に設置することが良いでしょう。これらの条件に基づき、候補箇所を2〜3選び、それぞれのメリット、デメリット、工事の概要や費用などについて比較検討してください。
 特に、マッサージ室を単独で設けず診療室の中にマッサージコーナーとして設置する場合には、診療室全体とマッサージコーナーとの設置目的の違いや利用目的からくる矛盾、ならびに医師、看護師とヘルスキーパーの人間関係などを考慮して設置場所を決めてください。
   具体的には、診療施設の利用者は、病人や相談者で、安静やプライバシーの確保が求められるのに対し、マッサージを受ける者は、リラックスを求めており、相反するねらいや目的の設備です。したがって、同室内に設けることはあまり好ましくないと思われます。
   しかし、診療室内にマッサージコーナーを設けた場合には医師、看護師との情報交換がしやすいというメリットもあります。

5.マッサージ室への設置器具
(1)治療用

[写真]治療用ベッド
 a.治療用ベッド
マッサージ用ベッドは、ヘルスキーパーの背丈、体力、施術範囲、施術に伴う疲労などの軽減をはかる観点から、高さ、幅、材質などについて、ヘルスキーパー本人の意見を尊重し、電動式にするか、固定式にするかを決めてください。
なお、電動式は治療内容、利用者の体格・体位などに合わせ、高さの調整が可能となるメリットがあります。一方、固定式の場合は、安定感がありヘルスキーパーがベッドに乗っての施術ができるというメリットがあります。
 b.マッサージチェア
     利用者が座り、肩・首などを中心にマッサージを受ける際の椅子です。なお、ベッドに横たわりマッサージを受けることにすれば、この椅子は不要です。
 
[写真]消毒器具
 c.消毒器具
「あん摩マッサージ法」に基づき備えなければならないもので、医療用アルコールを用いた手指消毒器を備えることをお奨めします。
 d.温熱機器
     治療効果を促進させる目的で、次の温熱機器を備えると良いでしょう。
      o ベッドヒーター …… ベッドとベッドカバーの間に入れる電気カーペット
      o 遠赤外線治療器 …… 患部を温めるランプ
 e.小物・消耗品
     施術を行う上で、次の小物や消耗品が必要です。
      o フェイスマット  o 枕・枕カバー(半円枕)
      o 胸当て      o タオルケット    o 受療用着替
      o ベッドカバー   o 白衣         o ロッカー
      o ワゴン      o 柱時計       o タイマー等
    その他、必要なものを電子ファイルに一覧表にしてありますので参考にしてください。
    なお、治療用機器は発注後に生産する場合が多く、所要日数がかかる恐れがあります。
     また、需要が少ないことから値引きはほとんど期待できません。したがって、そのつもりで日数や予算額を確保してください。
(2)治療用以外の備品・消耗品
    治療用以外で必要な備品・消耗品としては、次の物があります。
      o 事務机・椅子   o 電話設備       o ロッカー
      o パソコン      o 視覚障害者用音声化ソフト
      o 拡大読書器等



第4章 ヘルスキーパーの採用

1.採用条件の検討
   ヘルスキーパー制度導入の成否(鍵)は、採用する本人の人柄や能力(知識・技能・接遇)で決まるといっても過言ではありません。そのため採用条件や職場環境を整えることが特に重要になります。したがって、ヘルスキーパーの採用に先立ち次の事項を十分検討してください。

項目 検討事項
処遇 社員、嘱託、契約社員などの処遇を検討し、契約書(就業規則)に明記してください。
勤務時間等  勤務時間は、障害の程度、通勤時間、施術時間帯、1日当たり施術人員等を勘案し、時差勤務を含め検討する必要があります。
(注)障害者雇用率は、原則として常用雇用労働者を対象としますが、短時間労働者(週20時間以上勤務する者)の場合には、重度障害者を1名としてカウントされますが、軽度障害者は対象外となります。
給料・賞与  月給、日給、時給のいずれにするか、賞与、退職金の有無等について本人の生活安定と労働意欲を喚起させることの両面から検討してください。
(注)状況により就業規則の見直しが必要です。
分担業務の
確認
 予約受付、カルテ管理などの業務をヘルスキーパー本人に担当してもらえるか、パソコンの操作能力があるかを確認します。
(注)これらの業務は補完的業務です。あくまでも本来業務である施術をしっかり行ってもらうことが大切です。

2.採用活動
(1)採用人員の検討
  ヘルスキーパーを何名採用するかは、従業員数に基づき1日当たりの利用者数、一人当たりの所要時間などによって異なります。
(2)対象者の検討
  ヘルスキーパーを採用する場合、従業員の年齢構成、男女比率、施術ニーズ等を勘案し、年齢や性別にこだわらず技術や人物重視で選考することが大切です。
(3)採用ソース
  募集方法は、一般公募と学校推薦の方式がありますが、どちらもメリット、デメリットがあります。いずれにしても、当センターにご相談ください。
(4)面接に先立ち確認すべき事項
  次の事項を確認することが有効です。
視覚障害の状況 身体障害者手帳の等級、障害名、具体的な見え方、進行の有無、通院の必要性
健康状態 視覚障害以外の障害や疾病の有無
行動能力 通勤手段・時間、白杖の使用を含む自力での通勤の可能性
業務関係 施術免許の確認または取得見込の可能性、接遇能力、パソコン操作能力

(5)採 用 
    ヘルスキーパー制度導入の成否は、ヘルスキーパー本人に負うことが大きいことを前に述べましたが、採用に当たり本人の熱意や接客マナーなどを見極めることが大切です。
 a.面 接
    障害の程度(具体的な見え方、視力障害以外の障害や疾病、通院の必要性等)、通勤方法、採用後の生活の場、日常生活能力等の行動能力、設備の改修や支援機器の必要性などを主体に質問してください。
 b.面接時の留意事項
    特に次の点に留意して面接してください。
     ○ 基本的人権の尊重
       家庭環境、親の職業、本籍、思想・信条など基本的人権に抵触する質問を避けてください。
     ○ 障害に関する質問
       障害の程度、通院の必要性、設備の改修や支援機器の必要性などの把握を主体に質問してください。
     ○ 業務意欲に関する質問
       どのような動機でヘルスキーパーになりたいのか、どのように業務を進めていきたいのかなど、ヘルスキーパー業務に関する取り組み姿勢についての質問が良いでしょう。
     ○ 技術力のテスト
        施術能力の把握は、口頭質問ではなく実際にマッサージを社員数名に受けてもらい確
かめることをお奨めします。

(6)内定後確認する事項
    次の事項について確認することを通じ建物等の改修、備品・消耗品の購入、助成金の申請などの準備を進めてください。
建物設備の改修 建物内の手すり、エレベータ内等の点字案内板、音声装置、廊下への点字ブロック設置の必要性など
備品・消耗品等
の確認
マッサージ室スペース、ベッド(大きさ、高さ、幅、電動か固定、設置位置)、事務処理設備(事務机、パソコン、拡大読書機)、施術用消耗品(シーツ、枕、施術着、枕用ペーパータオル)など
最寄り駅からの
通勤経路
音声信号の設置、点字ブロックの敷設の必要性、建物入り口などの点字ブロック敷設の必要性など



第5章 マッサージ室の利用と管理

1.利用料金の徴収
(1)有料・無料の検討
      会社として職員が勤務時間中にマッサージを受けることを踏まえ、施術中の賃金を保障するか否かを含め検討する必要があります。
(2)有料とする場合
     マッサージ室を利用できる者と、できない者がでる職場環境では、不公平感をなくす観点から受益者負担とし、利用料金を徴収することが望ましいと思われます。
      利用料金の検討に当たっては、他社の状況、現金を徴収する場合におけるつり銭の扱いの簡易さ、市中の利用金額、福利厚生の一環としての施術であることなどを勘案し決めてください。
      有料としている企業は、施術着のクリーニング代や消耗品代として、500円を徴収している企業が一般的です。なお、ヘルスキーパー就業実態調査結果によると、はりを併せて行っている場合、1,000円〜2,000円を徴収しています。
(3)無料とする場合
      無料とする場合には、その根拠と勤務時間中にも利用することを勘案し、運用方法について十分検討し、社内の合意が得られるよう説得力のある条件を示す必要があります。
また、無料とした場合には利用条件を厳しくせざるを得なくなり、利用率が低くなることも考えに入れる必要があります。
      なお、診療室内にマッサージコーナーを設ける場合には、無料としている企業が大半です。
 a.留意点
      勤務時間中に施術を受ける場合、単なる社員サービスではない目的性を持たせることが大切です。そのためには、社員の健康管理の一環であることを明確にする必要があります。
      なお、ヘルスキーパーの勤務時間をずらすことによって、昼休み時間や終業時刻後の利用にも配慮することも良いでしょう。
   b.利用の仕方と制限
      上司の了解を得ることが条件になりますが、気軽に利用できる仕組みや雰囲気がないと利用率は低下します。また、同一者の度を超えた利用を防止するための制限は明確に示してください。

2.利用条件の検討
(1)利用理由
      次の諸症状がある場合に、利用させることとしたら良いでしょう。
      o 頭痛       o 目の疲れ     o 首、肩、腕、背筋のこりや痛み
      o 足腰の痛み・むくみ           o 神経痛
      o 胃腸障害    o 全身の倦怠感   o 精神疲労、ストレス
(2)一人当たりの施術時間・1日当たりの施術者数
      一人当たりの施術時間は、ヘルスキーパーの休憩の取り方や時間、疲労度合、施術効果、担当業務などを勘案し、30分〜60分の間で設定することをお奨めします。
      なお、勤務時間中における職員の離席時間を短縮する観点から一般的には30分〜40分程度に設定する企業がほとんどです。
      また、1日当たりの施術者数は、一人当たりの施術時間や着替、事務処理、休憩などに要する時間を勘案し、6〜9人程度としたら良いでしょう。

3.施術範囲の検討
   企業内の施術として三療(あん摩マッサージ指圧、はりきゅう)の内、どこまでを行うかを検討する必要があります。企業における施術は、営利を目的に行うものでないことや、勤務時間中に行うことも勘案しマッサージのみを行う企業が大多数です。
   ただし、業種によっては、はりまで拡大している企業が散見されるものの、きゅうまで実施している企業は、ほとんど見受けられません。
   なお、はりはギックリ腰など炎症性疾患時の鎮痛手段としては大変有効な施術といわれています。また、きゅうが企業内に普及していない理由は、もぐさの燃える際の臭いが周囲や衣服に残るためです。着替えや換気装置を充実することによって導入も可能と思われます。

4.申込受付
   事前の予約制とし、申込は翌週分を前週の月曜以降に受付、空いている場合は当日でも良いことにしたらいかがでしょう。
   また、受付窓口は、ヘルスキーパーと相談し、できればヘルスキーパー本人にお願いしたいものです。ただし、施術中に電話を受けることは、施術を中断しなければならなくなることから、予約受付時間帯を設けたり、パソコンのメールによる予約受付など工夫をしてください。
   さらに、無制限の利用とせず、原則として週1回を限度とするなど制限を設けることも大切です。

5.利用者への周知
   マッサージ施設を設ける理由や効果的な運営をはかることをねらいとして周知をはかってください。
   具体的には利用条件、施術時間・時間帯、利用料金、申込方法、留意事項などについて取扱要領を定め周知することをお奨めします。

6.利用者の管理
   次のような管理表を作成し、予約受付、カルテの管理、利用率の調査などについて管理してください。
   なお、次の管理表は電子ファイルに掲載してありますので、参考にしてください。
(1)予約者管理表の作成と受付
    予約者管理表には、時間帯別申込者(所属・氏名・性別)、利用料金受理チェック欄を設けてください。
    なお、情報技術の進展に伴い業務効率の向上をはかるために利用管理システムを導入する企業が増えています。また、予約受付は、ヘルスキーパー本人とヘルスキーパー以外の者、ならびにこの両者で行うなど企業毎に異なります。両者で協力して進めてください。
(2)問診票
    初診の利用者に現在の症状、過去に罹った大きな病気、けが、手術などについて記入していただき、効果的な施術を行うための資料としてください。
    ただし、ヘルスキーパーの視覚障害の程度によっては、聞き取りによる問診のみとする場合もあります。
(3)カルテ
    簡単な治療記録をカルテとして残してください。なお、ヘルスキーパーにパソコン操作能力があれば、市販のカルテソフトがありますので利用すると便利です。
(4)利用状況記録表の作成と集約
    1日当たりの利用者数、月別の利用者数・利用率などを記録し、効果的な利用をはかるための資料として作成します。
    集計は、主管課の方が行ってください。ただし、ヘルスキーパー本人が集計業務までできる状況ならば行ってもらうと良いでしょう。
    なお、集計に当たっては、ヘルスキーパーが休暇、会議、研修などでマッサージ室にいない日や時間帯を分母から除き、真の利用率が分かるようにしてください。



第6章 マッサージ室の開設届

1.必要書類
   マッサージ室の開設後10日以内に保健所などに、次の書類を各2部作成し提出してください。

(1)施術所開設届
    マッサージ室の所在地を管轄する保健所に届出用紙が備えつけてあります。
   (注)「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」第9条2項では、都道府県知事宛に届出をするよう記述されていますが、その必要はなく、所在地の保健所か、自治体によっては、市区町村の衛生行政担当部署に届出れば良いことになっています。
(2)建物案内図
    最寄り駅からの会社までの案内図と建物内におけるマッサージ室までの順路がわかるような図面(平面図)を作成してください。
(3)施術室の平面図
    この平面図は、縮尺入り(壁の内法により表示)、ベッドの表示、待合いコーナー、消毒設備の配置がわかる詳細図が必要です。
 (注)巻末に参考資料として掲載してあります。
(4)免許証
    ヘルスキーパー本人の資格(あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許)の免許証(本証とその写し)を本人から預かり提出します。なお、確認後、本証はその場で返却してくれます。
    また、マッサージのみを行う場合には、「あん摩マッサージ指圧師免許」のみを提出しますが、途中ではり施術も併せて行う場合には、はり師免許の追加の届出が必要となります。
   (注)三療の国家試験に合格しているものの、合格したばかりのため免許証が手元にない時点で届け出る場合は、「あん摩マッサージ指圧師等登録済証明書」(はがき)で暫定的に受付てくれます。ただし、この場合には後日免許証を持参する必要があります。
(5)会社の定款・登記簿謄本
   社員を対象としたマッサージ室の開設であり、営利を目的とした治療院の開業ではないので定款や登記簿謄本の提出を不審に思われる方が多いと推測されます。
営利目的でなくても会社の定款と登記簿謄本を提出することになっていますので、持参してください。

2.届出と確認審査
   届出は、開設後10日以内に行なわなければなりません。なお、事前に提出書類を下見しても
らうと良いでしょう。
   また、開設届後に確認審査のため係官が来社しますので、立ち会ってください。



第7章 ヘルスキーパー業務へのパソコンの導入

1.視覚障害者にとっての情報化の支援
   最近における情報技術は目覚ましく進化しており、ビジネス社会にとどまらず、日常生活にも広く浸透してきています。このように高速の通信網の整備や、これに伴うパソコンの機能の向上により、コミュニケーション手段が質量ともに著しく充実してきました。
   このような情報技術の進歩は、情報障害といわれる視覚障害者にとっても、コミュニケーションの幅を広げ、生活の質の向上にも大いに役立っています。具体的には、電子化された情報を音声化する技術の進歩により、視覚障害者の文字コミュニケーションの手段は、点字、音声ワープロ、電子メールなど選択の幅が広がりました。さらに、インターネットの普及、それを閲覧するための音声ソフトの機能向上などにより、必要な情報を欲しい時に自由に入手できるようになりました。
   一方、パソコンを使う環境が整うにつれて、それを利用する方法を知っている人と知らない人、使える人と使えない人の格差が拡大しつつあることを踏まえ、当センターでは入所者に対し情報技術力を高めるための教育訓練も行っています。

2.視覚障害者に有効なソフト
   ウィンドウズ音声化ソフトの導入により可能となることをあげると次のとおりです。
    o ウィンドウズのスタートメニューの読み上げ
    o 各ソフトのプルダウンメニュー(ファイル・編集・表示・挿入等のメニュー)の読み上げ
    o キーボードのキーを押した時の音声発声
    o 漢字の説明読み
  この結果、視覚障害者が、これらのソフトを使うことによって、マウスを使わずにキーボードのみでソフトの起動、キーボードから文字を入力し、「漢字仮名交じり文」の作成が可能となるわけです。また、ウィンドウズの基本的な操作も音声化されるため、ファイルのコピーやフォルダの作成などができるようになります。
   しかし、全てのソフトが使えるわけではなく、各音声化ソフトにより、音声で使用できるソフトも異なります。したがって、目的に沿った音声化ソフトを選ぶことが特に大切です。この点で、複数の音声化ソフトを必要に応じ使い分けることをお奨めします。
(1)ウィンドウズ音声化ソフトの種類と特徴
  @ 95リーダー(95Reader = XPReader)
      わが国で最初に開発された音声化ソフトです。ワードやエクセルに音声対応しています。
  A PCトーカー(VDMW300)
      ワード、エクセルに音声対応している他、インターネット・エクスプローラーに対応していますので、ホームページ内容を読み上げてくれます。また、同メーカーでは、PCトーカーに対応した使いやすいソフトを開発しています。
  B ジョーズ(JAWS for Windows)
      世界で広く使われている音声化ソフトです。キーボードを用いてマウス操作が可能な上、アイコンなども音声で読み上げてくれます。現在、ワード、エクセル、アウトルック、アクセスに加え、企業で多く用いられている「Lotus Notes」などのスクリプト(簡単なプログラム)が用意されています。
     なお、スクリプトがなくても、画面の文字を読み上げることが可能なため、多彩な使い方が可能です。しかし、多くの機能があるため、使いこなすのにやや難しいものの、操作方法をマスターすれば、それだけ多くの恩恵を受けられます。
(2)ウィンドウズ画面の拡大ソフト:ズームテキスト(Zoom Text)
    画面全体の拡大の他に、マウスの周辺を拡大するなど色々な拡大表示機能があります。
(3)電子メール利用ソフト
     一般的に使用されている「アウトルック(メールソフトの一種)」はジョウズを使うことにより音声での使用が可能です。なお、その他の音声化ソフトでは、音声が出ない場合があり使用が難しい場合もあります。この解決策として、その音声化ソフトに対応したメールソフトを購入する必要があります。
    また、これらのメールソフトは、アドレス帳や添付ファイルなどにも対応しており、アウトルックとの互換性もあるので便利です。
    しかし、会社独自でネットワークシステムを組んでいる企業の場合には、このメールソフトが使用できない場合もありますので注意してください。なお、この場合の音声化ソフトはジョウズを介してメールを使う必要があります。
  (注)メールソフトの種類、メーカー、価格などは、電子ファイルを参考にしてください。
(4)インターネットを利用可能とするソフト
    視覚障害者は、情報不足になりがちだといわれています。本や雑誌等をテープなどで聞きますが、テープ化には限度がありますし、タイムリーさにも問題があります。その点で、インターネットの普及は視覚障害者にとってホームページの情報にアクセスができ、情報不足の軽減に大いに役立つと思います。
    一般的に健常者はインターネット・エクスプローラーを使用しますが、視覚障害者でも「視覚障害者用ホームページ読み上げソフト」を使用すれば、ホームページへのアクセスが可能です。しかし、全てを読めるわけではなく、ホームページの構造によって、視覚障害者がアクセスできない場合もあります。
(5)墨字を読取るスキャナとソフト
    視覚障害者にとっては、墨字(紙に書かれた文字)文書をスキャナとOCRソフトを利用することによって、文書内容を音声で確認することが可能となります。
なお、OCRソフトは多くの種類が市販されていますので、電子ファイルを参考にしてください。
(6)墨字を点訳するソフトと点字プリンタ
    この装置は、ワードやテキスト形式の電子データを自動的に点訳するとともに、プリンタで点字印刷するものです。点字が読める視覚障害者にとっては、パソコンの音声だけでなく、点字で読むことが可能となり確実に情報を得られます。

3.ヘルスキーパー業務におけるパソコンの導入
(1)導入の必要性
    ヘルスキーパーの周辺業務の主なものをあげると、予約者管理、カルテ管理、利用状況の把握業務などがあり、これらの業務をパソコンで行う企業が増えています。
    一方、各企業では、情報技術の進展に伴い一般管理部門(総務・人事・労務・経理)の仕事をシステム化し要員を減らすことを通じ人件費の削減をはかっています。
 これに伴い、ヘルスキーパーの周辺業務をヘルスキーパー本人に行ってほしいとの要望が高まっています。この周辺業務をヘルスキーパーに行ってもらえるか否かは、障害の程度やパソコンの操作能力によりますので、本人と良く話し合ってください。
(2)導入の限界
    ただし、あくまでも本業であるマッサージの仕事を確実に行ってもらうことが重要であり、周辺業務を安易にヘルスキーパーにさせないようお願いします。なお、周辺業務をヘルスキーパー本人に行ってもらう場合、特に注意してほしいことは、晴眼者(目の見える者)が作成した表(予約者管理表、カルテ、利用状況記録表)は、全盲者にとっては、空欄のスキップの仕方や音声表現などから、使いづらいといわれています。このようなことを踏まえ視覚障害者の立場に立ち、「予約受付表」と「利用状況記録表」を作成し、電子ファイルに収録してありますので参考にしてください。
(3)利用者管理のシステム化
    利用者がパソコン上で予約できるシステムや利用料金を給与から自動引落しするシステムです。この業務は主に管理部門の担当者が行っている企業がほとんどだと推測されます。
(4)カルテ管理ソフト
95リーダーとPCトーカーに対応したカルテ管理ソフトです。利用者のカルテを記録できる他、予約管理ソフトがついているため、音声での予約管理も可能です。

4.ヘルスキーパーにとっての情報のバリアフリー
   ヘルスキーパーにとって、情報のバリアフリーは特に大切です。この点でマッサージ室にパソコンを設置し、インターネットやイントラネットで理療知識や健康管理情報などの収集をはじめ、利用者への情報提供、ヘルスキーパー同士の情報交換などを行えるようにすることは、ヘルスキーパーのバリアフリーに大変有効です。是非前向きに検討してください。
   なお、マッサージ室へのパソコンの設置など利用環境の整備に関するコンサルティングをはじめ、情報機器販売、LAN(配線)施設、ヘルスキーパーへの指導・サポートなど、障害者の立場に立ち支援している企業を紹介しますので、当センターに申し出てください。



第8章 ヘルスキーパー導入に関するQ&A

Q1 マッサージ室の開設に関わる建物改修費や施術用備品等の購入費用の概算額についてうかがいたい。また、運用上必要な費用項目には、どのようなものがありますか?

A  マッサージ室に適した部屋がある場合と、新たに設ける場合とでは大きな違いがあります。ヘルスキーパー就業実態調査結果によると、改修費の平均は73万円、最高155万円であり、備品では平均44万円、最高120万円となっています。
なお、既にふさわしい部屋がある場合における改装の内容、概算費用、備えつける備品、消耗品などについて次に示します。
(1)設置費用
 (株)テプコシステムズの事例 単位:千円
項目 主な内容 概算額
マッサージ
室の新設工
事費
パーティション、ドア、カーテン、カーペットの新設 840
机、椅子、キャビネットの購入
電話・LAN(パソコンの配線)工事 39
電源(コンセント・スイッチ)工事 344
医療用備品
・消耗品
治療用ベッド(固定式・特注) 265
手指消毒器、ベッドヒーター、各種枕、遠赤外線治療器等 307
視覚障害者
用支援機器
視覚障害者用パソコン・同ソフト(音声出力) 668
拡大読書機 398
合計 2,861

(2)運営費
 (株)テプコシステムズの事例 単位:千円
項目 主な内容 概算額
洗濯代 施術着洗濯代 33
消耗品 ぺーパータオル等
合計 35

Q2  視覚障害者の採用に伴いエレベーターの改修費用の概算額についてうかがいたい。

A  視覚障害者を受け入れるに当たりエレベーター関係の改修は、エレベーター内と各階のエレベーター表示板に点字案内を行うことと、エレベーター内に音声を流すオートアナウンス機能を設置することが良いでしょう。
   この機能追加工事に伴なう概算費用は、エレベーターの機種によって異なりますが、約50万
円とのことです。 なお、オートアナウンス機能以外に、行き先階を探しやすくするために、点字
表示をしてくださることをお願いします。


Q3  ヘルスキーパー制度を導入している企業数や業種について教えてください。また、賃金水準の概要も知りたいのですが。

A  厚生労働省の平成14年度の衛生行政報告によりますと、全国の視覚障害者の「あん摩マッサージ指圧師」の総数は、25,950名で2年前の調査に比べ、1,601名減少しているのに対し、晴眼者は、2,126名増加し71,363名であり、晴眼者の割合が年々増しています。
    一方、平成15年12月現在における「関東・甲信越地区の盲学校・養成施設」の卒業生の内、
企業でヘルスキーパーとして働いている者は、95社、1地方公共団体で178名です。業種別
に上位5業種をあげると次のとおりです。
     @ サービス業  : 25社54名
     A 製造業     : 16社29名
     B 商業      : 13社23名
     C 金融保険業  : 10社19名
     D マスコミ    :  7社11名
なお、当センター卒業生のヘルスキーパーの平成14年度年収は、平均362万円で、男女に
よる差は認められませんでした。


Q4  三療の内、はりきゅうまで実施している企業数は、どのぐらいあるのか教えて ください。

A  当センターが、平成14年12月に実施いたしましたヘルスキーパー就業実態調査結果によ
りますと、35事業所中で29事業所(82.9%)は、マッサージのみを実施しており、は
りも併せて行っている事業所は、6事業所(17.1%)で、きゅうを実施している事業所は、
全くありませんでした。
これは、従業員の健康管理を中心に、できるだけ多くの方にマッサージを主体に行うことに
しているためと思われます。


Q5  勤務時間中にマッサージを受けるとして、マッサージを受けている時間の賃金をカットすべきかどうか、導入している企業の実態をうかがいたい。

A  情報化の進展に伴い生産・流通・販売・サービス業界など全ての業種で情報機器が急速に普
及しております。このことに伴い、身体疲労やストレスから肩こり、腰の痛みなどを訴える者が増えています。
    一方、障害者の法定雇用率の引き上げ(1.6% → 1.8%)により各企業は雇用率のア
ップに努めています。
    これらの状況を踏まえ、従業員の健康管理と企業の社会的責任を果たす観点からヘルスキー
パー制度を導入するものです。したがって、施術を受けている時間の賃金はいずれの企業も保
障しています。なお、デパートや工場などの場合には、勤務時間帯が個人により異なることを
活かし、空き時間を利用して施術を受ける方法も良いでしょう。


Q6  ヘルスキーパー制度を導入することによる効果やヘルスキーパーに期待する役割についてうかがいたい。

A  ヘルスキーパー制度の導入に伴う効果としては、首や肩のこり、腰痛の解消など直接的な効果の他に、筋肉の柔軟性の持続を目指した予防体操の指導(セルフケア)を行うなど、生活習慣病の予防方法のアドバイスなど間接的な役割が期待できます。


Q7  マッサージを受けるに当たって、ふさわしい施術着にはどのようなものがありますか?

A サウナパジャマ、作務衣、甚平など着脱が簡単にできる物が良いと思います。下着になったり、ベルトをしたままではマッサージをしづらいものです。
また、自分のTシャツなどに着替えてから来てもらう企業もあります。ただし、施術時間が短い場合では、施術着を用いないこともあります。なお、マッサージチェアを利用する場合には、上着などを脱ぐ程度で受けています。


Q8  マッサージ室の運営管理に当たり、特に注意すべき事項とその対応策についてうかがいたい。

A  マッサージ室の運営管理上で配慮すべきことは、主に次の2点です。
○ 特定の者が、週に幾度も利用することのないようにすること。
○ 個室であることから、利用者とヘルスキーパー間でセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)行為などを起こさないよう注意すること。
    これらの対応策は、マッサージ室の開設を周知する際に利用条件(週1回を限度など)を明
確に示したり、注意事項をまとめマッサージ室に掲示すると良いでしょう。なお、守らない者
に対しては迅速適切な注意が必要です。


Q9  施術室の名称や表示は一般的にどのようにしているかを教えてください。

 A  名称は、マッサージルーム(室)、ヘルスケアルーム、ヘルスキーパールームなどが一般的で
すが、リフレッシュルームやリラクゼーションルームなどと名付けている企業もあります。
いずれにしても親しみやすいものを選んでください。
 また、案内表示やエレベーター内の表示には、施術室を表示していない企業が一般的です。   



第9章 ヘルスキーパー就業の現場から

株式会社 テプコシステムズ
大石 孝
 私は、以前に調理師としてレストランや珈琲店(店長)に勤務していましたが、視野の狭窄が進むことを見越して、国立身体障害者リハビリテーションセンターで、あん摩マッサージ指圧、はりきゅうの指導を受け、三療の国家資格を取得し、平成11年4月から当社にヘルスキーパーとして勤めています。入社当初は、嘱託の身分でしたが、1年経過後に正社員にしていただきました。
 国立身体障害者リハビリテーションセンターで学んだパソコン操作能力を活かし、お客さまの電話による申込受付から利用料の受領、カルテの管理までを単独で行い職員の健康管理に努めています。
 さて、利用状況について述べますと、1日最大6名、1人当たり60分かけてお客さまの身になって懇切丁寧にマッサージを行っています。利用率は60%を超し、午後はほとんど予約でいっぱいです。情報サービス企業ですので、システム開発やプログラミング、データエントリー、コンピュータの運用管理などの業務遂行に伴い、疲れ目、肩・腰の痛み・こりを訴えていた方が、施術後に楽になって喜ぶ顔を見ると自分のことのように嬉しくなります。最近では、四十肩・五十肩の治療や骨折・捻挫後のリハビリを目的に来所される方が増えています。
 また、皆さんが折りにふれ懇親会(飲み会)やカラオケなどに誘ってくれるなど公私にわたり楽しい日々を過ごしております。このような時、若い方が率先して誘導をしてくれるなど、良い同僚に恵まれていることに感謝しています。
 最後に、後輩の方へのアドバイスとして三療の知識や技術を磨くことはもとより、接客マナーを身につけ、親しまれ信頼されるヘルスキーパーになるよう頑張ってください。期待しております。
業種 :情報サービス業 社員数 : 2,070名 処遇 : 社員
1日当たり施術:6名 1人当たりの所要時間:60分 利用率 :60%
勤務時間 :8:40〜17:20 施術の範囲 :マッサージのみ 利用料 :500円



日興アセットマネジメント株式会社
脇谷 信子
 私は、以前、看護師として働いておりましたが、視覚に障害が出てきたことから将来を考え、国立身体障害者リハビリテーションセンター(国リハ)に入所し、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の資格を取り卒業しました。卒業後ある会社でヘルスキーパーとして働いておりましたが、リストラに遭い平成11年12月やむなく同社を退社しました。
 幸いにも、平成12年4月、国リハの紹介によって当社に再就職することができました。当社では、看護師やヘルスキーパーの経験を生かすとともに、理療関係の知識・技術を更に磨き、皆様の健康管理と仕事の能率向上に少しでもお役に立ちたいと努力しております。
 施術は、マッサージを希望される方が多いのですが、肩こり、腰痛、ギックリ腰、五十肩、腱鞘炎等の症状には、鍼治療が有効ですのでディスポーザブル鍼(使い捨て鍼)を使用して治療をすることもあります。
マッサージや鍼施術を行った後で利用者の方々が、『アー楽になった。助かった!』と言う喜びの声を聞きますと、私も疲れを一瞬忘れ、“やりがい”を感じます。

 最近では、情報技術の進展に伴い情報機器が職場に普及することによって、肩こり、眼精疲労、腰痛、ストレスなどを訴える方が増えているように思います。また、身体的、精神的な不調を感じながらも働いている方も散見されます。このような場合の疲労回復や仕事の能率向上をはかるために、ヘルスキーパーの導入は、良い方法であるばかりでなく、私たち視覚障害者の職域拡大につながるものと思います。
最後に今後とも利用者の立場(身)に立ち誠実な施術に努め、親しまれ信頼されるヘルスキーパーになりたいと願っています。
業種 : 金融業 社員数 : 約300名 処遇 : 嘱託
1日当たり施術者数:6名 1人当たりの所要時間:40分 利用率 :50%
勤務時間 :10:00 〜 17:00 施術範囲 :マッサージ、はり 利用料:500円



伊藤忠テクノサイエンス株式会社
村口 進
 私は、生まれながらの視覚障害(全盲)者です。音楽専門学校でポピュラーピアノとJAZZを学び、昭和63年からライブ活動で生計をたてていました。平成4年のバブル崩壊に伴う大不況では、音楽では生活できないと思いたち、将来を見据え国立身体障害者リハビリテーションセンターに入所、三療の資格を取得、平成7年4月からスポーツクラブでマッサージ師として働きはじめました。しかし、同クラブが経営不振のため平成9年に閉鎖となり失業しました。このため、開業するか再就職するか悩んでいたところ、国リハの紹介で、幸いにも当社に嘱託として採用され、既に5年弱になります。
 当社は明るく活き活きとした社風で、上司・同僚、マッサージを受けに来る皆さんに支えられ、毎日楽しく働いています。
 
マッサージは原則として一人当たり20分行いますが、こりや痛みがひどい方には要望により40分行うこともあります。
 マッサージを行う上で心がけていることは、「親しき仲にも礼儀あり」をモットーに、お客さまとの距離感を大切にし、お客さまと施術者の立場をわきまえつつ、できるだけリフレッシュしてもらえるよう気配りをしています。
 さらに、新聞、テレビ・ラジオ、インターネット等の健康情報に注意をはらい情報の収集に努め、これらの情報を必要と思われる方へメール送信し健康管理のお役に立てばよいと、行っています。
 治療を通じ、お客さまから「ここに来ると、仕事の能率があがる」「村口さんと話すと心まで軽くなる」などと言われるとそれだけで、嬉しくなります。
 余暇は、音楽三昧の生活をしています。例えばプロのミュージシャンとセッションしたり、ボランティア活動で演奏会場を回ったりしています。
業種 : 情報サービス産業 社員数: 2,970名 処遇 : 嘱託
1日当たり施術者数:
最大 12名
1人当たりの所要時間:
20分または40分
利用率 : 60%
勤務時間 :10:30〜19:00 施術の範囲 :マッサージ 利用料:20分/500円


参考資料
1.ヘルスキーパー制度導入に関する電子ファイル内容

項目 内容
1.計画・スケジ
  ュール
@ ヘルスキーパー制度の導入に関する検討事項(案)
A ヘルスキーパー制度の導入スケジュール表
B ヘルスキーパー制度の導入について(承認書)
C マッサージ室新設工事の実施について(承認書)
D マッサージ室設置候補箇所の比較
E ヘルスキーパーの導入に係わる国立身体障害者リハビリテーションセン
 ターとの打ち合わせ結果 〜その1
F 関東・甲信越地区盲学校・養成施設一覧表
G 関東・甲信越地区盲学校・養成施設卒業生のヘルスキーパーの採用状況
2.採用活動 @ ヘルスキーパー採用に係わる検討事項
A 採用予定者との面談結果について
B ヘルスキーパー採用に係わる国立身体障害者リハビリテーションセン
 ターとの打ち合わせ結果 〜その2
C ヘルスキーパーの採用について(承認書)
D 入社時におけるヘルスキーパーとの間で確認する事項
3.備品・消耗品 @ ヘルスキーパーの導入に伴う備品の購入について(承認書)
A 視覚障害者用備品の購入について(パソコン、拡大読書機の承認書)
B 医療用備品・消耗品購入に係わる業者への特命発注
C マッサージ室用備品・消耗品一覧表
D マッサージ室用備品などの価格 
4.社外手続 @ マッサージ室設置に係わる保健所の確認結果
A 保健所への届出用紙
B 平面図
C 障害者の採用に伴う助成金の受給について
D 交差点への点字ブロック設置のお願いについて(依頼文書)
E 交差点信号機の音声化の依頼について(依頼文書)
5.管理 @ マッサージ室利用料金の考え方
A 問診票
B 予約者管理表
C カルテ
D 利用状況管理表
6.周知 @ ヘルスキーパー業務取扱要領
A マッサージ室の開設について(案内文)
7.その他 @ 当センター理療教育課程カリキュラム概要
A 視覚障害者支援ソフト一覧



参考資料
2.「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」 抜粋

〔免許〕
 第1条 医師以外の者で、あん摩マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許又はきゅう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

〔免許資格〕
 第2条 免許は、学校教育法第56条の規定により大学に入学することのできる者で、3年以上、文部科学大臣の認定した学校又は厚生労働大臣の認定した養成施設において解剖学、生理学、病理学、衛生学その他あん摩マッサージ指圧師、はり師又はきゅう師となるのに必要な知識及び技能を修得した者であって、厚生労働大臣の行うあん摩マッサージ指圧師試験、はり師試験又はきゅう師試験に合格した者に対して、厚生労働大臣が、これを与える。

〔秘密保持義務〕
 第7条の2 施術者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。施術者でなくなった後においても、同様とする。

〔施術所の届出〕
 第9条の2 施術所を開設した者は、開設後10日以内に、開設の場所、業務に従事する施術者の氏名その他省令で定める事項を施術所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。

〔施術所の構造設備〕
 第9条の5 施術所の構造設備は、省令で定める基準に適合したものでなければならない。
   2 施術所の開設者は、その施術所につき、省令で定める衛生上必要な措置を講じなければならない。

〔医業類似行為の制限〕
 第12条 何人も、第1条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法の定めるところによる。



参考資料
3.「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律施行規則」抜粋

第3章 施術所等 
〔届出事項〕
 第22条 法第9条の2第1項前段の規定により届け出なければならない事項は、次のとおりとする。
     1 開設者の氏名及び住所(法人については、名称及び主たる事務所の所在地)
     2 開設の年月日
     3 名称
     4 開設の場所
     5 法第1条に規定する業務の種類
     6 業務に従事する施術者の氏名及び当該施術者で目が見えない者である場合にはその旨
     7 構造設備の概要及び平面図

〔施術所の構造設備基準〕
 第25条 法第9条の5第1項の省令で定める基準は、次のとおりとする。
     1 6.6平方メートル以上の専用の施術室を有すること。
     2 3.3平方メートル以上の待合室を有すること。
     3 施術室は、室面積の7分の1以上に相当する部分を外気に開放し得ること。ただし、
       これに代わるべき適当な換気装置があるときは、この限りでない。
     4 施術に用いる器具、手指等の消毒設備を有すること。

〔衛生上必要な措置〕
 第26条 法第9条の5第2項の省令で定める措置は、次のとおりとする。
     1 常に清潔に保つこと。
     2 採光、照明及び換気を充分にすること。


参考資料
4.施術の種類
   ヘルスキーパーが施す施術の種類は次のとおりです。
あん摩・
マッサー
ジ・指圧
○あん摩・マッサージ・指圧の違い
  手指を使って患者の皮膚に刺激(もむ、なでる、さする、押す)を与えることによ
って、次の効果を得る治療法です。あん摩は体の中心から手足に、マッサージは手足
から体の中心にもむなでるさするなどのマッサージを主体に行う施術で、指圧は
主にツボを押す施術行為です。
○効 能
 ・直接的効果 : 痛み、むくみ、こり、腫れ等の解消、皮膚の新陳代謝の促進
・間接的効果 : 消化・呼吸器の活性化、筋肉・関節靱帯・腱の新陳代謝の促進、施
術部位の静脈管・リンパ管・神経系の活性化、ストレスの解消
○副作用の防止策
  施術の翌日に体が重くだるい感じが残る場合があります。この症状は過剰な刺激に
よるものですので、施術による痛みをあまり我慢しないことが大切です。
(はり)
はり施術とは
  はり施術は、(ツボ:リンパ管に対比される東洋医学上の脈管系統)にはりを刺す
ことによって、組織や器官の機能異常を調整し、本来の状態に回復させる治療行為で
す。わが国では、太さ0.2mm程度、長さ3〜5cmのはりを用い、体内に刺し入
れたり、皮膚の上から圧迫などを行うものです。
○効 能
WHO(世界保健機構)では、1979年に、40以上の疾患にはりによる治療効
果を認めています。特に、頑固な肩こりや腰痛、慢性的な関節の痛み、自律神経失調
症などに効果的です。
○副作用の防止策
  はりを使い捨てにすること、胸部や背部に深く刺さないこと、施術前後に手指の消
毒を徹底することで、はりによる事故は未然に防げます。
(きゅう)
きゅうとは
  きゅう施術は、もぐさ(ヨモギの葉を乾燥させて作った綿状の物)を皮膚の上で燃
やすことによって、局所に温熱刺激を与えるものです。最近では、市販の物で安全か
つ簡単な施術ができます。
○効 能
  冷えからくる様々な症状、自律神経失調症、婦人病などに効果的です。
○副作用の防止策
  水膨れになったり、きゅう痕が残ることがありますので、露出部位にはきゅうをし
ないことが大切です。また、水膨れやきゅう痕を触ると化膿の原因となりますので注
意が必要です。


参考資料
 5.施術室事例(平面図)
(1)ベッド1台の事例

[図面]施術室事例(平面図)
 
[写真]施術室内マッサージベッド  [写真]施術室内マッサージベッド(室外より)


                 
(2)ベッド2台の事例
  K社マッサージ室(23.0u)

[図面]K社マッサージ室(平面図)
 
[写真]K社マッサージ室 受付  [写真]K社マッサージ室



参考資料
6.助成金制度の活用手続

 助成金の性格により大別すると公共職業安定所の支給する「特定求職者雇用開発助成金制度」と、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が支給する「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」および「障害者雇用継続援助事業に基づく助成金」の3つの制度があります。
   企業にとっては、障害者の雇用に伴う経済的な負担の軽減をはかることができるばかりでなく、障害者雇用の促進と定着化に有益な制度ですので活用することをお奨めします。
   この申請手続は、複雑で時間を要するため、その都度、公共職業安定所の障害者雇用窓口や雇用促進協会に問い合わせ、相談しながら提出書類の作成を行ってください。

(1)特定求職者雇用開発助成金(窓口:公共職業安定所)
 a.条 件
    公共職業安定所または同意書を提出した職業紹介事業者(無料・有料)の紹介に基づき、障害者を継続して雇用する労働者として雇入れた企業を対象にして、「支給対象期間における対象労働者に対し事業主が支払った賃金に相当する額として厚生労働大臣が定める方法(注)により算定した額」の4分の1(中小企業は3分の1)を、重度障害者等の場合は、3分の1を(中小企業は2分の1)を雇入れ後1年間(重度障害者の場合1年6ヶ月間)支給する制度です。
なお、雇入れ日現在における満年齢が65歳未満の者に限りますし、重度障害者等のうち短時間被保険者での雇用の場合には1年間となります。
    また、受給に際し常用労働者を事業主の都合により解雇(勧奨退職を含む)していないことなど他にも条件があります。
     (注)雇入れ日の属する年度の前年度に係る労働保険料確定算定の基礎とった賃金総額より1人当りに支払われた賃金額を算出し、更に2分の1を乗じ、等級表により基準賃金額を確定します。
 b.受給手続
    1回目の申請は雇入れ日(賃金締切日が定められている場合は、雇入れ日直後の賃金締切日の翌日とし、雇入れ日が賃金締切日の翌日の場合は雇入れ日)から6ヶ月経過した翌日から1ヶ月以内に公共職業安定所に提出しなければなりません。2回目は、更に6ヶ月経過後に申請する必要があります。(重度障害者等は、3回)
なお、支給申請書には、対象者本人の署名と捺印が必要です。
 c.留意事項
    申請期限および他の申請書類、記載方法など詳細について、公共職業安定所に問い合わせしてください。なお、申請時には障害者手帳の提出を求められますので、本人の承諾を得て写しをとっておくと良いでしょう。

(2)障害者雇用納付金制度に基づく助成金 (窓口:各都道府県障害雇用促進協会)
    障害者を雇用するに当たり、企業が本人の能力と適性が十分に発揮されるよう、作業施設などの設置や整備を行う場合は、これらの企業に対して予算の範囲内において助成金を支給することによって、その経済的負担を軽減し、障害者雇用の促進と定着をはかるための助成制度です。

    この助成金を受給しようとする場合には、定められた期間内に、各助成金の「受給資格認定申請書」と添付書類を整備し、該当する障害者が勤務している事業所の所在地を管轄する障害者雇用促進協会(雇用開発協会を含む)を経由して、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構に提出しなければなりません。
  a.障害者作業施設設置等助成金
     この助成制度には、「第1種作業施設設置等助成金」と「第2種作業施設設置等助成金」の2種類があります。
     申請に関し特に注意すべきことをあげると次のとおりです。
     o 第1種の申請書は、助成対象となる施設等の設置または整備を行おうとする日の原則として2ヶ月前までに、必要資料を添えて事業所を管轄する障害者雇用促進協会に提出する必要があります。
       また、第2種の申請書は、受給資格認定申請に係わる賃借契約が行われる日の前日から起算して2ケ月前の日から賃借契約の行われた日の翌日から起算して3ケ月後までに同協会に提出します。
     o 申請書の提出前に助成対象施設等の設置または整備に着手している場合や物品の購入を行うと、助成金の申請ができなくなります。したがって、受給資格認定日以降に着手することが重要です。
     o 過去に第1種と第2種のいずれかの作業施設 設置等助成金の支給対象となった障害者が離職した場合、障害者の補充がされていなければ、この助成金の新規の申請はできません。
@第1種 作業施設設置等助成金
 o対象となる企業
   障害者を雇い入れる、または継続して雇用しており、その障害者のため
 に施設、または設備の設置または整備を行う企業です。
 o対象となる作業施設等
  ・作業施設 : 障害者の障害を克服するために配慮したもので、その配慮さ
       れた部分のみが助成対象となります。
   (例)へルスキーパーとして雇用する場合の作業場の設置や改装等
  ・附帯施設:障害者が障害を克服し、就労することを容易にするために必
       要な附帯施設を対象とします。
   (例)点字ブロックの設置や手すりの設置等
  ・作業設備:障害者の作業を容易にするために、必要な設備や機器を購入
       する場合に適用されます。
   (例)パソコン、盲人用音声化ソフト等 
 o支給額
  ・支給対象経費:作業施設等の設置または整備に要する費用の3分の2
  ・支給限度額:障害者1人につき450万円(作業設備150万円)
         1会計年度につき、1事業所当たり4,500万円
A第2種作業施設設置等助成金
 o対象となる企業
   障害者の作業を容易にするために必要な施設または設備を賃借する
  企業です。
 o支給額・支給期間
  ・対象経費:作業施設等の賃借による設置に要する費用の3分の2
  ・限度額 :視覚障害者1人につき1ケ月13万円(作業設備月30万円)
  ・期 間 :3年間

b.重度障害者介助等助成金 
     o対象となる企業 
       重度の障害者を雇い入れるか現に雇用しており、障害の種類または程度に応じた適正な雇用の管理のため必要な介助等の措置を実施する企業です。
     o対象となる障害者
       身体障害者手帳1・2級の重度の視覚障害者
     o支給額・支給期間
        ・対象経費:措置に係る費用の4分の3
        ・限度額  :職場介助者の委嘱 … 委嘱1回 1万円( 年24万円まで)
         (注)事務的業務以外の視覚障害者の介助者
        ・支給期間:10年間
c.重度障害者通勤対策助成金
     o対象となる企業 
       重度の障害者を雇い入れるか現に雇用しており、その障害者の通勤を容易にするための措置を実施する企業 
     o対象となる障害者
       身体障害者手帳1・2級の重度障害者、3級の視覚障害者 
o支給額・支給期間
        ・対象経費:措置に係る費用の4分の3
        ・限度額:住宅の賃借世帯用 :月10万円、単身者用:月6万円
        ・住宅手当の支給・障害者1人:月6万円
         (注)障害者以外の従業員を上回る金額を助成対象とする
        ・支給期間:10年間

(3)障害者雇用継続援助事業に基づく助成金
  a.制度の概要
    採用後、労働災害、交通事故、疾病などのために障害を有するに至った、いわゆる中途障害者については、障害の故に離職を余儀なくされる場合が少なくありません。
    また、離職に至らないまでも、その雇用を維持するために企業が何らかの経済的負担をせざるをえない場合があります。これを受けて、企業が中途障害者の雇用を継続するため、作業施設・設備の設置、整備や職場復帰に当たっての職場適応措置を行う場合に、これらの措置に要する費用について予算の範囲内において助成金を支給することによって、中途障害者の雇用の継続をはかるものです。
 b.受給手続
    この助成金を受給しようとする場合には、定められた期間内に、各助成金の「受給資格認定申請書」と添付書類を整備し、申請事業所の所在地を管轄する障害者雇用促進協会(雇用開発協会を含む)を経由して、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構に提出しなければなりません。
 c.留意事項 
    受給資格の認定審査結果は、「助成金受給資格認定通知書」(または「助成金受給資格不認定通知書」)により通知をしてきますので、作業施設・設備の改善は、助成金の「受給資格認定」後に着手してください。


あとがき

   株式会社 テプコシステムズ(本社:東京都江東区、小口俊夫社長)では、障害者の雇用の促進を“企業の社会的責任”の一環と位置づけ、平成9年度から4年間で法定雇用率の達成を目指した様々な活動を展開してまいりました。特に、最近の情報機器の高度化・多様化は目覚ましく、障害者への支援機器として有効な手段であり、効果的に導入することが障害者の職域拡大につながるものと確信しています。
   さて、当社の障害者の採用方針は、次のとおりです。
    o 4年間で法定雇用率を達成する。
    o 意欲のある人材を採用し、活躍してもらえるよう徹底した支援活動を行う。
    o 障害の重い人で、定年まで勤める気概のある人材を優先して採用する。
    o 採用責任者としては、当社にふさわしい人材を足で探して、心でたしかめ(労働意欲・障害の受容)、厳しく暖かく育てる。    
   一方、当社は、情報サービス企業であり全ての業務がパソコンを介した仕事です。このため、業務の遂行に伴う身体疲労やストレスから疲れ目、肩こり、腰の痛みなどを訴える方が増えていることを踏まえ、従業員の健康管理と障害者雇用率の向上を目指し、ヘルスキーパー制度の導入を平成11年4月に行いました。
   導入に当たり、マッサージ室の設置条件、備品・消耗品の購入、保健所への届出、ヘルスキーパーの採用、マッサージ室の管理などの準備や管理上の知識やノウハウがなく、国立身体障害者リハビリテーションセンターの白岩理療指導室長にご指導をいただくとともに、既にヘルスキーパー制度を導入している企業の見学など、社外者のご協力を得て企画から3ヶ月でマッサージ室を開設することができました。
   これらのご支援ご協力に感謝するとともに、蓄積した知識やノウハウを生かし、ヘルスキーパー制度の導入を計画しておられる企業に資料提供することが社会貢献と考え、センターの検討委員を仰せつかったことを契機にマニュアルとして発行いたしました。なお、電子データは、当社のホームページ(http://www.tepsys.co.jp)にアクセスされ“指圧マーク”をクリックすれば、閲覧やダビングが可能です。
  この度、第4版の発行に際し、文章全体を見直すとともにできるだけわかりやすくするために、写真や図を挿入することにいたしました。
   

国立身体障害者リハビリテーションセンター
  職場開拓検討委員会委員 清水 俊勝
  株式会社テプコシステムズ 総務部部長
  〒135−0034江東区永代2−37―28澁澤シティプレイス永代
  電話:03−4586−1671
    E-mail:simizu-toshikatsu@tepsys.co.jp





職場開拓検討委員会委員一覧
(平成12年度〜15年度)
氏名企業・団体名・役職任期
荒川 明宏株式会社 ラビット 代表取締役13年度
石井 盛夫八木病院リハビリテーション科科長12年度
伊藤 茂前日本視覚障害ヘルスキーパー協会会長12年度〜14年度
今村 正株式会社 リクルートコスモス 総務人事部長14年度
今市屋 昭三前東光会会長12年度〜13年度
加藤 四郎社会福祉法人 泉陽会理事長15年度
神嵜 孝司前所沢公共職業安定所 統括職業指導官12年度〜13年度
小山 聡子日本女子大学 人間社会学部 助教授12年度〜15年度
清水 俊勝株式会社 テプコシステムズ 総務部部長12年度〜15年度
相馬 勇辻の名倉整骨院 院長15年度
中村 郭司所沢公共職業安定所 統括職業指導官15年度
村上 誠CTCテクノロジー株式会社 取締役リクルート部部長14年度
矢崎 光子大和治療院 院長15年度
矢鋪 滋鶴ヶ岡医院 院長15年度
山田 栄一郎東光会会長(同窓会)、介護老人福祉施設マッサージ師会会長12年度〜15年度
吉川 省吾ソニー生命保険株式会社 人事部課長14年度
秦野 良厚元国立身体障害者リハビリテーションセンター 理療教育部長12年度〜13年度
吉野 保前国立身体障害者リハビリテーションセンター 理療教育部長14年度
竹之内 康国立身体障害者リハビリテーションセンター 理療教育部長15年度
冨田 宏前理療教育課長12年度〜14年度
江口 耕蔵理療教育課長15年度
白岩  豊事務局 理療指導室長12年度〜15年度

平成16年3月31日発行

 発行・編集 : 国立身体障害者リハビリテーションセンター
          職場開拓検討委員会(事務局:理療指導室)
          〒359−8555 埼玉県所沢市並木4−1
          TEL04−2995−3100 FAX 04−2995−3102
           ホームページアドレス
           http://www.rehab.go.jp/index.html

本書と電子ファイルは、ヘルスキーパーの職域拡大を願い作成したものです。
 したがって、盲学校・養成施設の方が本書と電子ファイルを複写複製(コピー、電子入力)する場合、国立身体障害者リハビリテーションセンターに了解を得て行ってください。なお、営利を目的とした複写複製は、著作権および出版権の侵害となります。

※本手引書は、平成16年3月 改訂第4版として出版されたものの電子媒体です。
  発行・編集 職場開拓検討委員など当時のものとなっています。
  内容等に関するお問い合わせは、国立障害者リハビリテーションセンター
  自立支援局 就労相談室までお問い合わせください。 平成22年7月