〔巻頭言〕
あり方検討会の活動を通して思うこと
研究所長 諏訪 基



 早いもので、山内繁前所長から所長室の鍵を引き継いでから3年が経ちます。私がこの研究所と初めて出会ったときの印象は、規模が小さいにも拘わらず、国内はもとより国際的にも大きな存在感を示している不思議な研究所だというものでした。
 5年前にこの研究所に着任する前は、研究所が “持続的”に創造性を発揮するための必要条件として研究所の規模に関してもクリティカル・マスが存在すると主張しておりました。つまり、ヒト・モノ・カネと言われるように、研究者数、施設、研究予算をある程度集積する必要があるとの考え方です。研究所が基礎研究面で成果を上げ続けるためだけでなく、行政や社会的要請に応えるための応用指向の研究で貢献するためにも守備範囲の広さとプレイヤーの数を取り揃えておく必要があるからです。私がおりました研究所は、10年ほど前の独立行政法人化の最初の流れの中で、それまでの百人程度の研究所から私が最初に入所した600人規模の研究所まで様々なサイズの、様々な工学の分野の15の研究所を統合したものでした。統合した結果、3000人規模の研究所になり、海外の主要研究所と比べてもクリティカル・マスの必要条件は十分にクリアすることになりました。そのような経験をしていた私でしたので、20数人規模の研究所の大きな存在感にことさら関心を持ちました。
 さて、この一年間はセンターのあり方検討会での作業を進める中で、リハセンター設立の際の議論や考え方について資料を紐解いたり職員研修会でOBから話しを聞いたりしました。また、過去に行ったあり方の議論に関しても報告書を読んだり作業に参加した職員に取材をしたりして、調べてみました。それによりますと、今回のあり方検討会の結論は、リハセンターの当初の設立趣意とも、また、10年前の議論の結論とも、その議論の方向性は一致しており、組織としての一貫性が貫かれています。ところが、10年前に指摘されていたセンターのあるべき姿の記述と大差のない結論が今回も導き出されていることには、複雑な思いをしております。その理由は、リハセンターの設立の理念が必ずしも実現されていないとも受け取れる結論になるからです。現状では実現されてはいないが、本来実現させていなければならない主要な事項として、一つには「医療から職業訓練までの一貫性」の実現であり、もう一つは「リハビリテーション施設のモデルとしての新しいリハ技術の発信」の2点なのですが、今までも繰り返し指摘されていながら今回のあり方検討会でも同様の指摘を繰り返さざるを得ない状況であるわけですから、構造的欠陥がセンターにはあると考えるのが自然です。今回のあり方検討の結論をなにがしか現実のものとするためには、「今度こそは」という並々ならぬ覚悟が必要ではないでしょうか。
 実現に向けての手掛かりは、まず、現在の「構造的欠陥」を取り除くことです。行政組織の行動規範は法律や規程・規則ですので、それらが、リハセンターの設立理念や今回のあり方検討会の実現にとって有効に機能していないという仮説を検証してみなければなりません。特に組織の所掌や運営に係わる法律や規定が縦割りの発想で造られている限り、「一貫性」や「新しいリハ技術の発信」などのために組織が知恵を結集して取り組むという行動様式が生まれるはずがありません。従って、今回のあり方検討会が指摘している「一貫性」や「新しいリハ技術の発信」を可能にする法律や規程・規則の整備がポイントです。その他、多々ある手掛かりの中で、次に重要なことは「思考停止」の解除です。今までセンターのあり方にいろいろ意見を持っていた職員の中にも、変化の兆しが見えないなどの理由からか、思考停止に陥っているケースが見受けられます。わが国の障害者の自立と社会参加をさらに確かなものとするために、我々が自ら主体的に考えてリハセンターの将来像を描くことを求められています。
  実は、3000人の研究所を新たに組織する作業で経験した笑えない話しがあります。「関係者が自ら主体的に係わる」ことの実践として、組織設計の段階で研究者達に協力要請がきたのですが、なかなか話しがまとまらずに議論ばかりが先行した苦い経験があります。後から考えるとある意味で当然のことでした。それは、研究者は自分の研究の独自性を主張することが習慣になっている上に「分析的」思考パターンの持ち主が多いために、他人の意見を尊重して「構成的」に一つの結論を導く作業は苦手なのです。この困難さを克服することが作業達成の鍵になりました。国リハの場合は、法律至上、規則至上である行政的組織の中にあって、自らを律する法律を自ら描くことに相当するミッション達成のための企画立案作業に、組織的に馴染みが薄いのかも知れません。その中にあって、小さな研究所の本来の独創性を発揮することによって、これからのセンターのあり方検討とその実現に向けて存在感を発揮したいものと考えています。