〔魚拓シリーズ5〕
オ シ ョ ロ コ マ
前理療指導室長 川政 勲



 オショロコマは、サケ科岩魚属の魚で、褐色の身体に赤色の斑点が美しい。
 別名カラフトイワナという。日本では北海道でしか見られない。特に知床半 島周辺、道東の河川に多い。
 道中にある然別湖では毎年夏に、全国から募集したファンに開放している。
 体色は河川によってかなり違いがある。大きさは20cmくらいが標準で、大き くても25cm止まりである。貪食で、警戒心もさほど強くないのか、釣りの対象 としてはそれ程難しい魚ではないと思われている。
 作品のオショロコマは35cmもあったが、北大水産学部が放流したものが野生 化したものであろう。
 青森の魚拓の仲間で、「30cmを超える岩魚を釣ったことが無い。是非釣って みたい」と所望され、函館近郊の川へオショロコマを釣りに行った。
 青森からフェリーで早朝到着し、5時過ぎには川へ降りる準備をしていた。 山道へ入る入り口付近には、「ヒグマ出没中注意!」の看板が立っている。爆 竹を数発鳴らし、道路のすぐ脇の支流に降り立ち、小さなポイントや堰堤で仕 掛けを投入させるが、魚信が小さく、15〜16cmの小物しか掛からない。急いで 本流へと向かう。
 20分程釣り下って本流との合流地点に到着すると、仕掛けが付いたままの渓 流竿が残されていた。私と少し離れて釣っていた彼は、それを見た途端私の側 から離れられなくなった。また爆竹を数発鳴らし、いよいよ本流でのオショロ コマ釣りが始まった。
 二人は付かず離れず(私だってヒグマは怖い)、適当な間隔を取りながら、 良いポイントは彼に譲って釣り上っていく。水温が低い所為か数も大きさもイ マイチ。「30cm以上の岩魚を釣らせてやる」と豪語していた手前多少焦りも生 じたが、日が差し水温が上がってくると餌を追う活性も高くなり、尺上の魚が ボツリボツリと釣れ始めた。
 5時間ほどの釣行で、25cm以上尺上4匹を含め20数匹の釣果があって面目を 施した。
 彼は釣果に満足したものの、一刻も早く車に戻りたい一心で、しきりに帰り を促す。私はヒグマよりもスズメ蜂の方が怖いと思っているので、そちらに注 意を払いながら本流を下り、支流を遡り車へ無事到着し、フェリー乗り場まで お送りした。
 川へ降りてから約6時間。彼は生きた心地のしなかった北海道の渓流釣りで あったろう。
  夏霧や鈴の鳴りくる山の道  いさお


(写真)オショロコマ