〔特集〜地域の中の国リハセンター(3)〕
③言語発達障害・聴覚障害における地域支援の取り組み
病院リハビリテーション部 言語聴覚療法

〔取り組みの経緯〕
 病院リハビリテーション部の言語聴覚療法部門では耳鼻科を窓口として小児のきこえやことばの遅れへの相談・評価や訓練を実施しています。訓練の形態は言語聴覚士が個別に対応する個別訓練が主体です。しかしながら近年当部門においても定員削減によるマンパワーの低下で十分な個別訓練の継続が困難となってきています。加えて当院の個別訓練主体での対応だけでは次のような問題がありました。

相談ケースの地域の保健所、保育園や幼稚園、あるいは学校などの関連機関との連携を密に行うことが難しいこと。
各市町村の関連機関側からすると、ことばやきこえの問題は「当病院」に紹介・依頼することで療育につなげたことになり、本来各地域に必要な療育機関の整備や専門的人材の育成がすすみにくくなること。
保護者の方々に各障害に対する知識を体系的に伝えることが難しい、また保護者同士が出会う機会も少なく情報交換の場を確保できないこと。

 このような点を改善することを目的に、重度聴覚障害児に関わる「人工内耳連絡協議会」や言語発達遅滞児に関わる「言語発達障害に関する勉強会」を開始しました。

〔人工内耳連絡協議会について〕
 当院での人工内耳術後のケースが増えていく中で、平成15年12月から開始し(発足時の対象児は40名余)、以後原則年2回開催しています。
 対象者は当病院で人工内耳の手術を行ったお子さんの通う聾学校、難聴幼児通園施設、学校のことばの教室の担当者等です。その後普通幼稚園や保育園、および普通学級の担任や養護担当の先生等にも拡大しました。内容は人工内耳についての適応や手術など医療的説明や実際の操作、人工内耳による聞こえについての説明や子供と接する際の注意点、トラブル時の対応などについてです。加えて各機関相互の情報交換を行っています。
 7年間の継続を通して子供に関わる担当者が直接会える場ができ、個々のケースの情報交換ができるようになりました。何より担当者同士「互いに顔の見える連携」がとれるようになったことで各機関相互の連携がより密に、頻繁なものとなってきています。

〔言語発達障害に関する勉強会〕
 当院に通う言語発達障害児の保護者を対象として平成20年2月に第1回の会を持ち、平成21年度は3回、平成22年度からは年4回開催しています(発足時の対象児は90名余)。内容はことばの獲得や発音、あるいは自閉性障害などについての講演や保護者同士の意見交換が中心です。当初は保護者のみを対象としていましたが、平成21年度からは近隣市町村の保健センターの保健師さんにも対象を拡大しました。
 まだ発足して3年ですが同じような障害を抱える家族が他の家族と交流できることや各地域の機関や制度の違いを知る機会となっています。言語聴覚士の立場からは、必要な知識を体系的に伝えることができること、各市町村の相談機関等の情報を知る機会となっています。また近隣保健師さんの参加により、各自治体の言語障害や聴覚障害への対応状況が相互に、かつ詳細に分かるようになりました。そのため当院でできる支援のあり方も個別のケースを受け入れるだけでなく、徐々にですがケースを介して各地域の自治体が障害相談・訓練に対応できる制度、人材の育成等に関しての支援へと移行し始めています。  

(写真)言語発達障害に関する勉強会 保護者の意見交換風景   (写真)言語発達障害に関する勉強会 講義風景
言語発達障害に関する勉強会
保護者の意見交換風景
  言語発達障害に関する勉強会 講義風景

〔さいごに〕
 いずれの活動もまだ地域支援といえるほどではありませんが、従来の個別による継続訓練が限られた人数しかできない状況ですが、すべての言語聴覚障害類型に対応できるという当院の利点を生かした国立機関としてのサービス提供のひとつの方向性をみつけたいと考えています。今後さらに家族や地域の専門・関連職種と「顔の見える連携作り」を目指していきたいと思います。