〔魚拓シリーズ29〕
「コバンザメ」
元更生訓練所理療指導室長 川政 勲



 コバンザメはスズキ目コバンザメ科の魚で、コバンザメなどと凶悪なサメの仲間のような名を持っているが、サメの仲間ではない。
 大きさは1メートルにもなるものも居るが、頭部に第一背鰭の変形した吸盤を持ち、カジキ類、サメ類などの大型海産生物に吸着生活をして、そのおこぼれで生活している、私たちの考え方からするとなんとも情けない魚である。
 熱帯から亜熱帯、温帯に分布し、日本近海で見られるのは8種、その中で一番多いのが本種のコバンザメである。
 作品のコバンザメは延縄漁船のサメ漁のときのサメの腹に付いていたものである。サメを海中から引き上げて船の中に取り入れる際、激しく暴れるためコバンザメは弾き飛ばされて甲板に張り付いている。蹴飛ばしても何をしても中々剥がれない。コバンザメは引っ張っても取れないので頭の方へ押すと意外に簡単に取れる。
 コバンザメの習性を人間社会に当てはめ、人間界において勢力、人気のある者に寄って、その威を借りたり、「おこぼれ」に預かった、擦り寄ると看做される人物に対し、軽蔑の意を込めた比喩表現として用いられる。
 大型規模商業施設や遊園地、公共施設など多数の人を集める施設の近所で営業し客を誘導する商法を「コバンザメ商法」と呼ぶこともある。

陽だまりに女ばかりの花の宴 いさお



(写真)コバンザメ