〔学院情報〕
平成18年度学院卒業式
学院事務室



 暖冬はどこへやら、寒のぶり返した3月6日(火)の10時から、当センター学院講堂において、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 角田宗広施設管理室長補佐を始め、多数のご来賓や当センターの幹部職員のご参列をいただいて、平成18年度学院卒業式を開催しました。
 この式典では、開会の冒頭、当センターの岩谷総長より卒業生一人一人に卒業証書の授与があった後、中島学院長が式辞を述べました。(別記1)
 次に、角田室長補佐が厚生労働大臣の祝辞を代読されました。(別記2)
その後、当センター岩谷総長が祝辞を述べられました。(別記3)
 引き続き、来賓紹介及び祝電披露が行われた後、義肢装具学科2年の村田恭子さんが、卒業生を送る言葉を述べました。(別記4)
 これを受けて、手話通訳学科2年の犬塚直志さんと小田恵美子さんが、手話を交えて卒業生の別れの言葉を述べました。(別記5)
 最後に、全員で蛍の光の斉唱をした後、卒業生を盛大な拍手によりお送りし、卒業式を終了しました。
あでやかな振袖姿の卒業生も散見されるなど、おごそかな中にも華やかさが印象に残る卒業式でした。
  卒業式に引き続き、昼から学院6階の大研修室で行われた謝恩会では、リハビリテーション体育学科の学生による勇壮な太鼓のアトラクションの披露が行われるなど、一同、和気靄々の楽しいひとときを共有することができました。
 卒業生の皆様方が、それぞれの分野において、今後、益々ご活躍されますよう祈念します。



(写真)平成18年度学院卒業式


(別記1)

学院長式辞


 皆さま御卒業おめでとうございます。学生の皆さまばかりでなく、御家族の方、さらには教官の皆さま始め養成に携わったすべての方に、感謝の気持ちを込めて重ねてお祝い申し上げます。
 本日は、皆様方の巣立ちの日に当たり、これからの人生を生きるために必要な心構えについてお話いたします。論語に「学んで思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し、思うて学ばざれば則(すなわ)ち殆(あやう)し」という一節があります。私自身が好み、人口に膾炙された一節でもあります。「学んで思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し」の意味を明らかにしますと、書物を読んだり、人から教えられたとして、自らが現実を良く見極めながら考えてみるということなしには、物事の本質を正しく理解することができないばかりでなく、誤った考えに陥ってしまうということになります。これまで学生として人について学ぶことが中心であった皆様のこれまでの生活に相当する部分です。教室で講義を聞き、そしてテキストを読んで得た知識を、実習で実際に現場に立って現実と照らし合わせてみますと、言葉で得た知識が初めて生き生きとしてくることもあったはずですし、反面、そのようにして得た知識が実態とは異なることにも気付いたはずです。そこで一旦立ち止まって、一体これはどのようなことかと自ら考えたなれば、学んだことが初めて本当に意味のある知識として身についたはずです。私達の学院では、これを意識して養成に努めてまいりましたし、皆様もこの期待に良く応えたものと思っています。
 続く「思うて学ばざれば則(すなわ)ち殆(あやう)し」が、学生の皆様のこれからに大きく係ってくる内容を持っています。ここで示されていることは、自らが主観的に理解したと思い込み、一方で書物を読まず、人の話も聞かずにいると、独善に陥るということです。これまで学生であった皆様にはまだ実感の湧かないことかも知れません。しかし、世の中の経験者と呼ばれる人には、実に蔓延している事柄でもあります。どのような職種であれ、これを長く続けていると、他の人には絶対に追随できない経験の積み重ねが特定の分野で生じます。まさに専門職の専門職たる所以です。また、職に就きますと、誰しもがとても忙しい毎日に追い立てられます。学生の時には想像もつかない程です。そのような生活にあっては、どうしても自分の経験だけで物事を判断しがちになり、個人の経験などとても浅く、また限られたものだと言う事実を忘れてしまいます。しかも必ず他人からあなたは専門家だと言われることから、自分の考えていることが普遍的な真理だと思い込むようになります。このようになることがかなり危ういことだと強調されているわけです。これからの皆様は、さまざまな分野で活躍することになります。福祉の現場、教育の現場、中には研究の現場に立つ方もおられましょう。どの分野であれ、常に自分の考えていることを、ある時は書物と照らし合わせ、ある時は人の話していることと照らし合わせて、常に正しい方向にもっていかねばなりません。
  「学んで思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し、思うて学ばざれば則(すなわ)ち殆(あやう)し」。学ぶばかりで考え、実践しなければ正しい理解にはつながりません。また、自分勝手に考えるばかりで学びなおすことがなければ独りよがりの理解に陥ります。そうなることがないように私たちは社会に出てからも学んでいく必要があり、2000年の長きにわたって、この論語の一節が読み継がれて来たことの意義を述べて、皆様方への餞といたします。

平成19年3月6日
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院長 中島八十一


(写真)学院長祝辞


(別記2)

厚生労働大臣祝辞


国立身体障害者リハビリテーションセンター学院の卒業式に当たり、一言お祝いを申し上げます。
 本日卒業される皆様、誠におめでとうございます。
 皆様は、当学院に入学されて以来、たゆみない努力を積み重ねてこられました。これまでの皆様の日々の努力に対し、深く敬意を表しますとともに、新たな出発に当たり、心からお祝いを申し上げます。
 これから、皆様は、障害者のリハビリテーションを始め、保健・福祉・医療分野の専門職として、全国各地において活躍されることになります。
 皆様には、常に、当学院の卒業生としての誇りと自信を持ち、これまでに培ってこられた知識と技能を十分に発揮されるとともに、当学院を卒業され全国各地で活躍されている多くの諸先輩に続き、地域社会で信頼される専門技術者として、今後とも、一層の研鑽を重ねられ、障害者の福祉の推進に御尽力いただくことを期待しております。
 厚生労働省では、障害者の自立を支援し、地域で安心して生活できるようにすることを中心的な課題として、積極的に施策を展開しております。
 今後とも、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現を目指して、障害保健福祉施策の更なる充実を図ってまいります。
 終わりに、本日御出席の御来賓の方々を始め、関係者の皆様には、日頃より、当学院の運営について、温かい御理解と御協力をいただいていることに対しまして、厚く御礼申し上げますとともに、今後とも一層の御支援を賜りますようお願い申し上げまして、お祝いの言葉といたします。

平成19年3月6日
厚生労働大臣 柳沢 伯夫
(代読 施設管理室長補佐)


(写真)厚生労働大臣祝辞


(別記3)

総長式辞


 平成18年度国立身体障害者リハビリテーションセンター学院卒業式に当たり、卒業生諸君とご家族の皆様にお祝いを申し上げます。
  皆さんは、病や障害を持つ方の力になりたいと言う純粋な気持ちを持って、学院に入学され、専門職として社会に出て行かれます。
  私たちは、志を同じくする先輩として、皆さんの巣立ちを心から歓迎いたします。
  皆さんは、これから、専門職として社会で活躍して行かれることになりますが、専門性について考えて戴きたいことがあります。
  専門職とは、ある分野、領域について、他の人よりも豊富な知識と高い技能をもつ人の集団です。
  他の人は知らないことを知っている、他の人にはできないことができるという特異性が専門職の特性です。
  その特異性は、稀少性でもあり、稀少であるから価値が高いと評価されます。
  それ故に、高い専門性は称賛され、それを持つ個人にとって誇りとなります。
  手に入りにくいので、高い価値が認められ、経済的には高価なものとなります。時には、ダイヤモンドのように、高価で、容易には手に入らないものとなります。
  医療における専門性は、必要な人が必要なときに利用できるものでなければ、価値が低くなってしまいます。
  高度な専門性は、患者さん、障害のある人が利用しやすい、accessibleな状態にあることが重要なのです。
  誰にでもアクセスできて、利用できるということは、誰もが、貧富の差、能力の差等に関係なく利用できて、利用者にとってベネフィットがあるという普遍的なものとして、社会に提供されることが求められるのです。
  ダイヤモンドではなく、日用品としての価値が求められるのです。
  このことは、私たちの専門性には稀少性と普遍性という相反する特性が求められると言うことになります。
  専門家として豊富な知識と高い技能をもつことは、誇りとなります。他人との差別化により、自らの存在を主張することが、自分の存在を確認し、生きがいをもって生きることの支えとなります。難しい治療をする、誰にもできないことができる技能を習得することにより専門職としての充実感を存分に味わうことができます。豊富な知識と高い技能の習得に努力することは、専門職としても務めです。
  しかし、その専門性は、普遍的に用いられたときにこそ最も多くのベネフィットを産むことができるのです。誰にでもわかりやすく、できるだけ多くの人に利用してもらえるようになったときに、皆さんの力が最も発揮されることになるのです。
  高度の専門性を磨き、普遍的に用いるということを考えていただきたいと思います。
もう一つお願いがあります。
  専門職は、その専門性が故に、存在価値がありますが、専門性だけでは、有害となる場合もあるということを忘れないで戴きたいと思います。
  私たちの関わる医療、福祉のサービスは、利用者の方々のベネフィットを最大にすることを目的にしています。
  専門職は、高度の専門性を誇りとして仕事をしています。
  そのため、患者さんにとって、どのようなことが必要か、その必要なことのうち、最も重要なことは何か、何が一番で、何が二番、最も最後にしてもよいのは何かということを考える機会が乏しいのです。
  患者、利用者の方々の治療、支援には、複数の専門職がチームとして、共通の目標に向かって関わります。専門職とは、自分の専門性に誇りを持つ集団です。そのため、他との差を強調しすぎる結果、全体がみえなくなり、それぞれの専門職が、自分の専門性を一番に考えがちなのです。
  このようにして、チームとして力が発揮できなくなることがよくあります。
  病気や障害の全体像を理解すること、他の専門職の専門性を理解すること、患者さん、利用者さんの全体像を理解することが、専門性を生かす重要な道であることを忘れないで戴きたいと思います。
  皆さんの、健康とご多幸を祈りますと共に専門職としての成熟を期待し、お祝いといたします。

 平成19年3月6日
国立身体障害者リハビリテーションセンター総長
総長 岩谷 力


(写真)総長祝辞



(別記4)

贈る言葉


 

まだまだ先だとばかり思っていた先輩方との別れのときを、実感も湧かないまま、本日迎えることとなりました。それはまるで、厳しい冬の寒さをあまり意識しないうちに、春という新しい季節の訪れを感じるようになった、今年の気候に似ているような気が致します。
  今日というよき日に、晴れて学院をご卒業される皆様に、在校生を代表して心よりお祝い申し上げます。

  入学式にそれぞれの志を胸に学院の門をくぐり、今この学院生活を締め括る卒業式を迎えられ、皆様の胸中には多くの思い出が甦っているのではないでしょうか。本学院は、人数も少なく、また様々な経歴の持ち主が集まっているため、これまでに過ごしてきた高校あるいは大学とは、異なったものを得られたことと思います。
  そのような環境の中で、各専門分野について多くの技術や知識を習得され、新たなスタートラインに立たれた先輩方の、意欲に満ちた眩しいお姿を拝見し、これまで共に過ごしてきたことを誇らしく感じています。
  本音を申しますと、先輩方が卒業されてしまうのは、大変心細く、寂しくもあります。多くの課題や実習だけでなく、焦りや不安をも抱えて過ごしている私達の質問や相談に、どんなにお忙しいときでも親身に応えて下さった先輩方には、いつも刺激され励まされていました。
  これからは、先輩方が新たな場所で頑張っておられるだろうと想像することが、私達の励みとなるでしょう。
  ところで最近、ある本を読んで、麦踏みということについて知りました。農家の方は、秋に麦の種を蒔くと、冬の間、畑の土とともに若い芽を踏み固めていくのだそうです。この農家の方の姿が、先輩方そして私達が学院で学ぶ姿に重なる気が致しました。麦踏みをするのは、冬のうちによく踏んでおかないと、弱い麦になってしまい、春が来ても収穫が期待できないからです。良い麦か駄目な麦かは、収穫まで誰にも分かりません。全ての麦が麦であり、全部同じように踏んでいくのが冬の仕事であるということです。
  先輩方も、自分という畑に種を蒔き、この2年あるいは3年間、地道に麦を踏み続けてこられたことと思います。それでもきっと、まだまだ踏まれることを望んでいる麦がたくさん待っていることでしょう。私達も、先輩方に負けないよう、豊かな実りを目指して、麦を踏みしめていこうと思います。
  今までは、先輩方の背中を見詰めるだけでした。これからは私達が、後輩に見せるに足る背中を作っていかなくてはなりません。そして、来年あるいは再来年には、先輩方と同じ職業人として肩を並べて働けるように、残された学院生活の一日一日を大切にしていきたいと思います。

  最後に、皆様のご健康とご活躍を心よりお祈り申し上げつつ、送別の言葉と致します。


 平成19年3月6日
在校生代表
義肢装具学科2年 村田 恭子


(写真)贈る言葉


(別記5)

別れの言葉


  桜のつぼみも膨らみ始め、友と学び、慣れ親しんだこの学び舎に別れを告げるときが来ました。旅立ちの春です。本日、私達79名は、新たなる決意を胸に学院を卒業していきます。晴れてこの日を迎えることができましたのも、岩谷総長をはじめ、中島学院長、各学科の先生方、非常勤の先生方、ならびに当センター職員の皆様、その他多くの方々の温かいご指導、ご鞭撻のおかげです。ここに卒業生一同厚く御礼申し上げます。
  学院生活を振り返ってみますと、期待と希望に胸膨らませて入学し、無我夢中で学んでいたのが昨日のことのように思い出されます。専門的な知識や技術を習得することは、簡単なことではありませんでした。濃密なカリキュラムに対応しきれず、弱音を吐いてしまうこともありましたが、同じ志を持った仲間に支えられ、成し遂げることができました。また、現場での実習を積み重ね、人としても成長することができました。さらに、他学科との交流会、体育祭や球技大会を通して、異なる分野の仲間との絆も深めることができました。仲間と共に切磋琢磨した学院生活は、今後の私たちの人生においてかけがえのない財産となるに違いありません。
  私達卒業生は、明日から新しい環境で新たな一歩を踏み出します。全国各地へそれぞれ巣立っていくわけですが、学院で得た知識と経験を活かし、精一杯頑張りたいと思います。諸先生方、ならびに学院を通じてお世話になった皆様、まだまだ未熟な私たちですので、今後とも温かく見守っていただきたく、お願い申し上げます。
  在校生の皆さん、私たちは本日卒業し、お別れとなりますが、同じ道を志すものとして共に精進してまいりましょう。そして、いつの日か現場でお会いできることを楽しみにしています。
  最後に、学院の益々のご発展と本日ご臨席賜りました皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げ、お別れの挨拶とさせていただきます。



 平成19年3月6日
卒業生代表
手話通訳学科2年 犬塚 直志 小田 恵美子


(写真)別れの言葉