〔センター中期目標見直し関係〕
秩父学園における今後の事業の展開について
自立支援局 秩父学園長 高木晶子


 平成22年度から全ての国立更生援護機関が統合され、国立障害者リハビリテーションセンター(国リハ)の名のもとに障害種別を超えることをめざしたナショナルセンターとして出発することになりました。「国立秩父学園」もこれからは「自立支援局秩父学園」(秩父学園)として円滑な組織内連携に努力していきます。
 秩父学園は創立以来52年間、知的障害児入所施設として歩んできましたが、その他にも児童指導員を養成し、福祉専門職を対象にした研修を行い、地域の知的障害を含む発達障害の子どもたちを対象にした専門外来と療育システムで直接支援を提供するなど、多様な機能を果たしてきました。
 今後、これらの機能を国リハの中に融合しながら、培ってきた知的障害の専門性を生かして発達に課題のある子どもたち(広い意味での発達障害児・者)と家族に支援を提供していきます。更にこうした支援の経験と成果を生かし、ナショナルセンターの一部門として障害児福祉施策に基づく新しい事業を設定しなくてはなりません。具体的に、今後どのような事業を展開すべきでしょうか。
 障害福祉が目指す方向は、障害の枠にかかわらず、全ライフステージに沿って切れ目のない支援を提供することで、障害により社会参加を阻まれることなく自分らしい地域生活を実現することです。これに基づいて秩父学園が今後、最も力点をおきたい事業として以下に記します。


1. 早期の気づきと対応をめざして、地域在宅の子どもたちと家族へのサービス提供のシステムを地域連携の中で構築していく。

 現在、発達に課題のある子どもたちを、発達診療所において医学的評価をしたうえで、療育計画を作成して対応していますが、同時に子どもたちの暮らす環境を改善しなければなりません。家族の問題を整理したり、気持ちを支えたりすること(家族支援)や、教育機関と協力して学校生活を安定させること(学校支援)が必要です。支援者を生活の場である地域の教育、福祉、保育所に派遣し、そこで支援のチームを組んで対応しながら、関連している地域の機関と連携して検討していくという地域のネットワークが必要です。平成22年12月号(第326号)で紹介した所沢市立松原学園・秩父学園連携事業もそのひとつです。この連携で就学前の幼児の療育計画を共有することにより効果をあげ、その情報を家族とともに学校側へ引き継ぎ、入学後の個別教育計画に生かすというシステムです。今後の思春期の課題、進学、就職等各ライフステージを繋ぐ支援を提供するには、教育、福祉、医療、矯正関連などの諸機関が地域の中でネットワークを築くことが必要です。秩父学園は児童施設なので教育との連携、学校を支える支援にも努力していきます。


2. 在宅では対応が困難な状態(強度行動障害等)を短期・長期の入所システムを用いて地域で暮らせるようにする。

 在宅では対応が困難な状態とは、激しい自傷、人への暴力(他害)、物損などの行動障害、自閉的なこだわりが強く日常生活がこなせない状態、家族が子どもへの対応をうまくできず、家庭生活が大きく阻害されることです。通所や訪問支援でこのような状況をおさめられない時には、親子で通園、短期入所等のかたちで施設を利用することも有効です。支援の中で新しい親子関係を築いたり、支援者が傍らにいる状態で今後の家庭環境を整え再設計していきます。その後、訪問支援などで保育所等の通所施設や学校の連携を得て地域の暮らしを整えていきます。


3. 施設から出て安心して暮らすサービス提供(地域移行)、地域連携システムのあり方を、当学園入所者(園生)の地域生活移行を通して検討する。

 さまざまな理由で入所が必要であった子どもたちも、成人に達した時点でひとりの社会人として暮らすことになります。重度の知的障害の方達にもそのチャンスは提供されるべきです。それには地域における福祉、医療、地域交流等の支援システムが必要になり、これが用意されていなければ本人や家族ばかりでなく、その地域の住民も安定した生活が営めません。園生が地域の人として定住するために何が必要かということをフォローアップしていきます。直接的なサービス提供だけでなく、地域生活移行に不可欠な支援システムを移行先の地域機関と検討して、国立機関の業務である調査研究として情報発信していきます。


4. 発達の課題のある子どもたちに地域の中で対応する支援者を育成する。

 子どもたちが生活していく中で、その地域に支援者を増やすことは彼らを守り育てるために必要なことです。前述した訪問支援や地域生活移行のフォローアップシステム、地域との連携事業を通じて、秩父学園の支援者が地域の方達と係わる中で、学園で培ってきた支援や情報を提供して、新たな支援者を増やしていきます。また、学園支援者も「求められる支援」について地域で学ぶことはたくさんあるはずです。
 支援は生活の中にあり、生活はそれぞれの地域で営まれています。このような地域支援を通して子どもたちに必要な支援システムを調査研究し発信することが国立機関としての秩父学園の務めですが、同時に障害の有無にかかわらずお互いを支えあえる豊かな社会を実現する願いを皆さんと共有し努力することが最も大切と考えています。今後ともご協力をお願い申し上げます。