〔特集〕
障害者健康増進・スポーツ科学支援センターの紹介
センター長 緒方 徹

 3年前の平成22年、障害者の健康維持とスポーツ振興を通じた社会参加推進をめざして健康増進センターが誕生しました。当センターが培ってきたリハビリ体育や健康管理のノウハウを結集して組織横断的なプロジェクトがスタートし、病院と体育館、そして自立支援局を中心に活動を続けてきました。そして平成25年5月、名称変更する形で「障害者健康増進・スポーツ科学支援センター」(以下、健・スポ)がスタートしました。

国リハで「スポーツ」ということ

 「スポーツ」は主として文部科学省が取り扱うのが通常でしたが、平成23年にスポーツ基本法が制定され障害者も含めたすべての国民にとって「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むこと」は権利であることが明記されたことが大きな転機になりました。引き続いて作られたスポーツ基本計画には競技スポーツへの医学的支援を実施する機関として当センターの名前が明記され、それが今回の名称変更で「スポーツ科学」という言葉が入ることにつながりました。

競技スポーツへの支援

 「スポーツ科学支援」という言葉の中には大きく分けて練習環境支援と医学的支援の二つが含まれます。まず練習環境支援ですが、昨年のロンドン・パラリンピックでも話題になった女子ゴールボールや車いすラグビーの日本代表チームの監督が当センター職員であることもあって練習場所として当センターの体育館を拠点としていました。日本代表チームであっても練習・合宿場所の確保はどの競技でも容易ではなく、とくに障害が重度であったり、競技の特殊性が高い場合は困難なのが実情です。健・スポでは日本パラリンピック協会との連携を通じて、国リハでの合宿利用を紹介しています。平成24年度には4種目の団体が合計10回の合宿を実施しています。その反響は大きく、今年度も数多くの問い合わせを各競技団体から受けています。
 一方、医学的支援は「メディカルチェック」「コンディショニング」「スポーツ障害対策」に大きく分けられます。「メディカルチェック」はパラリンピックなど大きな大会の前には参加選手は健康診断を受けて、大会への遠征、競技参加に支障がないことを確認する必要があります。オリンピック選手の場合、こうしたメディカルチェックは国立スポーツ科学センター(JISS)で一括して行われています。障害者競技においては移動の問題もあるので、国内選手全てを一か所に集めるのは困難ですが、そうしたメディカルチェックの方法も含め実施施設のひとつとして機能していくことになります。
 また、「コンディショニング」や「スポーツ障害対策」は競技者の体を整える支援とも言えます。健常者アスリートが科学的なデータをもとにトレーニングを積んで体力や持久力、ときには精神力を鍛えていくことはよく知られていることですが、同じ手法を障害者に当てはめることはできません。トレーニングの内容、量、結果の分析法など、どれをとっても疾病の種類や障害の程度によって異なりますので、それに応じたデータの蓄積が必要になります。当センターで行う医学的支援とはそうしたものを念頭に実施していく予定です。

健康増進・リクリエーションスポーツ支援

 もちろん大会に出場して競うだけがスポーツではありません。リクリエーションとしてのスポーツ、健康維持・増進としてのスポーツなどさまざまな段階のスポーツを健・スポは推進していきます。病気に対する治療やリハビリをへて自立した生活がはじめられたからといって、その人の健康状態が保証されるわけではありません。障害のもとになった病気の経過は医療の枠組みの中で実施されますが、健康維持の部分は本人にゆだねられています。
 健常者であればスポーツジムに行って、体重や血圧を日ごろの目安とし、さらに定期的な健康診断を受けることで健康維持をすることができます。しかし、障害を持った場合、どのような場所でどういった運動をすればよいのか、また体の状態を示す数字の解釈は健常者と同じでよいのか、といった質問に明確に答えることは現時点では困難です。健・スポの大きな役割は臨床現場でのデータ収集と介入によって、この質問に答える素地を作っていくことにあります。

他施設との連係

 競技スポーツへの練習・医学支援も健康増進のプログラム開発も一つの施設で、それも限られた人数で実施できるものではありません。むしろ、全国にはこうした課題に対し先駆的に取り組んでいる施設が数多くあります。昨年秋に実施した「障害者のヘルスプロモーションに関する研修会」や本年2月に開催した国際セミナー「障害者の健康増進とスポーツ」ではそうした施設から多くの参加を頂きました。そうした場で意見交換をすると、現状では個々の施設が独自の工夫をしながら取り組んでいるが、もっと大きな規模での調査やそこから導き出されるガイドラインに相当するものが障害者の健康増進分野にあれば、という気持ちを現場で働く多くの人が持っていることを感じます。健・スポでは平成24年に自立支援局入所者あるいは外来通院患者さんを対象に、肥満などのいわゆるメタボ対策を要する方への運動・栄養・生活指導の介入調査を行いました。そうした場で得られた経験を活かし、平成25年度は複数の中核施設と連係を取って、多施設でプロトコールを共有して調査を開始する予定です。

健・スポの活動

1)健康増進外来

 毎週木曜日午前に整形外科外来を窓口に外来を行っています。これまでも多くのご利用をいただいていますが、国リハ外来通院中の方の肥満・メタボ・体力低下について対応します。基本的には一般のスポーツ施設で対応が困難な障害者の方を想定していますが、高齢者などそれに該当しない方でもご相談いただければと思います。医学的リスク管理のもと運動指導と栄養指導のプログラムに導入し、状態の改善を目指します。

2)障害者スポーツ外来

 同じく木曜日にスポーツに関連した怪我や故障の対応をする外来を開設しています。

3)人間ドック

 内科冨安医師により人間ドックが再開され、利用される方も増えてきています。希望の方は医事課窓口にご相談ください。

4)自立支援局での健康管理

 自立支援局の健康管理室(平成25年に利用者診療室から改称)を拠点として、健康診断、予防接種、健康・栄養相談を行っています。

5)様々な場での健康情報提供

 健康教室の開催など、一般の方に分かりやすく、気軽に健康についての情報を提供することを積極的に行っています。こうした場は当事者が自分の障害とは別に自身の健康状態について意識し考える場にもなります。

6)競技スポーツの医学支援

 障害者スポーツ競技会に出場する選手のメディカルチェック(健康診断)を実施しています。

7)競技スポーツの練習環境支援

 センターの多部門のご協力のもと、週末を中心に障害者スポーツチームの合宿の場を提供しています。平成24年はゴールボールや車いすラグビーの日本代表チームを中心に利用していただきました。今年はさらに多くの種目の合宿が見込まれます。
障害者スポーツ指導者への車いす研修の様子

写真1:障害者スポーツ指導者への車いす研修の様子

みんなの健・スポをめざして

 このように健・スポはいろいろな活動をしてはいますが、専属のスタッフというのはごくわずかです。下の写真では賑わっていますが、実際には他の部署からの併任や協力という形で来ている人がほとんどです。また、様々な活動をするうえでセンター内の多くの人のご協力を頂いてきましたし、これからもそれは続くと思います。
 健康増進やスポーツはそれ自体が目標になるものではないかもしれません。体重が減り、血中コレステロール値が下がる、あるいは国際的な障害者スポーツ大会で日本の金メダル数が増える、これらは一連の活動の方法や結果を評価する目安にはなりますが、それさえ得られればよい、というものでもありません。健康増進やスポーツの先にあるものは、個々の当事者によって異なるかもしれません。それが何であるのか、実際に健・スポのサービスを活用する当事者の方を通じて、センター内外の様々な人たちと考えていければと思っています。
 まだまだ何をする部署か、どう利用することができるのか、分かりにくい面も多々あろうかと思いますが、今後も様々な場面で活動を紹介していきたいと思います。何かの折には是非、国リハ「健・スポ」を活用して下さい。
「健・スポ」スタッフの医師・運動療法士・管理栄養士・看護師・保健師の集合写真

写真2:医師・運動療法士・管理栄養士・看護師・保健師 の混成チームです
名前が長いので「健・スポ」でよろしくお願いします!