〔巻頭言〕
プロフェッショナル
更生訓練所職能部長 河原 勝洋



 私の実家は、愛知県の西三河の山間部である。実家といっても5年前に両親は他界し、空き家となっている。この実家と周辺の敷地の清掃のために、毎月1回帰郷している。3年前の夏入院をし、4ヶ月ほど帰郷せずにいたところ、庭は、一面、膝の辺りまで伸びた草に覆われ、家の外回りは、蜘蛛の巣や蜂の巣に取り囲まれていた。家の中は、一面、5ミリほどたまったほこりや、ゴキブリの死骸があった。これに懲りて1月に1回は帰郷し清掃活動に励んでいる。
 ただ、これが重労働。夏の炎天下での草取りは、2時間もいれば目眩がするし、屋内での拭掃除も汗だくである。また、冬は隙間風の入る屋内での拭掃除や夏にできなかった原野の下草刈りのため手にアカギレができる。アカギレは「母さんの歌」の歌詞の中に出てくるが、実物を見たことのない若い人に見せれば「オー」と感嘆の声が上がる。一躍、ヒーロー「アカギレマン」である。
 「地獄だ、地獄だ」と言いつつも毎月通っているが、行き帰りの新幹線は自分へのご褒美のためにグリーン車に乗っている。広くて、イヤホーンを差し込むだけでクラシックからポピュラー、ジャズ、英会話まで聴くことができる音響機器が組み込まれたシート。席に座れば美人の乗務員さんがおしぼりを配ったり、車内検札に来たり、食事等で出たごみなどの片付けに来てくれる。至れり尽くせりである。まさに「極楽、極楽」。

 このような事情もあり、グリーン車を利用しているが、その時に有名人、著名人に会うことが多い。
 土曜日の朝、いつも私の席の一つ前に座っている外国人タレントのDさん。彼はアメリカの放送業界の人であったが、日本好きで、来日してそのままタレント活動をしている人。土曜日の午後に、名古屋の民放番組に出演しているとのこと。話好きで、サイン等のサービスにも応じていた。この人、背も高くなく、顔の彫りも深くないため、本当にアメリカ人かなと思っていたが、ある時、2人連れの外国人と英語で話しをしているのを聞いて、確かにアメリカ人だと認識した。ただ、その別れ際、彼は日本語で「じゃあ、また」と言った。相手は日本語わからないのに(苦笑)。
 女優のSさん。今は、電力会社のオール電化のCMでおなじみの人。名古屋駅で列車を待つ間、私の前に並んでいたが大きなサングラスをかけていた為、誰かわからなかった。車内に入り席が私の前の席であったため、座るときにサングラスを取った彼女と目と目が合った。彼女、にっこりと微笑んで、軽く会釈をした。私もつられて思わず頭を下げた。テレビと同じ好印象。
 タレントのIさん。太り気味の体系を生かし、グルメ番組で「まいうー」などと言って活躍している人。この人、冬の2月でも半袖シャツに半ズボンスタイルであった。車内でも乗客のサインの求めに応じたり、一緒に写真に入っていた。終始、笑顔を絶やさずファンサービスに努めていた。これらのサービスが終わった後、驚いたことに、立ち上がって、私たち同乗の者に向かって「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」と何度も頭を下げた。思わず乗客一同、Iさんの顔のようにニッコリ。
 千葉のプロサッカーチームの人達と一緒になった。スーツ姿で30人余が乗りこんで来た。ホームには、サポーターの人達が大勢詰めかけ、列車の窓越しに声援を送っていた。出発時間になり、マネージャーが声をかけた。「みんな、左を向いて(ホーム側)、手を上げて、ハイ、スマイル、スマイル」。試合後の移動で疲れているにもかかわらず、一斉に30人余の男が一糸乱れずこれに従った。さすがプロ集団スポーツ。
 これらの人達は、みな各分野のプロである。外にいる間は、われわれが持っているイメージを崩さないように役を演じ続けているのかもしれない。無論すべての人がこのような対応をしていたのではないが、多くの人は、私たちに対するサービスに徹していた。

 さて、更生訓練所にも、生活支援・生活訓練・職業指導などの専門職、教官等多くのプロがいる。利用者の方々は、自立して生活することを目指し、多くの期待を持って入所してくる。私たちは、自分の専門分野のことだけでなく、関係する法律などについても知っていなければならない。利用者は、当然、専門分野だけでなく、センター内のすべてのことについても承知しているものとして聞いてくる。私たちは、各々が研修会などを通じて、最新の動向や所内事情などを把握し、新しい知識を身につけるとともに、常に自己研鑽に努め、利用者に対するサービスに徹する必要がある。なぜなら、私たちは、普通の(一般の)プロよりも更に質の高さが求められる、国の(国立の)プロフェッショナルだからである。