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センターだより増刊(平成26年1月28日付)ウェブ版 もくじ

見えない壁を乗り越えよう〜旅行体験記〜
茶の間プロジェクト

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「見えない壁を乗り越えよう」〜旅行体験記〜

 視覚障害のある人がより生活しやすくなるような情報や、支援する人がどうすれば良いのかをわかりやすく解説する記事をお届けします。
 今回は「見えない壁を乗り越えよう」と題して、ロービジョンの人が旅行をしたときの体験をもとに、いろいろな手段や介助のポイントをお伝えします。
 今後もいろいろな情報をわかりやすく皆様へお届けしていけないか検討していきたいと考えています。
 ご感想などをお寄せいただければ幸いです。


  画像1:ナオミさんイメージ 画像1:ナオミさん 30代女性 OL 趣味はカラオケ 網膜色素変性症のロービジョン

 季節はすっかり冬ですね。皆さん風邪などひいてないですか?
 私は視覚に障害をもっています。全盲ではなく、いわゆるロービジョン(注1)です。
 先日、遠隔地に住む友人と旅行に行ってきました。
 その一日目の様子を書いて私のような障害をもっているとどんなことに困るのか、どういう助けがあればうれしいのか、などを書いてみます。

 ☆旅の準備はメールでスムーズに

 最初は友人と、メールで行き先の相談。結局、私の希望したリゾート地に決定。
 メールは画面を拡大すれば読めるし、今回のように行き先でもめたりするときは、電話での長話しよりずっと経済的。それに電話だと同音異義語がわかりにくいのでメールのほうが便利です。

 目的地が決まったら、今度は宿探しです。
 Webでバリアフリーの宿を検索して、良さそうな宿を発見。
 Webからの予約はちょっと難しそう(注2)だったので、宿に直接電話、連休期間中でしたが部屋は空いていてラッキー。
 宿には視覚障害者であることは伝えておきます。

 次は列車のチケットの予約。
 友人から指定された列車をみどりの窓口で予約。
 その後「お客様センター」に立ち寄って、改札から乗り場まで迷わないように当日の介助を依頼。
 これを忘れないでおくと、よりスムーズに。

 ☆旅行当日、駅での介助

 友人の待つ駅までは一人旅。駅ではお客様センターの人が指定席まで案内してくれました。どうやら私を、「全盲」と勘違いしていたようです。
 まだまだ「視覚障害者=まったく見えない人」という誤解は多く、点字ブロックの色(注3)を塗り替えてしまうケースもまだ多いという。
 でも、トイレの場所を聞いておくことを忘れたのは失敗。行く可能性があるところは、ちゃんと場所を確認しておくことが大事ですね。
 目的の駅に到着。乗降口は確認しているので、一人でスムーズに下車できました。

 友人がホームに迎えに来てくれているはずなので、上手に目を動かして探索(注4)
 壁際に立っている友人の姿を発見。連絡通りの色の服装。レンタカーを借りたというので、車で宿まで行くことになりました。
 でもその前におみやげを買えるところに寄ってもらう。
 買うときは、以前教えたとおりに移動介助してもらう。教育の成果があらわれたのか意外と上手く介助(注5)してくれる。

 ☆宿では料理を時計回りに

 宿に到着。まずはお風呂に入る。
 実は、ロービジョンの人にとって、宿のお風呂は微妙に暗くて苦手な場所の一つ。ここのお風呂は?と思ってのぞいてみると、結構明るい。段差にも手すりがついていて、さすがバリアフリーの宿。こういう配慮があると私のようなロービジョンでもあまり困らないで入浴できる。

 お風呂上がりに少しの間のんびりして、お待ちかねの夕食。
 料理がテーブルいっぱいに並んでいるけど、どれがどんな料理?友人に、右端から順番に説明(注6)してもらって、さらに時計回りに料理を並べ替えてもらう。こうしておけば、「お刺身はどこ?」ときいても「2時の位置」と答えれば済む。
 さて、今日のメインは陶板焼き!これは私には苦手な料理。お肉の焼き加減が自分で確認できない。
 すると友人が私の分も焼いてくれる。なかなかやるね。でも、焼き加減の好みはこちらに確認してほしいね。(笑)
 夕食後はもう寝るだけ。友人はかなり眠たそう。仕方ないので私が最後に電気を消す役に。スイッチの場所(注7)だけは教えておいてもらう。
 そうそう、明日も旅行の続きがあることを忘れないでね(笑)

 ☆見えにくいは『何もできない』ではない

 今回の旅行で友人は、「見えにくい=何もできない」ではないことをあらためて知ったようだ。
 確かに見えにくい不便さはあるけど、今回だって、現地まで自分で移動できたし、できることは結構ある。
 一人でできるって、けっこう気持ちいい。私の方も学ぶ事がある。

 今日も、「白杖を持っている人と一緒に歩いていて嫌な気持ちしない?」って聞いたら、「白杖まで含めてあなたでしょ」って言われてしまった。
 私自身が心の中にバリアを作っていたようだ。ちょっと反省。
 さて、明日に備えて、私も寝よう。ではお休みなさい。

【ワンポイント解説】
(注1)ロービジョン
様々な定義があるが、ここでは、「まったく見えない(全盲)ではなく、残された視覚機能などをある程度活用できる人」の意味で用いた。なお、同じ疾患や障害程度であったとしても見え方は人それぞれで違い、その日の体調や天候等によっても見え方が変わることがある。
(注2)Webからの予約はちょっと難しそう
Webページのレイアウトによっては、画面拡大すると読みにくいページがあったりする。フォーム入力だと、割と操作しやすい。
(注3)点字ブロックの色
景観保護などの理由で点字ブロックをあえて目立たない色に塗り替えてしまっているケースもありますが、これではバリアフリーとはいえません。黄色など路面の色とコントラストのある色が必要です。
(注4)目を動かして探索
視野が狭い人(網膜色素変性症など)の場合、ただきょろきょろ目を動かすだけではなく、例えば、右から左へ、といったように順番に目を動かし、見えている範囲を少しずつずらしていくことで、結果的に全体をイメージすることができます。
(注5)介助
移動介助のこと。「ガイドヘルプ」「手引き」などという場合も。基本姿勢、狭い場所の通過など、様々な介助方法がある。慣れない人が介助すると、例えば足下に段差があっても視覚障害者に伝えるのを忘れたりしがち。今回の旅行では、「5pくらいの段差があるよ」、「ここから少し狭くなるよ」などと伝えてもらえました。
   画像2:移動介助の基本姿勢    画像3:狭い場所の通過
 画像2:移動介助の基本姿勢  画像3:狭い場所の通過
(注6)右端から順番に説明
見えにくい人にとっては、「あっち、こっち」の説明はわかりにくい。今回はテーブルに横並びで料理が並んでいたので、右端から順番に説明したが、お皿を時計の文字盤の位置で並べ、「3時にお刺身」「9時に茶碗蒸し」などと説明する方法(クロックポジションといいます)もあります。
(注7)スイッチの場所
部屋にあるスイッチ類も、見えにくい人にとっては見つけにくい。特に、スイッチと壁の色が同系色だと、本当に見つけにくい。でも、場所が分かれば、今回のように自分で照明を消すことができます。「見えにくい=できない」という訳ではないのです。


茶の間プロジェクト

   写真1:茶の間全景 写真2:茶の間に憩う
    写真1:茶の間全景           写真2:茶の間で憩う人々の写真
 

ちゃぶ台を囲み家族のように団欒できる空間を

 函館視力障害センターは今年、創立50周年を迎えます。
 当センターが所在する函館は北海道では随一の歴史と伝統のある街です。
 美しい自然景観とともに数々の貴重な建築物などが大きな魅力となっています。

 創立50年を機に、当センターもこの歴史ある街にふさわしい新たな価値を創造し、未来へ継承していきたいと考えました。
 そこで、小さな部屋ではありますが、建築家と綿密な打ち合わせを重ねて、函館の伝統建築がもつエッセンスを取り入れつつ、現代の技術と視覚障害者への配慮を盛り込んだ「茶の間」を造りました。

 ここは利用者同士が交流を深める場です。
 大きな栗の木のちゃぶ台を囲み、みんなが気軽に家族のように団欒できる、日本の家族の原点でもある「茶の間」のような空間を目指しました。

 主要な建材はすべて自然素材を使っています。
 やさしい手触りや空気の浄化作用、調湿性、断熱性、吸音性などの向上、火災時の有害ガス発生軽減など、感覚の鋭敏な視覚障害者の方がより快適で安全に過ごせるのではないかと思います。

 以前は窓辺を大きな暖房機がふさぎ、視覚障害の方には避難上も不便な状態でした。
 そこで暖房の形式を改めて暖房器具は足元に納め、窓辺は縁側として使えるようにしました。
 また、畳は無農薬の藺草(いぐさ)で表替えし、部屋の中心に移しました。
 また要所の色彩コントラストを明確にし、上がり框(かまち)の表面仕上げを変えるなど視覚障害者が使いやすい工夫もほどこしました。

 床や建具、家具には無垢の道産材を使っています。
 本来の素材感などを触感や嗅覚でも味わえるよう、木の香りと成分が損なわれない低温乾燥で製材したものです。
 障子や格子、縁側、框、畳、ちゃぶ台など和のテイストが盛りだくさんの茶の間ですが、ステンドグラスやダウンライト、椅子とテーブルなどの洋の要素も取り入れ、まさに和洋混交建築が特徴的な函館にふさわしい空間になりました。

 (企画・設計・監理/富樫雅行建築設計事務所 施工/LIB繁工務店 家具/鈴木木材有限会社)

「茶の間」ができるまで

 「茶の間」の完成には、建築士や大工のみならず、利用者や職員が一丸となって取り組んできました。
 その中でも、職員や利用者も一緒に体験した取り組みに注目してその様子をご紹介します。

 1.まずは木材選びから

 自然素材にこだわりぬいて作った「茶の間」。
 まずは厚沢部町の材木屋に行き、実際に見て触れて木材を選びました。すべて低温乾燥した北海道産です。
 床板には道南スギ、本棚にはホオの木、ちゃぶ台にはクリの木、TV台兼下駄箱兼ベンチにはイタヤカエデなど用途に応じて多様な木材を選びました。
  写真3:木材選び(1) 写真4:木材選び(2)
   写真3:木材選びの写真(1)      写真4:木材選びの写真(2)

 2.みんなで浮造(うづくり)ワークショップ

 利用者と職員で、床板の表面の仕上げを行いました。
 浮造(うづくり)仕上げです。板の表面をカヤの束で削っていくと、木目の部分があざやかに浮き上がります。
 触るだけでも木目がわかるようになって、床も滑りにくくなります。
 利用者の皆さんの集中力はすごかった。
 「とても貴重で楽しい体験ができました」と喜んで下さいました。
  写真5:浮造(1) 写真6:浮造(2)
   写真5:浮造ワークショップの写真(1) 写真6:浮造ワークショップの写真(2)

 3.塗装もワークショップでみんなと

 腰板は、弱視などの方たちが、色のコントラストで壁の位置や境目などがわかりやすくなるように4色で塗り分けました。
 自然塗料でとてもカラフルな色に仕上がっています。
 腰壁の裏には3センチの空間があり、下の放熱器から上向きに暖かい空気の自然な対流がおきるようにしています。
  写真7:塗装体験 写真8:塗装の状況
   写真7:塗装ワークショップの写真  写真8:塗り分けられた壁の様子の写真

 4.最後は自然農法での米ぬかを使った床磨きで完成!

 最後は自然農法で作られた米ぬかで床磨きです。
 見学に訪れた学生さんにも、アイマスクをつけた床磨き体験をしていただきました。
 米ぬかは磨けば磨くほど植物性の油分が木にツヤを与え表面を保護してくれます。
 こうしてみんなで手がけて完成させた「茶の間」が末永く大切に使われることを願っています。
  写真9:床磨き
   写真9:アイマスクをした床磨き体験の写真



  お茶の間ビフォーアフター
  写真10:ビフォア 写真11:アフター
   写真10:以前の居室の写真               写真11:アフター、茶の間の写真

  和洋折衷、入口ドアのステンドグラス
  写真12:入口ドア
   写真12:入口ドアの写真
 企画発行
 国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局函館視力障害センター
 042-0932 函館市湯川町1-35-20