トゥレット・聴覚障害を伴う自閉症成人の収集癖に関する考察と支援

国立秩父学園 松上耕祐、村上功二、林克也、室橋弘文、入江ゆみ子、吉野邦夫

1.はじめに

 トゥレット障害は、自閉症に合併すると、固執や強迫的行動がより強くなる傾向が あると考えられている。本事例は、目的遂行に手段を選ばず、硝子を割って部屋に侵入する 程の広告類の収集癖を持つ。今回、広告収集癖に起因する不適切行動について、視覚的な 構造化とコミュニケーションアプローチによる支援を試みたので報告する。

2.対象者

 成人男性、重度自閉症、知的障害、トゥレット障害、高度難聴、脳波異常(服薬なし)。  発達検査:SM=4:6、PEP-R合格ライン=1:8

3.方法と結果

T期 広告収集時の不適切行動評価
・方法 1.記録の掘り起こし 2.直接観察とビデオ撮影
・評価 1.入手のための行動は手段を選ばない。2.サイン言語や身体での禁止・命令は伝わらず、 自傷や啼泣を誘発。3.獲得物の機能は二分(1.道具として使う物 2.強迫的に収集する物)。 4.コミュニケーション:収集のための要求手段を持たない。5.他部署での叱責・禁止が多く、 自傷を誘発し易い。
U期 適切な収集行動と要求スキルの獲得指導
・方法 1.広告収集時の行動をスケジュール化。     2.コミュニケーションボードの使用(道具として使う物の写真をボードで呈示)。
・U期の結果 1.広告収集行動はスケジュールに沿って出来だしたが、収集時の不適切 行動は減少せず。2.出かける際、スケジュールを要求するコミュニケーションが出始めた。 3.寮内では、ボードで適切な要求が出せるようになり、道具として使う物の入手時の 不適切行動は消失。
V期 受容性コミュニケーション・援助の幅を他部署へ拡大 (1)方法 1.入室禁止を写真・文字で視覚化、扉に貼付。 2.他部署職員に障害特性の説明と、 援助方法の依頼。
(2)V期の結果 1.貼付物を見て入室禁止場所に入らなくなった。  2.不必要な禁止、叱責がなくなり、自傷が減少。 3.チックが著しく減少。

4.考察

 1.スケジュール携帯は、広告収集時の見通しを持つツールになった。2.要求の コミュニケーションを出せる環境設定で、不適切行動が減少。3.禁止・命令の伝達に、 サイン言語の視覚化は有効。4.支援者の援助方法の統一と、一貫性は必要。 5.チックが減少し、表情が穏やかになった。E薬物使用の検討はしなかった。

5.結論

 トゥレット障害を合併する自閉症者の拘り行動や、それに伴う自傷・パニックに対し、 要求のコミュニケーションスキルを伝え、構造化や人的支援を含めた環境調整により、 適応的な行動変容が図れた。




前頁へ戻る 目次へ戻る 次頁を読む