高次脳機能障害を有する患者の家族指導
 〜家族参加型メモリーノートの活用を通して〜

医療相談開発部 心理 四ノ宮美恵子・秋元由美子・土屋和子・尾崎聡子・小沢哲史・原田由布子・乘越奈保子

1.はじめに

  高次脳機能障害を有する患者は、家族等のサポートがないと地域生活を行なうのが困難である場合があり、家族の役割が大変大きなものとなる。家族参加型メモリーノートは、患者の記憶補償手段であると同時に、患者と家族との情報交換の手段としての伝言板機能を加えることにより、双方向のコミュニケーションの場を提供する。そしてその活用を通して、家族が障害を理解し、受容し、かかわり方の手がかりを得て、家族関係を再構築していくことを目指している。ここでは、特に家庭の中で主婦としての役割を遂行する患者に対しての指導事例を取り上げる。

2.指導方法

(1)ノートの構成:患者本人が記入する予定・実際欄
  家族が外出先や帰宅時間を書く欄
  電話メモ、当日の献立、日記欄など(患者一人一人の生活様式に応じて)
(2)使用方法:その日に患者が書いた記録を、夜家族と一緒に見ながらその日の振り返りをし、次の日の予定を一緒に記入し確認する。
(3)指導手順:
  @家族参加型メモリーノートの目的を説明し、活用に向けての導入をはかる
  Aその場で患者と家族で一緒に記入の練習をしてもらい、在宅生活の中で一定期間活用してもらう
  B活用の状況をふまえ、次の指導場面でより有効な記入の仕方や活用法を指導し、家族には、患者へのかかわり方を助言指導すると同時に、患者との関係性を模索する上での心理的サポートと助言を行う

3.結果と今後の課題

 家族参加型メモリーノートの活用指導を通して、家族の障害認識が深まり、患者へのかかわり方にも変化がみられた。キーパーソンである夫の変化に伴って、夫以外の家族にも変化が見られ新たな状況下での家族関係が再構築された。患者はこのノートに家族が参加することで記憶の補償手段が強化され、ノートを活用することで家族の一員としての役割を回復し、自信を取り戻し自尊感情を回復することができた。またコミュニケーションの量が増えることにより、家族の中に自分が存在しているという安心感を持ち、不安や孤独感の軽減がなされた。今後はさらに、このノートを地域との情報交換の手段としても活用の幅を拡げ、患者と家族が地域生活を送るための支援のツールとして、指導プログラムを発展させている。




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