〔病院情報〕
2010ウィルチェアーラグビー世界選手権に参加して
病院・自立支援局 運動療法士 岩渕典仁


 ウィルチェアーラグビーとは、車いすを用いて四肢麻痺者等(頸髄損傷や四肢の切断等で四肢に障害を持つ者)が、チーム・スポーツをする機会を得るために1977年にカナダで考案された国際的なスポーツです。日本では1997年に日本ウィルチェアーラグビー連盟が設立され、競技の国内普及と、パラリンピック等の国際大会への参戦を目標に活動をしています。日本は2004年アテネパラリンピック、2008年北京パラリンピックに連続出場をしています。
 当センターは、1998年の第1回ウィルチェアーラグビーフェスティバル開催から現在まで、国内外の多くの公式大会、普及活動をいろいろな形で支援しています。また、2009年より、私が日本代表監督に選出され、国内における強化合宿の運営・企画、国際大会日本代表チーム(選手・スタッフ)の選考を実施しています。今回、2010年9月17日から9月28日までカナダで開催された2010ウィルチェアーラグビー世界選手権へ日本代表監督として参加したのでその報告をします。
 世界選手権(今大会で5回目)は、パラリンピックと同様に世界最高峰の大会です。参加国は、3つのゾーンで予選を勝ち抜いた世界ランキング上位12カ国です。大会以前、日本は世界ランキング7位で出場権を獲得しました。世界選手権優勝チームには、2012年ロンドンパラリンピックの出場権が与えられるなど、今大会の成績はロンドンパラリンピック出場枠に影響する重要な大会でもあります。日本代表チームは、選手11名(頸髄損傷10名、多発性関節拘縮症1名)、スタッフ10名が、「ベスト4」に進出して世界選手権で初めてメダルゲームを経験することを目標に大会に挑みました。

【2010強化事業】
(1) 選考合宿 1) 期間:2010年1月〜3月 全3回(2日間/回)
    2) 対象:第11回日本選手権で優秀な成績であった選手25名
    3) 場所:国立障害者リハビリテーションセンターほか
(2) 強化合宿 1) 期間:2010年4月〜9月 全6回(2〜3日間/回)
    2) 対象:2010強化指定選手16名
    3) 場所:国立障害者リハビリテーションセンターほか
(3) 国際大会 1) 2010カナダカップ
      ① 遠征期間:2010年6月14日(月曜日)〜6月22日(火曜日)
      ② 開催場所:カナダ・モントリオール
    2) 2010世界選手権
      ① 遠征期間:2010年9月17日(金曜日)〜9月28日(火曜日)
      ② 開催場所:カナダ・バンクーバー

 大会の状況は、予選リーグで、12カ国を2つのプールに分け、プール内で総当たりを実施しました。予選の結果、日本は、予選プールBで、4勝1敗の2位で1位〜4位決定戦に進出しました。ゲーム内容は、世界ランキング2位のオーストラリア(世界ランキング2位)に惨敗しましたが、ベルギー(世界ランキング4位)、ポーランド(世界ランキング10位)に1点差で勝利、その他では、ニュージーランド(世界ランキング5位)に9点差、アルゼンチンに大差で勝利をしました。今までの国際大会では、1点差で負けることが多いゲーム展開でしたが、それを覆し勝利を得ることができました。また、今まで、同ゾーンで、1度も勝つことができなかったニュージーランドに勝利したことは、今後の自信につながりました。予選リーグ終了時で、日本代表チームは、当初目標としていた「ベスト4」進出を果たし、1位〜4位決定戦に進むことができました。
 1位〜4位決定戦では、準決勝で世界ランキング1位(別プール1位)のアメリカ(2008年北京パラ優勝)と戦いました。アメリカ戦は、今の日本の力を試そうとチャレンジ精神で挑みましたが、力の差は大きく、11点差で負けました。銅メダルをかけた3位決定戦では、気分を切り替えて、世界ランキング6位スウェーデン(別リーグ2位)と戦いました。その結果、ミスも少なく最後まで集中して戦うことができ、6点差で勝利して銅メダルを獲得しました。勝利した瞬間、選手、スタッフともに涙と喜びで抱き合い最高な気分でした。
 今後の目標は、2012ロンドンパラリンピックで初のメダルを獲得することです。そのロンドンパラリンピックに出場するためには、2011年11月ソウルで開催されるアジア・オセアニアゾーン選手権で2位以上になる必要があります。これは、今大会で勝利できなかった世界ランキング2位のオーストラリアと今大会で初めて勝利したニュージーランドのどちらかの国に、勝つ必要があります。そのためには、今大会の結果に満足せず、強化を継続的・計画的に進める必要を強く感じました。
 今後の課題は、国際大会の経験を積み重ねながら、選手個々人の総合的な体力やチェアースキルを向上させること、チームプレーでは、ライン間のコミュニケーションをはかり、ラインの精度を上げることが必要不可欠です。また、強豪国のゲーム分析をすすめ、その対策を図ることも必要です。一方で、選手・スタッフは、国内の強化合宿、国際大会参加に、多くの自己負担を強いられています。この負担が、個々のパフォーマンス、チームの総合力を低下させることも考えられます。そのため、宿泊施設も含めて強化合宿の場所を確保すること、助成金の申請やスポンサーと連携をするなどして、選手・スタッフの経済的負担を軽減することが必要です。
 今回、海外の選手のパフォーマンスを観察することができ、四肢麻痺等の車いす使用者の身体能力の可能性を再認識することができました。この経験を日頃の通常業務に役立てていきたいと考えています。最後に、今回、このような貴重な機会を与えて頂き誠にありがとうございました。

(写真)試合の様子   (写真)集合写真