〔研究所情報〕
「システム脳神経科学と
リハビリテーション研究会」を終えて
研究所・感覚機能系障害研究部感覚認知障害研究室 神作憲司


 2010年3月10から11日に国立障害者リハビリテーションセンター学院(6F大研修室)にて「システム脳神経科学とリハビリテーション研究会(Conference on Systems-Neuroscience and Rehabilitation)」を開催しました。システム脳神経科学とは、脳をシステムとしてとらえた研究を行う神経科学の一分野です。個体の脳がどのように振る舞うのかという視点を持つことは、成果を社会の中の患者・障害者に還元することが要求されるリハビリテーション分野には欠かせない視点です。このシステム脳神経科学とリハビリテーションの関わりについて、医学、工学、心理学等、バックグラウンドを問わずに研究者が集い議論する場を提供できればと考え、本研究会を企画させていただきました。
 研究会は、3部構成として、第1部を「ブレイン−マシン・インターフェイス(Brain-Machine Interface/Brain-Computer Interface)」、第2部を「ニューロリハビリテーション(Neurorehabilitation)」、第3部を「認知機能の拡張に向けて(Augmenting Cognition)」としました。これらは、過日行われた福祉機器展での国リハからの展示ブースの構成と同様としました。
 研究会では、はじめに米国立衛生研究所/神経病・脳卒中研究所のLeonardo Cohen氏より基調講演をしていただきました。Leonardo Cohen氏はこれまで、視覚障害に伴う脳の可塑的変化を明らかとする等、脳機能計測手法を用いた先駆的研究をされてきており、今回は、近年行われているブレイン−マシン・インターフェイスとニューロリハビリテーションに関する基礎・応用研究についてお話いただきました。米国立衛生研究所/神経病・脳卒中研究所は私の留学先であり、そのご縁での招聘となりました。
 第1部「ブレイン−マシン・インターフェイス」では、私たち国立障害者リハビリテーションセンター研究所・感覚機能系障害研究部・感覚認知障害研究室で行ってきている、ブレイン−マシン・インターフェイス技術を用いた障害者自立支援システムの研究開発状況をご紹介しました。さらに、東京工業大学精密工学研究所の小池康晴氏より、筋電を用いたインターフェイスからブレイン−マシン・インターフェイスに至るまでの最近の研究をご紹介いただきました。
 第2部「ニューロリハビリテーション」では、国立障害者リハビリテーションセンター研究所・運動機能系障害研究部の緒方徹氏より、分子・細胞レベルと個体レベルとをいかにつなげるかという視点から、最近のニューロリハビリテーション研究をご紹介いただきました。そして京都大学医学部の美馬達哉氏より、経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた痙性片麻痺に対するリハビリテーション等についてお話いただきました。
 第3部「認知機能の拡張に向けて」では、仏国立衛生医学研究所のYves Rossetti氏より、半側空間無視のリハビリテーションに関して、そして順天堂大学医学部の北澤茂氏より、自閉症のリハビリテーションに関して特別講演をしていただきました。Yves Rossetti氏と北澤茂氏には、後天性か先天性かに関わらず、脳機能に障害を持つ患者・障害者に対して、科学的なエビデンスに基づいた対応を行おうとする試みについてご紹介いただきました。また、東京大学先端科学技術研究センターの渡邊克己氏より、個体の脳の評価に留まらず、脳と脳との相互作用までを含めて評価する最新の心理学的知見をお話いただきました。
 さらに今回は、7 minutes presentationとして、京都大学医学部から小金丸聡子氏、東京大学教育学研究科から横井惇氏、東京大学先端科学技術研究センターから小野史典氏、理化学研究所脳科学総合研究センターから小川昭利氏に、そして国立障害者リハビリテーションセンター研究所からも、池上史郎氏、河島則天氏、和田真氏、石渡利奈氏にご発表いただきました。短い発表時間の中にも、発展を予感させる演題ばかりでした。
 今回の「システム脳神経科学とリハビリテーション研究会(Conference on Systems-Neuroscience and Rehabilitation)」は、基調講演のLeonardo Cohen氏、特別講演のYves Rossetti氏と北澤茂氏をはじめ、先端的な研究を行っている研究者が一堂に会する貴重な機会となり、参加した研究者間の議論も盛り上がり時間が足りないと感じる程でした。あまり事前の宣伝が出来なかったうえに、前日にはこの時期の所沢には珍しい雪が降るというなか、お集まりいただきました皆様に感謝いたします。この機会が、近年展開が著しいシステム脳神経科学研究やその周辺の先端科学研究による成果を、リハビリテーションへと良く活用していくための端緒となればと願っています。本研究会を開催するにあたり、いろいろとご指導いただきました岩谷力総長、江藤文夫自立支援局長、諏訪基前研究所長、中島八十一学院長・感覚機能系障害研究部長にお礼申し上げます。そして研究室スタッフの皆さん、準備から当日対応・後片付けまで、おつかれさまでした。今後とも、国内外を問わず研究者間の情報交換を行う機会を設けつつ、実りある研究を行っていければと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。


(写真1)研究会の様子
 
(写真2)集合写真