〔巻頭言〕

活き活き、国リハ
(国立障害者リハビリテーションセンター)

障害工学研究部長 小野 栄一


 私は経済産業省下の研究所より異例の人事異動で、2008年10月より本年6月まで、厚生労働省の福祉工学専門官(初代)として、多くの障害当事者、医療福祉関係者、教育者、研究者、企業の方々と厚生労働省本省の方々のご協力を得ながら、障害者自立支援機器関連施策の企画・立案をさせていただきました。その御縁あって国リハに2010年10月より在籍し、本年7月から専従となり、引き続き、障害者の自立支援に向け活動を続けています。
 厚生労働省は人々の生活に深く密接した省庁なので、厚生労働省や国リハがその扇の要になって、支援機器に携わる人々や開発する企業などに情報発信するのが効率的だと思います。
 それらの取組の一部を紹介します。


 ●障害当事者と有識者と一緒に【福祉用具ニーズ情報収集・提供システム】というホームページを作りました。まだ完成していない部分もありますが、このシステムは誰でも見ることができ、掲示板に書き込むこともできます。また最初の質問以降の守秘義務が生じた状態で行うことも可能です。新しい開発促進事業(下記)では投稿された意見・要望を参考に課題を決めます。(http://techno-needs.net/


 ●障害者自立支援機器等開発促進事業では障害当事者による試験評価を義務づけており、様々な障害に詳しいアドバイザーを厚生労働省が関連する協会などに協力を依頼し、適切な評価や改良開発が進むように支援しています。本年3月に厚生労働省の講堂で、それら開発中の支援機器の一般公開を行いました。多くの方々にお越しいただき、開発した義足を付けたユーザーが会場内を走ったり、バトミントンをしたり、斜面を横切って走行しても下方向にずれることなく直進できる新しい電動車いすを走らせたりなど、障害のある方々にとって実用的にするために開発中の機器を、ご覧いただくことができました。NHKや新聞社や福祉関連雑誌の方々が取材してくださいました。また、多くの方々のブログでも紹介され、好評だと聞いています。
 現在進行中の施策や上記一般公開の様子は厚生労働6月号に紹介し、その記事は以下のURLにてご覧になれます。
 http://www.chuohoki.co.jp/products/magazines/kouseiroudou/pdf/kousei1106.pdf

図1 デザインを配慮した疾走用義足での走行デモ
 
図2 斜面でも操作性の良い(片流れ防止機能)電動車いす 国リハは開発に協力している
 
図3 タブレット型情報端末を利用したトーキングエイド
図1
デザインを配慮した
疾走用義足での走行デモ
 
図2
斜面でも操作性の良い
(片流れ防止機能)電動車いす
国リハは開発に協力している
 
図3
タブレット型情報端末を
利用したトーキングエイド

※図1〜3は、厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室提供 一般公開時に撮影



 ●国リハでは、障害者を含む多くの方々が障害者の自立支援機器などを体験、または評価、またはその訓練の一部が可能な、在宅生活におけるお風呂やトイレについて障害に合わせたリフォームなどの体験や評価などが可能な施設で、当事者を含む多くの方々に参考となる情報発信や、様々な立場の方々が情報交換などの交流ができる施設を現在構築中です。その場が出来ましたら、地域交流も含め、多くの方々にご覧になっていただけたらと思います。トイレやお風呂などあらかじめ作り付けでないモノは、常設展示ではありませんので、企画によって様々な事が可能となります。多くの方々とご協力の上、場の活用を進めて参りたいと思います。
 

図4 (仮称)障害者ライフモデルルームのイメージ。国リハの歩行者用の玄関(新たに作成)近くに建築予定
図4 (仮称)障害者ライフモデルルームのイメージ。
国リハの歩行者用の玄関(新たに作成)近くに建築予定



 ●春先に看護部長に「洋服で困っていることありますか」と尋ねたところ、看護師さんらに伝えて下さり、課題が多々あることがわかりました。看護師さんは「患者さんの幸せな心に繋がることに参加できるのは、とても光栄な、有難いことだと思います。」と、看護部と研究所と文化・服装形態機能研究所(文化学園文化服装学院)と今年度より協力して調査研究を始めます。また看護師さんらの熱意のもと、本年12月22日に国リハでファッションショーを開催する予定で進めつつあります。
 障害の有無に係わらず、おしゃれな服を、また心地よい衣服を誰もが楽しめる環境、仕組み作りを国リハの看護師さんと患者さん、協力してくださる多くの方々と徐々に進めたいと思います。
 機能性繊維についてはすでに帝人が多くの障害当事者のため素材提供などの活動を行っており、その帝人も協力してくださいます。しかし、継続して必要な人に供給するには、儲けが少なくとも赤字でなく続けられるようにする必要があります。帝人はソーシャルビジネスと呼んでいます。
 高齢者や障害者らが既製服で足りない(一人で着脱できない、体型に合わないなど)課題に社会貢献したいという熱意ある会社があります。個人に対応した衣服を大量に作るしくみ(MassCustomization)は技術的に可能です。そのために人材育成も含め、大きなつながりが必要です。
 今夏はスーパークールビズです。そこで試みとして帝人の協力を得て、着心地の良いポロシャツを看護師さんのユニフォームとして着用始めました。国リハの活き活きとした看護師さん(表紙写真)をご覧ください。
 

図5 ウエストポーチは看護師のお母さんの手作り
図5 ウエストポーチは看護師のお母さんの手作り



 国際福祉機器展(10月5日から7日、東京ビッグサイト)で障害者ライフモデルルーム、おしゃれな衣服関連を含み、明るい未来を目指した国リハの活動の一端をご紹介する予定です。