〔巻頭言〕
超高齢時代の障害者
病院長 牛山 武久



 6〜7年前に脊髄損傷者の総数が10万人であった。その頃、10万人という集団の存在は 何なのか、多いのか少ないのか気になり、他にそういう集団がないか調べてみたところ90歳 以上の高齢者がおよそ10万人いると年齢別人口グラフから読み取れた。昨年の統計で90歳以 上の人が本邦で100万人いるという。気がつくと90歳以上10万人が100万人になっていた。一 昨年の100歳以上2万人と合わせて日本が世界に先駆けて、いよいよ超高齢時代に突入した 感じである。英語で超高齢者をoldest oldと表現するようだ。病気の集団として6〜7年 前は糖尿病患者が600万人であった(今ではもっと多い)から10万人の集団はその時、少 ないと感じた。100万人となるとこれは10世代分以上の数であってもびっくりする。
 一方、亡くなった人の方から見ていくと現在、死因の第一位は癌で、現在年間30万以上 の方が亡くなっている。新しい免疫療法や新しい抗がん剤、遺伝子治療ができて癌が治る 時代になれば、あるいはタバコと肺癌の関係のように危険因子を排除し予防効果が上がれ ば平均寿命はもっと上がる。仮に癌で亡くなる人がゼロになったら・・・寿命が劇的に伸 びるかというとそうではないらしい。癌でなくなる人がゼロになっても疫学的に平均寿命 が延びるのはせいぜい3年位という。私が期待したほど高くならず人の命が限られている 認識は変わらない。
 身体障害者の高齢化、寿命はどうであろうか。身体障害者の平均寿命が何歳という統計 はない。脊髄損傷者について言えば健常者の平均寿命より10歳位低いのではないかと漠然 といわれてきた。国立箱根病院時代から脊髄損傷を診ておられる国際医療福祉大学大学院 教授、木村哲彦先生によれば1965年頃までは頸髄損傷者が生命をながらえることは困難だ ったが医学が発達し健康管理が良くなり、頸髄損傷者についても近い将来、健常者と同じ 余命を全うすることが可能であろうと言っている。私の経験で81歳まで長生きをした二分 脊椎(死因:癌)の方がおられ、障害者でも長生きできるという意味で1989年に二分脊椎 研究会で1例報告した。身体障害者の長寿に関する文献は少なく90歳以上100万人の中に 頸髄損傷者がいるか不明であるが近い将来、その中には入ってくる時代になったという ことであろう。蛇足であるがそれには障害者の方々も癌はいうまでもなく生活習慣病、 カップランの警告する死の四重奏(Deadly Quartet;耐糖能異常、高血圧、高中性脂肪 、内臓型肥満の組み合わせが動脈硬化から心筋梗塞、脳卒中につながる)に注意し、健 康自己管理能力を高めていかなくてはならないであろう。