環境の違いによる脊髄の興奮性

運動機能系障害研究部 佐藤 健 ・中澤公孝・矢野英雄

 H波は、筋神経のIa群線維を電気刺激して得られる単シナプス反射である。このH反射は運動ニューロンの興奮性を示す指標として運動機能状態を評価する指標としてしばしば用いられる。近年、宇宙環境が人体へ与える影響が盛んに調べられているが、脊髄の興奮性に関する報告はほとんど無いのが現状であった。しかし、実際の無(弱)重力環境でのデータは皆無であり、そのほとんどが水中環境あるいはHDBR(head down bed rest)環境で行われる場合が多い。さらに、その環境の変化が筋神経系に与える影響は十分に調べられていない。
 本研究では、20日間のHDBR前後のH反射を測定し、環境の違いによるH反射の変化を調べた。

 被験者は、男性4名の健康な学生で、事前に実験参加への同意を得た。HDBR前(コントロール)とHDBR直後において被験者が静止立位姿勢を保持している時のヒラメ筋におけるH反射を測定した。膝窩部への電気刺激は、1ミリ秒の矩形波を与えた。刺激強度は漸増しながら、全ての被験者でMmaxになるまで測定した。
 1. 全ての被験者から、HDBR前後の静止立位姿勢保持中のH反射のリクルートメント カーブを記録した。
 2. 4名の被験者中3名のMmaxがHDBR後に減少する傾向があった。
 3. 4名の被験者中3名のHmax/MmaxがHDBR後、減少し統計的な差があった。
 4. 20日間のHDBRによる生活荷重環境の変化が脊髄の興奮性に及ぼすことが認め られた。
 したがって、H−reflexは、長期間の人体不活性な環境によって抑制される ことがわかった。




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