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センターだより第44号(平成27年9月1日)ウェブ版 もくじ

A子さんの3年間
見えづらい方の生活に役立つ便利グッズの紹介(料理編)
「茶の間」のご紹介
利用者募集案内

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1.A子さんの3年間
 私はA子。2X才、北海道○○市在住、全盲です。
 高校卒業後、経理の仕事に就いたのですが、視力が落ちて続けられなくなりました。
 働きたい気持ちを抑えて日々を過ごしていたある日、知人から『函館視力障害センター』の話を聞きました。
 でも、就労移行支援と自立訓練、私にはどちらが良いの?
 思い悩んで電話をしたら、「一度見学に来てみませんか?」と言われました。
 初めての函館、母と一緒に授業や実技を見学して、色々な説明を聞いているうちに、「あん摩の資格が取れたら良いかな…」と思いましたが、はたして私に資格を取るための勉強が出来るのでしょうか。

  写真1:桜のつぼみの写真 写真1:桜のつぼみの写真

 【1年生、4月】
 いよいよ入所式。「就労移行支援で頑張ろう」と決心してから、あっという間でした。
 何となく『あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師』の事はわかっているつもりでしたが、更に詳しい話を聞いて「やっぱり大変そう」と不安になりました。
 そんな私の気持ちに応えるように、本格的な授業が始まる前の二週間、『初期学習支援講座』が実施されました。デイジーという音声教材の使い方、パソコン画面を読み上げるアプリの使い方などで、道具は全て借りられます。弱視の同級生が拡大読書器の使い方を習っている間、私は点字を習いました。勉強の仕方が決まってきて、少し安心できました。

  写真2:正面玄関の入所式の看板の写真 写真2:正面玄関の入所式の看板の写真

  写真3:点字板で点字を打っている様子の写真 写真3:点字板で点字を打っている様子の写真

 講座で疲れた心と体は、湯川温泉が癒してくれます。宿舎のお風呂が温泉だなんて、びっくり!
 それに、生活リズムが整ってきて体調が良くなったのにも、我ながら驚きました。

 【1年生、12月】
 7月の全学レクリエーションで函館近郊の大沼公園に行った時、介助の先生から「A子さんの自宅がある○○市で、卒業生が施術所をやっているよ」と言われました。
 その時は「見学してみたいけれど、進路の事を考えるのは早すぎるのでは」と思いましたが、冬休みを前に、やっぱり帰省の時に尋ねてみたいと思い直して、進路係の先生に手配をお願いしました。
 実際に見学してみると、早すぎる事はなかったとわかりました。
 大先輩の院長さんから「将来を見すえて勉強するのはとても大切なこと」と言われてハッとしたのです。目前の試験対策も、実技の練習も、全てが未来の私につながっていくんだ…そう思いました。

  写真4:施術中の写真 写真4:施術中の写真

 【2年生、5月】
 2年生に進級して一息ついたのも束の間、札幌の医科系の大学で、解剖見学実習がありました。
 医大生の皆さんの解剖実習に、一緒に参加させて頂くのです。
 黙祷の後、教授や学生さんが私の手を取って、丁寧に内臓や筋肉などの説明をしてくれました。
 何度も模型で確認していましたが、ご献体に触れ、模型とは違う点も多くて、たくさんの気づきがありました。
 実習の事前説明の時に、なぜ必要なのかな?と思った自分が恥ずかしい…。患者さんには、私たちに体をゆだねて頂くのですから、模型ではなく、本当の内臓や筋肉などの事を知っておく必要があるんですよね。
 まだまだ勉強不足の私。貴重な体験をさせてもらい、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

  写真5:当センターの基礎医学教室の写真 写真5:当センターの基礎医学教室の写真

 【2年生、10月】
 9月の期末試験の後、実技の力をつける為に、放課後のあん摩合同補習に参加する事にしました。
 この補習は通称『あん摩クラブ』と呼ばれていて、学年に関係なく、実技担当の先生や外部講師から習えるのです。
 授業だけでは覚えきれなかった事をしっかり復習できますし、先輩と交流できたのも、大きな収穫でした。
 交流といえば、視覚障害者向けスポーツを楽しむ、自治会主催の『スポーツ交流会』のゴールボール部門で、クラスが一致団結して優勝出来たのも、とても良い経験でした。

  写真6:ゴールボールをしている写真 写真6:ゴールボールをしている写真

 【3年生、7月】
 3年生になると一気に受験ムードが高まります。年3回の模擬試験、受験対策の補習、進路別臨床講座、施術所の見学など、就労に向けた準備が目白押しです。
 週3回、地元の方に患者として協力していただく臨床実習にも慣れてきました。
 1年生の時に見学させてもらった、私の地元の施術所の院長さんとは、その後も時々メールを交換していましたが、「この夏もまた見学を」とお願いのメールを出すと、「A子さん、今回は就職を前提にいかがですか?」という返信が届き、感激して何度も読み返しました。
 ずっと憧れていた施術所だからです。何てラッキーなのでしょう!国家試験に、絶対に受からなければ!と決意を新たにしました。

   【3年生、3月】
 今日は卒業式。2月末の国家試験の結果は3月末にならないとわかりませんが、自己採点の結果が良かったので、地元の施術所への就職話を進めています。
 自宅から施術所までの通勤路は、一人で歩けるようにと、職員がチームを組んで地元で指導してくれる事になっています。
 後輩からの送る言葉、同級生のお礼の言葉を聞いているうちに、何だか涙があふれてきました。
 「あれ、A子さん、泣いてるの?」
 と、からかうように言った隣席の同級生も、涙声でした。
 視力と一緒に夢も失ったように思っていた3年前の自分と今の自分とでは、まるで別人です。
 たくさんの人のお世話になって、たくさんの人に支えられて、視力が無くても…いいえ、視力が無いからこそ、ここまでたどり着けたのかもしれません。

  写真7:卒業式会場の写真 写真7:卒業式会場の写真

  写真8:満開の桜の写真 写真8:満開の桜の写真

2.見えづらい方の生活に役立つ便利グッズの紹介(料理編)
 ユニバーサルデザインという言葉を聞いたことがありますか?
 ユニバーサルデザインとは、子供から高齢者まで幅広い年代の方が使いやすいようにデザインされた製品、情報等の総称です。
 見えづらい方の生活を便利にする物も多々あり、当センターでは、見えづらい方にとって使いやすい道具を、便利グッズと呼び、利用者へ紹介しています。
 「見えづらい方はどのような便利グッズを使用して生活しているのでしょうか?」
 今回は、日常生活場面で特に問い合わせの多い、“料理時に役立つ”便利グッズをご紹介いたします。

 (1)黒いまな板
 白いまな板の上で、大根やタマネギを切ると、白色が強調され、見づらいですよね。
 そんな時は黒いまな板を使用すると、コントラストが良くなり、視認性が増します。
 以前は黒色の商品が主流でしたが、最近では、100円ショップでも赤色、緑色等、いろいろな色のまな板シートが取り扱われています。
 まな板の上に「その方にあった見やすい色」のシートを置いて、代用するとよいでしょう。
 類似品で黒い茶碗、黒いしゃもじも販売されています。

  写真9:黒いまな板は晴眼者でも便利 写真9:黒いまな板は晴眼者でも便利

 (2)計量ポット プッシュワン・押し加減
 液体調味料を一定量注げる容器です。適量以上は出ないため、小さじ、大さじの量を簡単に注ぐことができます。
 利用者の中には、液体洗剤を入れて洗濯時に使用している方もいます。

  写真10:押すと一定量しかでないプッシュワン 写真10:押すと一定量しかでないプッシュワン

 (3)電子レンジ用関連商品
 電子レンジで蒸し作業に使えるシリコンスチーマーは、蒸し器を用いるより短時間で手軽に使える商品です。
 100円ショップでは、ご飯専用、インスタントラーメン専用、スパゲティ専用等、様々な電子レンジ用の関連商品が販売されています。
 火を使うことに抵抗がある方には、電子レンジで魚が焼けるお皿もお勧めです。

   写真11:シリコンスチーマー 写真11:シリコンスチーマー

 今回は、料理の際に便利なグッズを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
 見えづらく生活に困っている方がいらっしゃったら、これらの商品をご紹介いただくと共に、生活が便利になりそうな良い商品があれば、ぜひ当センター支援課まで、ご連絡の上、ご教示いただけたら幸いです♪

 その他の便利グッズや補助具等の情報については、当センターのブログでも紹介しています。興味のある方はぜひご覧下さい。
 函館視力障害センターブログ(外部リンク) http://hakodatecenter.blog.so-net.ne.jp

3.「茶の間」のご紹介
 「我が家にいるようにくつろげる談話室」をコンセプトに、平成25年に宿舎棟に完成した「茶の間」。
 北海道産の木材をはじめとする自然素材をふんだんに使って、やすらぎと心地よさを感じられる空間を目指しました。ここに、その概要をご紹介します。

 【公共建築物等における木材の利用の促進】
 これまで公共施設などの建物において、木造建築は例外的にしか認められてきませんでした。
 しかし、国内の森林を積極的に活用することや、木材の優れた性質をもっと建築に活用していく観点から、その方針を大転換したのが平成22年の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の制定です。
 その後、多くの施設や学校などで、木造の建物や木を使った内装が増えてきています。

   図1:文部科学省「全国に広がる木の学校〜木材利用の事例集」より 図1:文部科学省「全国に広がる木の学校〜木材利用の事例集」より

 【北海道産の木材を利用・調湿する建物】
 「茶の間」で使用した木材は、家具も含めてほとんどが北海道(道南)産です。
 内装には、調湿ができる自然素材を使っており、シックハウスの心配もほとんどありません。
 夏の蒸し暑い日に、茶の間の隣室と湿度を比べてみました。隣室は、広さは同じですがビニールクロスを使った普通の居室タイプです。
 数時間部屋を閉め切ると、茶の間の湿度は59%、隣室は70%になり、驚異の調湿性能が証明されました。

    写真12:茶の間の写真 写真12:茶の間の写真

4.利用者募集案内
 当センターでは、就労移行支援(養成施設)、自立訓練(機能訓練)の利用者を募集しております。
 利用を希望される方がおられましたらご案内いただきますようよろしくお願いします。

 ・就労移行支援(養成施設)
 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師を養成するための教育・訓練を行います。
 平成28年度の利用開始は平成28年4月です。

 ・自立訓練(機能訓練)
 視覚障害により日常生活動作が不自由になった方に生活技術(歩行、点字、パソコン、調理等)の習得のための訓練を行います。
 随時募集しており、手続きが済み次第利用開始可能です。

 利用をお考えの方は下記までお気軽にご相談ください。
 電話:0138の59の2751(内線 225)
 E-mail: shien-hkdt @ rehab.go.jp

 企画発行
 国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局函館視力障害センター
 042-0932 函館市湯川町1-35-20