更新:2019年4月17日

国立障害者リハビリテーションセンター病院
再生医療リハビリテーション室長 緒方徹


ここでは脊髄損傷に対する再生医療について現状と内容を解説します。

脊髄再生医療とは何ですか?

脊髄は脳と手足をつなぐ神経の通り道(神経回路)で、怪我などで神経に傷がつくと手足の感覚や動きが障害され、重度な時は全く動かせず、感覚もない状態(運動感覚完全麻痺)になります。また、一部の動きが残っている状態(不全麻痺)には歩ける状態から、わずかに手足が動かせる状態まで大きな幅があります。従来、こうした脊髄神経はいったん傷がついてしまうと回復させることは困難で、麻痺もけがをして数か月はある程度の自然回復がみられるものの、そのあと回復させる治療法はないと考えられてきました。

再生医療は脊髄神経そのものに治療を行い、新しい神経回路を作ることで麻痺を治そうとするものです。その方法はさまざまですが、一般的には脊髄に細胞を移植する、あるいは薬を投与することで、脊髄神経の働きを変化させることがその治療原理です。

再生医療にはいろいろな種類があるのでしょうか?

現在、海外も含め様々な研究がおこなわれており、再生医療の方法としていろいろなやり方が提唱されています。大きく分けると以下のようになります。

  • 細胞をつかうか、あるいは薬をつかうか
  • 細胞を使う場合、それは自分の細胞(自家移植)か、あるいは他人の細胞(他家移植)か
  • 細胞を移植する場合、脊髄に直接移植するか、点滴などで投与するか

大阪大学が実施している自家嗅粘膜組織移植は先進医療という制度の中で行われており、この治療は自分の鼻腔から細胞を取り出してそのまま脊髄に直接移植する治療となります。

一方、様々な細胞に分化する機能を持つ「幹細胞」を用いた治療は再生医療法に基づいて導入が進められています。2018年12月に札幌医科大学とニプロ株式会社が開発した自家骨髄間葉系幹細胞の静脈投与が再生医療等製品として承認されました。この治療は自分の腸骨(骨盤)から採取した骨髄細胞の中に含まれている幹細胞を体の外で培養することで増やし、静脈への点滴投与で体に戻す治療法です。投与された細胞は損傷脊髄などにたどり着き、そこで機能を発揮すると考えられています。今後、「ステミラック」と名付けられたこの細胞が急性期(受傷から1か月以内)の脊髄損傷の治療に用いることができます。当面は臨床研究として札幌医科大学でのみ実施される見通しです。

また、研究が進んでいるiPS細胞による治療では他家移植(細胞バンクからの提供)が検討されています。慶應大学が開発したiPS細胞から作成した神経前駆細胞(神経系の幹細胞)の損傷脊髄への移植治療は臨床研究として2019年2月に厚生労働省で了承を得ています。2019年秋から安全性確認を中心とした臨床試験が開始される見通しです。

再生医療は誰でも受けられるものですか?
また、受ける場所は決まっていますか?

他の医療的治療と同じように、再生医療にも適応基準といって、どのような状態の患者さんに対して実施するかが定められています。現在すでに実施されている大阪大学での自家嗅粘膜組織移植の適応基準は以下の通りです。
・年齢が40歳以下であること、下肢の運動と感覚が完全麻痺になっている胸髄損傷であること、受傷から1年以上が経過していること。
 この他に除外基準といって治療を受けられない基準もありますが、治療を受けるためには少なくとも適応基準を満たしている必要があります。
 札幌医科大学・ニプロ株式会社のステミラック静脈投与や、慶應大学のiPS細胞移植は臨床研究として実施されますので、現時点では希望すれば受けられる治療ではありません。各実施施設が公表する募集方法に沿って対象症例が選ばれていきます。

再生医療でどの程度よくなりますか?

海外の報告も含め、細胞移植による再生治療がどの程度の効果を出すかについては、まだ確定したものはありません。科学記事で「運動が一部改善した」と記載されていても、それは「立てるようになった」という意味とは限りません。今後、実施件数が増えていく中でどのような状態の患者さんに、どういった再生医療が一番適しているのかが明らかになっていくことになります。

再生医療の医療費は自己負担でしょうか?

再生医療がどのような医療制度の中で実施されるかによって、また治療を受ける人が利用できる制度によっても自己負担額は変わってきます。また、治療が臨床治験の段階であるかによっても変わります。
 大阪大学の自家嗅粘膜組織移植は先進医療という制度の中で提供されています。現時点で、この手術には保険点数で75,000点が定められています。この中には手術のための検査、入院費、さらには手術した後のリハビリテーションに関連する費用は含まれていません。また、ステミラックは1回分で約1,500万円の薬価が定められています。大変高価な治療となり、実際の使用に際しては高額療養制度を利用することになります。

再生医療を受けた後にリハビリテーションは必要ですか?

再生医療は神経回路を修復することを目指していますが、神経回路が正しく働いて思った通りに手足が動くようになるためには、新しくできた神経回路に動作を教える必要があると考えられています。これが再生医療後のリハビリテーションにあたります。大阪大学が先進医療で実施する自家嗅粘膜組織移植術は手術後に1年間のリハビリテーションを実施することが定められています。リハビリテーションの方法についても検討が進んでいる段階ですが、今後実用化される再生医療についても一定期間のリハビリテーションを行うことが必要になると予想されます。