〔国際協力情報〕
JICAコロンビア
「地雷被災者を中心とした障害者リハビリテーション強化」
プロジェクト事前調査
 岩谷 力


 表記プロジェクトの事前調査のために2008年1月26日から2月6日の10日間コロンビアに出張した。コロンビアは、南米大陸の北西の玄関口に位置し、中米とはパナマと、東はベネズエラ、東南はブラジル、南はペルーとエクアドルと国境を接し、西は太平洋、北はカリブ海に面している。北緯0~10度、西経70~80度に位置する人口4200万人、国土は日本の約4倍の国である。国土の中央に南北に二つの山脈がはしり、山脈の東の平地はアマゾン河の源流地帯である。平地と海岸地帯は熱帯で、大きな都市は暑さを避けて高地に造られた。今回訪れた都市の標高は、首都ボゴタは2600m、カリ市は800m、メデジン市は1800mであった。気候は、一年中を通して10℃から20℃と安定しているが、一日の中で温度差が大きく、夜になると10℃以下になる。季節はなく、雨期と乾期がある。
 コロンビアでは、40年以上前から政府軍と非合法武装勢力との武力衝突が続いている。治安は不安定で、日本人が安全に入ることができる地域は数都市に限定されており、我々調査団が地方都市を移動する際には、武装警官が銃を片手に警護につくというものものしい状態であった。
 武力衝突のなかで対人地雷が大量に使われてきたため、今日、地雷・不発弾による被害者数がカンボジア、アフガニスタンを抜いて世界第一位である。一日あたり平均3名以上が被災し、その4割が一般市民、そのうち3割がこども、被害の97%が貧しい農村地帯でおこっているという現状である。
 26日17時に成田を発って、ヒューストン経由でボゴタに現地時間26日の21時40分に着いた(時差は14時間)。訪問先は、ボゴタでは、副大統領府、社会保障省、日本大使館、カリ市では、バジエ大学病院、バジエ大学病院県保健局、フンダシオン・アデアル(民間障害者支援施設)、メデジン市ではアンティオキア県保健局、サンビセンテ・デ・パウロ病院、ハンディキャップ・インターナショナル(国際NGO)、アラス・デ・ヌエボ(民間障害者施設)であった。大学病院、民間施設では、被災当事者との話し合いがもたれた。カリ市、メデジン市ともに医療施設が整備され、地雷被災者が周辺から多く集まる都市である。 地雷被災者の受傷からリハビリテーション医療終了時までの各段階には、中央政府(副大統領府、社会保障省)、地方政府(県保健局)、急性期病院、1〜3次病院、大学病院、民間リハビリテーション施設、国家職業訓練疔が関係している。今回のプロジェクトの活動の目的範囲を地雷被災者のリハビリテーション医療サービス利用機会の増加、リハビリテーション医療の治療成績の向上に限定した。
 地雷被災者のもつ障害種別で最も多いのは下肢切断であり、ついで脊髄損傷などの重度障害、3番目に多い障害は視覚障害であった。視覚障害には、手に持った地雷が爆発することにより被災し、上肢切断を合併することが判明した。
 地雷被災者の医療へのアクセスに対する障壁は急性期病院へのアクセスとリハビリテーション施設へのアクセスの2つの場面、すなわち救急病院(急性期病院)へのアクセス過程、リハビリテーション医療へのアクセス過程に存在した。急性期病院へのアクセスにおいては、地雷爆発事故発生地点が遠方にあったり、ゲリラ支配地域であるなどの理由から救急隊が救出するために時間がかかること、またヘリコプターによる救助システムがあるが、その出動体制が整備されていないことなどが明らかになった。
 地雷被災者のインタビューから、リハビリテーション施設が少ない、貧困のため医療が受けられない、通院手段を確保できない、地雷被災者救済制度である連帯保障基金(FOSYGA)ついて知らなかったために、利用申請機会を失った、FOSYGAの申請に必要な地雷被災証明を得ることが難しい等の障壁が明らかになった。
 救急搬送に時間がかかりその間に適切な応急手当が行われないため創感染率が極めて高く、創感染により全身状態を悪化させると共に障害が重症化することが多いと推察された。
 リハビリテーション医療施設における問題点としては、PT・OT・ST・MSW・臨床心理士などの専門職が勤務し、設備も一応の水準に達しているが、サービスが心身機能の回復・代償にとどまり、各専門職の協働体制が欠けており、リハビリテーション医療が総合的、科学的に行われていないことが指摘された。
 手に持った地雷が爆発し被災した場合、被災者は視覚障害と上肢障害という重複障害者となることが多く、地雷被災者の中にはこうした視覚障害を伴う重複障害ケースがかなり多い。視覚障害は、義手、上肢装具の利用が極めて制限される。手指を失った視覚障害者は白杖を持つことが困難で、移動が制限される。視覚障害と上肢切断の重複障害はもっとも重症な障害の一つといえる。対象県における視覚障害リハビリテーションの体制は未発達で、サンビセンテデパウル大学病院でようやく施設整備に取り掛かったところであった。
 コロンビアでは義肢は民間会社において製作されている。CIREC(Centro Integral de Rehabilitacion de Columbiaボゴタにある民間の身体障害者リハビリテーションセンター)における義肢製作、リハビリテーション体制は高いレベルにあった。大学病院で供給されている義肢は量的には大きな問題はないと推察された。しかし、わが国で通常使われている部品や良質のプラスチック原材料の取得は困難で、さらにまた国産部品の開発が遅れている。
 これらの課題を整理し、1)チームアプローチの導入と診療処置技術の向上、2)回復・再建をできる限り可能にする救急処置知識の普及、3)リハビリサービス・アクセスビリティ向上のための社会保障制度の情報整備、4)リハビリサービス・アクセスビリティ向上のための医療施設間の連携強化、5)応急手当の知識普及による感染予防と創感染率の低減、6)視覚障害リハビリテーション技術の育成、7)切断者に対する適切な義肢の供給と義肢製作技術の向上の7つの技術援助計画を中心にプロジェクト案を作成することとした。
 センターで毎年開催されているJICAのPO研修会に、一昨年、昨年と二年にわたりコロンビアから研修生を受け入れた。一人はメデジン市のアンティオキア工科大学のアンドレ・トーレス・ベラスケスさんで、もう一人はCIRECのレオナルド・モアレスさんで、今回の訪問でお二人に会うことができた。トーレスさんには、大学のラボとメデジン市内を案内して貰った。日本で学んだ知識と技術を活かしてバイオメカの研究と素材の開発を手がけており、センターが世界に貢献していることを実感できた。センターの補装具製作部、国際協力のスタッフをはじめとするセンター職員全体を大変誇りに感じることができ幸せに感じた。関係職員各位の努力に深く感謝したい。



(写真1)現地スタッフと岩谷力