〔特集〕
福祉機器の研究開発(1/3)
研究所福祉機器開発部

1.福祉機器開発部の概要(井上)

 研究所福祉機器開発部では、"人・生活・もの"をキーワードとして、オーファン・プロダクツ(特定の障害者ニーズに基づいた福祉機器の総称)の開発と評価を行うことにより、障害者・高齢者の自立・自律と社会参加の促進とQOLの向上に寄与することを使命として、研究を実施しています。福祉機器は、利用者にとって生活の中で欠かせない存在です。福祉機器という"もの"を研究することが主たるテーマになりますが、そのためには、どのような"人"が使うのか、その人の"生活"はどうなっているのかという広い視点を持ちながら"もの"に取り組む必要があります。使う方の思いを支えたい、そんな意識で研究に取り組んでいます。
 具体的な研究分野としては、移動支援機器、情報支援機器、認知機能支援機器、先端福祉機器の支援機器の4分野を設定しています。当事者やリハビリテーション現場との密接な協力のもと、研究・開発・評価を実施し、フィールド・ベースド・イノベーションを目指しています。
 本稿では、移動支援機器に関する研究から補装具の試験評価、情報支援機器に関する研究から視覚障害者向け情報支援装置、認知機能支援機器に関する研究から軽度認知症者を対象とした生活支援機器、先端福祉機器に関する研究から排泄問題ワークショップと福祉機器評価のためのライフログシステムを紹介します。また、去る9月18日〜20日に開催された国際福祉機器展への出展報告もあわせて掲載させていただきます。

2.補装具の試験評価(石渡)

 補装具は、身体障害者が装着することにより、失われた身体の一部、あるいは機能を補完する福祉機器であり、義肢装具、座位保持装置、車椅子など、複数の種目があります。このうち、当研究所では、義肢装具、座位保持装置を中心とした試験評価の研究を行っています。
 義肢装具、座位保持装置は、手足を切断した人や脳性まひの人が、歩行や姿勢の保持に長時間用いるため、強度や耐久性などの安全性の確認が必要となります。安全性については、国際規格(ISO)や日本工業規格(JIS)で試験評価法が一部規定されていますが、十分とはいえず、規格・基準の拡充が求められています。このため、当該研究では、義肢装具、座位保持装置の安全性の向上を目的とし、①試験評価に関する規格・基準の作成、②試験評価を行うための試験機の開発、③試験評価の実施を行っています。
試験評価に関する規格・基準の作成
 他国の研究機関と協同して新たな試験評価法を提案したり、ISOを参考に、国内の状況に合ったJISを作成することなどに関与しています。また、座位保持装置の厚生労働省基準など、規格のない部品に関する基準の作成・改定にも関与しています。
試験評価を行うための試験機の開発
 規格・基準に則った試験評価が実施できるよう、既製の万能材料試験機に用いる各試験専用の治具や、専用の試験機を開発しています。
試験評価の実施
 ②、③の研究は、歩行繰り返し試験、金属製下肢装具用継手の3点曲げ試験、義足一体構造試験(図1)など、実際の試験評価を行いながら進めています。 以上の研究は、公的支給制度による補装具作製で用いられる「完成用部品」の安全性向上に役立てられています。このように試験評価法の標準化が進む一方で、試験評価実施施設の不足や、ユーザーや部品の破損等に関するデータ不足なども課題となっています。安全性をより一層高めるため、今後は、関係機関の連携を深め、試験評価体制を構築するとともに、データ蓄積に基づく規格・基準作成を進めていくことが求められます。

3.視覚障害者向け情報支援装置(伊藤)

 中・高齢になってから視力が低下し筆記行動に支障をきたす中途視覚障害者向けには、その実情に見合った文字入力機器が提供されていないことが問題とされています。文字入力手段の解決策として、音声出力や点字出力機能のある高機能PDAやスクリーンリーダによるPCの利用が考えられますが、高機能であるがゆえに使いこなせていない面や価格面から使用されない面を持ち合わせており、音声出力機能を有する簡易文字入力装置が必要とされています。平成18−20年度厚生労働科学研究費補助金「文字利用が困難な高齢中途視覚障害者のための理療教育課程における学習支援システムの構築に関する研究」では、利用当事者である当センターの理療教育部在籍生やOBの方からニーズ調査を行い、試作とその試用評価を通して開発すべき簡易文字入力装置の仕様を検討しました。調査からは、使用場面は多岐にわたることが指摘され、さらに、重量、大きさといったハード面、授業中における使い勝手といったソフト面のニーズが抽出され、可能な限りの薄さと小型化、軽量化、少ない操作スイッチ、音声出力(できれば滑らか読み)、削除時の音声確認の有無、起動時間の短さ、上書き操作の必要がないこと(電源OFF時に全て保存)、カーソルキーの移動に伴う音声出力内容の確認、などの開発項目が挙げられました。平成23年度には、厚生労働省障害者自立支援機器等開発促進事業へエクセル・オブ・メカトロニクスが「中・高齢の中途視覚障害者向け簡易電子メモ装置の開発」として申請、採択を受け製品化を行いました。リハセンターからは研究所と自立支援局理療教育・就労支援部が協力し、製品版の仕様決定、モニター評価などへ協力しています。価格面では搭載の機能を必要最小限とすることで低価格化を目指し、平成25年3月から「Brai-Talker」(図2)という名称で販売開始となりました。製品は、ラバースイッチの採用により入力時のキー操作音がほとんどなく他の人に迷惑をかけないこと、USB経由によりキーボードインタフェースでPCへ接続し、入力済みの文字はワードなどのアプリケーションへ一括入力でき、6点キーによるキーボード代用装置にもなること、新たにモードキーを追加して入力モードの切り替えが明確になったこと、へルプキーを追加して説明書を参照しなくても音声ガイドによりキー操作を確認できること、などの特徴を持ち合わせるものとしました。購入の問い合わせは、株式会社ラビット(http://rabbit-tokyo.co.jp/ TEL;03-5292-5644)へ。
図1:義足一体構造試験装置繰り返し試験用 図2:開発した「Brai-Talker」
図1:義足一体構造試験
装置繰り返し試験用
図2:開発した「Brai-Talker」