〔海外レポート〕 |
海外視察報告 |
学院 リハビリテーション体育学科 教官 藤本茂記 |
【はじめに】
2003年9月2日(火)から11日(金)まで、アメリカ合衆国の
2都市(ニューヨークとシカゴ)にある大学と施設等を訪問しま
した。今回の視察の主な目的は、米国におけるリハビリテーショ
ンスポーツの専門職の現状について、特にセラピューティック・
レクリエーション(以下、TR)とアダプティッド・フィジカル・
エデュケーション(以下、APE)の専門家及び専門家の養成、施設
の整備状況などを調査することです。視察の詳細については、
去る9月26日に、「米国におけるリハビリテーションスポーツの
専門職の現状について」というテーマで視察報告会を開催して
いただき、そこで発表いたしましたので、本稿では視察の概要を
中心にご報告します。
【アメリカに到着して】
視察地となったアメリカ合衆国は、緊迫するイラク情勢を反映
してか、空港では徹底した荷物・ボディチェックが行われ、グラ
ンドセントラル駅では迷彩服を纏う兵士の姿を見かけました。
同時多発テロ以後、停滞気味のアメリカ経済を反映してか、最初
の訪問地であるニューヨーク市では、地下鉄の料金が1ドル50
セントから2ドルに値上げされていました。渡航前に購入した
ガイドブックは最新版であったにも関わらず、既に一部正確な
情報を提供することができない時代遅れのものと化してしまい
ました。このような予期せぬ出来事にいくつか遭遇しましたが、
視察は概ね順調に行うことができました。
【ニューヨークにて】
9月2日(火)、ニューヨーク市立大学ブルックリン校を訪問
しました。ブルックリン校は、1930年にニューヨーク市立大学
初の教育学を専門とする大学として創立されました。体育運動
科学学部のドナルド・ミシェリ教授に教育カリキュラムや就職
状況などについて説明を受けるとともに、施設を見学しました
。ニューヨーク市立大学は、高いレベルの教育を比較的経済的な
料金で受けられる大学として評価を受けていますが、施設見学
では老朽化した設備・機材を目にすることが多く、同時多発テロ
やイラク戦争によるアメリカ経済の現況を垣間見たような気が
します。
9月3日(水)は、コーラーゴールドウォーター病院と
ニューヨーク市立大学リーマン校を訪問しました。コーラー
ゴールドウォーター病院は、ニューヨーク市内のルーズベルト島
に位置する2000床の大型総合病院です。リハビリテーション
サービスは、Commission for the Accreditation of
Rehabilitation Facilities(CARF)という認定機関によって
優れたサービスを提供していることを公認され、包括的なケア
が行われています。また、リーマン校は、ニューヨーク市立
大学で唯一TR学の学士課程と修士課程を提供しています。
この日の視察では、TRの定義及びTRのサービスモデル、カリ
キュラム、卒後教育や研究の実態、実習先、認定試験のシステム
など、非常に幅広い領域にわたり情報収集と意見交換を図る
ことができました。
9月4日(木)は、ロングアイランド大学を訪問しました。
教員のストライキに遭遇するというハプニングがありましたが、
PEコースのユージン・スパッツ教授からAPEとアダプティッド・
フィジカル・アクティビティーとの相違やAPEコースの応募者の
資格・条件等についてお話を伺うことができました。また、
障害をもつ人々に対するスポーツ・レクリエーションサービスに
関して、学校とNPOの役割、NPOの運営に対する考え方など、
予定していた面談時間を大幅に超え、非常に多岐にわたり情報
収集を図ることができました。
9月5日(金)は、バークリハビリテーション病院とニュ
ーヨーク大学を訪問しました。バークリハビリテーション病院は、
1916年に開院された総合リハビリテーション病院です。ニュー
ヨーク市郊外に位置し、60エーカーの敷地に病院、研究所、
スポーツ施設等の総合施設を備え、関連医療職種による包括的
リハビリテーションサービスを行っています。積極的に運動を
取り入れているこの病院のパンフレットには、チェアスキーで
滑走するサラ・ウィル(パラリンピック金メダリスト)の写真
が表紙に使われています。この病院のスポーツに対する関心の
高さを示していると言えます。午後に訪れたニューヨーク大学
は全米でも最大規模の総合大学です。1936年、全米で初めて
レクリエーション・レジャー学の修士課程と博士課程を提供して
以来、優秀なレクリエーション指導者、セラピューティック・
レクリエーションスペシャリスト、教育者、研究者、経営者等の
専門家を養成しています。残念ながら面談を予定していたクラ
ウディット・レフェーバー教授にはお会いすることができませ
んでしたが、グリニッジ・ビレッジ付近を散策するだけで、
この大学のリベラルな校風を実感することができました。
【シカゴにて】
9月9日(月)、シカゴのイリノイ大学健康学部・障害と
人間発達学科の中にある身体活動と障害に関する情報センターを
訪問しました。障害を持つ人たちが健康を維持するための運動や
楽しみとしてのゲーム、スポーツ・レクリエーションの参加方法
に関する情報を主にインターネットを通じて提供している機関です。
同センター所長のジェームス・リマー教授から、情報センターの
業務内容及び利用者、協力機関、財政基盤、将来の目標等について、
14th International Symposium on Adapted Physical Activity
(8月ソウルで開催)の発表資料を基に大変タイムリーな話題を
提供していただきました。
9月10日(火)は、全米で最大規模の障害者専用のヘルス&
フィットネスセンターを訪問しました。このセンターは、病院
における治療やリハビリテーションを終了した障害者が、機能
維持や健康増進のために利用しています。ここではセンターの
運営及び各種のトレーニング機器、ヘルス&フィットネスセンター
が提供するスポーツプログラムなどについてジェフリー・
ジョーンズ所長に説明を受けるとともに、隣接するシカゴリハ
ビリテーションセンターの病棟や訓練室を見学しました。
スポーツプログラムに関して、日本では活動実績のない車いす
ソフトボールのビデオを拝見しました。ルールブックのコピーを
入手することが出来たので、当センターの訓練に役立てたいと
思います。
【おわりに】
10日間の短い期間でしたが、それぞれの訪問先で快く対応
していただき、関係者の方々から懇切丁寧な説明を受けました。
また、意見交換や施設見学を行うなど、大変密度の濃い充実した
貴重な経験をさせていただきました。今後は、視察の成果を踏ま
えて、障害のある人々の体育・スポーツの発展のために一層努力
してまいりたいと思います。終わりに、今回の視察に際して、
職員の皆様や多くの方々から賜りました御厚情、御支援に対
しまして、心から御礼申し上げます。