新総長就任挨拶
岩谷 力



 このたび総長を拝命しました。我が国におけるこのセンターの歴史を鑑み、 歴代総長の業績を目前とするとき、あまりに力量不足ですが、全力を尽くして センターの発展を通じて、我が国の障害を持つ人々のノーマリゼーションに貢 献したいと考えております。皆様方のご理解とご協力をお願い申し上げます。
 最初に前総長佐藤コ太郎先生に感謝申し上げます。先生は80ヶ月にわたり更 生訓練所長、総長としてご指導いただきました。二十周年、二十五周年記念事 業を企画、実施され、支援費制度の導入、自立支援法への準備をご指導下さい ました。制度の大変革に一体となって立ち向かうことができますことは先生の ご指導の賜物であります。しばらくご休息、再充電をいただき、顧問として私 たちをご指導下さいますようお願い申し上げます。
 昨年来、センター幹部会ではセンターが進むべき方向について議論を重ね、 これからの方向をまとめました(図:センターの展望)。皆様のご理解のもと 、力を合わせて目標の達成を図りたいと考えております。
 国立身体障害者リハビリテーションセンターは、「国民誰もが参加・参画す る共生社会をめざし、障害を持つ人々の自立生活・就労支援のための保健・医 療・福祉・就労サービスの提供、研究開発、人材育成を行う施設」であります 。各部門が一体となって、利用者主体のサービス提供に心がけると共に、時代 の科学を動員し、障害を軽減し、自立と社会参加を支援する次代支援モデルを 開拓し、人材を育成する総合的な国の機関として、国民の負託に応えたいと考 えております。
 障害は疾病に起因して生じます。障害は機能制限、生活制限を通じて社会的 活動を規定し、人生まで変えてしまいます。疾病の診断、治療、機能回復、健 康管理は病院が、生活能力を習得し自立生活するための支援と職業訓練提供は 、更生訓練所が国立職業リハビリテーションセンターと連携し担います。これ らの支援の科学的基礎の確立、新技術の開発は研究所と病院が、人材育成と知 識の普及は学院が、国際的な連携は企画課が担当します。これらの活動を支え るのは管理部であります。これまでの病院、更生訓練所、職リハにおける縦割 りの断続的な流れを、利用者にわかりやすく、利用しやすく、主体的に参加で きる病気の治療、機能回復リハビリテーション、自立生活訓練、職業訓練、在 宅生活支援がシームレスに繋がる体制に変えなければなりません。職員一人一 人の力を結集しわが国のモデルとなるような支援体制を作ることをお願いいた します。
 私は、三人の先達の言葉を大事にしています。一人目は高木憲次先生(明治 22年〜昭和38年)です。先生はわが国の肢体不自由児療育(治療、教育、職業 訓練の一体的提供)の基礎を築き、奇形、不具という言葉を排し肢体不自由と 言う言葉を提唱し、全国の肢体不自由児施設設置を指導されました。先生の「 療育とは時代の科学を総動員して肢体の不自由を出来るだけ克服し、それによ って幸いにも快復した快復能力と残存せる能力と代償能力の三者の総和である ところの復活能力を出来るだけ活用させ、以って自活の道の立つように育成す ることである。」と言う言葉は私たちが、最新の知識と技術を求め続けなけれ ばならないことを教えてくださいます。
 次は、ニルス・エリク・バンク・ミケルセン(1919〜1990)です。彼はデン マーク政府の行政官として、第二次世界大戦後に知的障害者の収容施設の変革 を手がけ、ノーマリゼーション思想の基盤を築きました。次の言葉は、私たち が何をなすべきかを明確に示しております。「障害があるからと言って、社会 から疎外され差別される理由はないのです。障害がある者が、社会で日々過ご す1人の人間としての生活状態が障害のない人々の生活状態と同じであること は彼の権利なのです。可能な限り同じ条件の下におかれるべきです。その様な 状況を実現するための生活条件の改善が必要です。それを表現する言葉として ノーマリゼーションという語を用います。」
 三人目はM・L・キング(1929〜1968)です。彼はアメリカ公民権運動に参 与し、奴隷解放以来最大と言われる社会変革をもたらしました。彼の言葉「わ れわれは今日も明日の困難に直面しているが、私はそれでもなお夢を持つ。そ れは、アメリカの夢に深く根ざした夢である。私はいつの日にかこの国が立ち 上がって「我らはこれらの真理を自明のもととして承認する。すなわち、すべ ての人は平等に造られ・・・」という、その信条を生き抜くようになるであろ うという夢を持っている。」はすべての社会から阻害された人々が、人格と個 性が尊重される社会を築くという大きな夢とそれに立ち向かう勇気を与えてく れます。
 我々は、たとえ障害を持っても安心して生きることができる社会を築くため に働いていることを確認したいと思います。有能で情熱をもち、理念を共有し た江藤文夫更生訓練所長、牛山武久病院長、諏訪基研究所長、中島八十一学院 長の力を結集し、皆さんと力を合わせて国立身体障害者リハビリテーションセ ンターの発展、次代を拓いていきたいと考えております。


(図)センターの展望