学院視覚障害学科では、視覚に障害のある方にリハビリテーション訓練サービスを提供する専門職(視覚障害生活訓練専門職)を養成しており、その提供のために必要となる専門的知識と技術を身につけるためのカリキュラムを策定し、実施しています。訓練サービスの種類には、コミュニケーション訓練(点字、パソコン、情報機器の使用等)、日常生活訓練(家事、日常生活動作、福祉用具の使用等)、ロービジョン訓練(読書、近見視・遠方視、光学的・非光学的補助具の使用等)等があり、その中の一つに「歩行訓練」があります。視覚に障害のある方の移動方法(歩行手段)としては、白杖を使用した歩行、盲導犬を使用した歩行、ガイドとなる人を利用した歩行、電子式歩行補助具や移動支援機器等を使用した歩行、それらを用いない歩行(壁や手すりを手で伝う歩行や保有視覚を利用した歩行等)等がありますが、当学科の歩行訓練関係科目では、白杖を使用した単独での移動(歩行)に関する技術や訓練方法について学ぶことに多くの時間を費やしています。
当学科のカリキュラムでは、歩行訓練関係科目の時間数は「歩行技術の理論と教授法」(講義)と「歩行技術の理論と教授法演習」(演習)がともに180時間あり、そこでは全盲の方を対象とした訓練について学びますが、これらの科目以外にもロービジョン者や盲ろう者の歩行(移動)やその訓練について学ぶ科目もあります。また、間接的に視覚に障害のある方の歩行訓練に関連する内容の科目も多く存在します(資料1参照)。
資料1 視覚障害学科カリキュラム
区 分 |
履 修 科 目 |
時間数 |
基 礎 科 目 |
リハ概論 |
リハビリテーション概論 |
12 |
視覚障害リハビリテーション概論 |
30 |
盲ろうリハビリテーション概論 |
20 |
心理学系 |
学習心理学 |
30 |
知覚心理学 |
30 |
発達心理学 |
30 |
カウンセリング |
45 |
臨床心理学 |
30 |
老年心理学 |
30 |
医学系 |
感覚生理学 |
40 |
眼の構造と機能 |
80 |
運動学 |
48 |
老年病医学 |
8 |
糖尿病内科 |
4 |
教育系 |
視覚障害乳幼児教育 |
20 |
視覚障害児教育 |
40 |
盲ろう児教育 |
10 |
社会系 |
社会福祉概論 |
24 |
社会福祉援助技術論 |
24 |
研究法系 |
視覚障害リハビリテーション研究法 |
60 |
視覚障害リハビリテーション統計法 |
60 |
専 門 基 礎 科 目 |
原論系 |
視覚障害リハビリテーション原論1(眼科学) |
30 |
視覚障害リハビリテーション原論2(心理的様相) |
15 |
視覚障害リハビリテーション原論3(失明統計など) |
18 |
視覚障害リハビリテーション原論4(運動コントロール) |
24 |
視覚障害リハビリテーション原論5(感覚情報処理) |
75 |
視覚障害リハビリテーション原論6(盲老人) |
15 |
視覚障害リハビリテーション原論7(重複障害) |
30 |
視覚障害リハビリテーション原論8(糖尿病訓練) |
8 |
視覚障害リハビリテーション原論9(眼鏡光学) |
36 |
視覚障害リハビリテーション原論10(盲導犬) |
12 |
盲ろうリハビリテーション原論1(コミュニケーション論) |
12 |
盲ろうリハビリテーション原論2(心理的様相) |
4 |
盲ろうリハビリテーション原論3(聴覚障害の病理と生理) |
4 |
盲ろうリハビリテーション原論4(聴覚障害の聞こえ) |
4 |
専 門 臨 床 科 目 |
理論と 教授法系 |
歩行技術の理論と教授法 |
180 |
歩行技術の理論と教授法演習 |
180 |
盲ろうの歩行技術の理論と教授法 |
4 |
盲ろうの歩行技術の理論と教授法演習 |
32 |
コミュニケーション技能の理論と教授法 |
72 |
コミュニケーション技能の理論と教授法演習 |
54 |
盲ろうコミュニケーション技能の理論と教授法 |
120 |
盲ろうコミュニケーション技能の理論と教授法演習 |
24 |
日常生活技術の理論と教授法 |
60 |
日常生活技術の理論と教授法演習 |
180 |
盲ろうの日常生活技術の理論と教授法 |
4 |
盲ろうの日常生活技術の理論と教授法演習 |
32 |
ロービジョンの理論と教授法 |
90 |
ロービジョンの理論と教授法演習 |
90 |
レクリエーション訓練の理論と教授法 |
18 |
レクリエーション訓練の理論と教授法演習 |
12 |
視覚障害者が生活するための基礎知識 |
12 |
生活訓練評価法 |
12 |
視覚障害者のコンピューター活用 |
34 |
盲ろう者のコンピューター活用 |
12 |
重複障害の訓練 |
36 |
パソコン概論 |
16 |
生活訓練補助具理論 |
12 |
盲ろう生活訓練補助具理論 |
12 |
施設見学 |
施設見学(盲導犬訓練センター) |
20 |
施設見学(盲学校) |
8 |
施設見学(日本点字図書館) |
8 |
施設見学(更生援護施設) |
8 |
臨床実習 |
臨床実習 |
800 |
卒業研究 |
卒業研究 |
30 |
合 計 |
3,134 |
当学科の主な歩行訓練関係科目は、主に1学年時に実施されます。講義科目では、白杖歩行技術を中心とした視覚に障害のある方の単独歩行技術に関する理論や訓練方法をはじめ、周囲の歩行者等への援助の依頼の方法や、視覚障害者誘導用ブロックや視覚障害者用付加装置(音響信号)といった道路環境やノンステップバスや鉄道駅のホームドアといった公共交通機関等におけるバリアフリーの状況等について、当学科教官が作成した資料集や公的資料等に基づき学習します。演習科目では、学生が訓練を提供する側(訓練士役)と訓練を受ける側(訓練生役)の両方の役割につき、訓練の方法やその観点について学ぶほか、自らが視覚を使えない状況で白杖歩行技術やその訓練を身をもって体験します。
講義と演習は両者の連動性が確保できるよう、講義を全て終了してから演習に移るような授業編成ではなく、講義と演習が並行して行われるような編成にしています。
入学直後の4月には、2年生の「歩行技術の理論と教授法演習」の指導面の評価(指導評価試験、後述)と5月からの実習の準備としての訓練機会の確保を兼ね、事前に白杖歩行等についての専門的な知識や技術を持ち合わせていない新入生(1年生)を訓練生役、2年生を訓練士役として、実際の歩行訓練を想定した形で1ヶ月間指導演習を行います(演習回数は1人につき10〜15回程度)。教官は毎回の演習時に訓練士役の学生の訓練状況について採点し、その学生とその都度ミーティングを行ってその回の訓練についての反省を行います。訓練生役の1年生に対してはこの間は教官から講義等は行わず、訓練士役の2年生からの訓練を通じてのみ白杖歩行等に関する知識や技術を身につけていくようにすることで、実際の訓練の進捗や状況になるべく近い形で演習を進めるようにします。
5月から6月中旬にかけては、4月中に2年生から訓練を受けた内容に関して、当学科教官が作成した資料集等を基にその技術や理論、訓練方法を確認していきます。
6月中旬から年度末にかけては、本格的な講義や演習が実施されます(資料2参照)。特に演習を進める観点としては、単に各自の歩行技術の更なる習熟が図られるだけでなく、それを通じて歩行技術自体やその訓練方法等について理解がより深まるようにしています。
具体的な演習の進め方としては、学生の訓練士役と訓練生役のペアを固定し、双方の役割を交替しながら全ての課題について両方の役割を経験するよう進めています。1ペアごとに教官1人が指導につきますが、こちらはローテーション制とし、毎回の演習ごとに異なる教官から指導を受けることになります。学生は、演習前に次回演習の訓練内容や手順、留意点等について記載する「指導案」を作成して教官に提出し、教官がその内容をチェックして、適宜アドバイスを行います。演習終了後には学生ペアと担当教官とのミーティングの時間を設け、各演習課題における歩行技術やその訓練方法について更なる議論を行い、研究を深めていきます。加えて学生は、ペア双方の歩行技術の習得状況や、教官ないし学生による訓練及びミーティング時の議論を通じて理解した各演習課題における訓練方法や訓練における留意点等について記載する「記録表」を提出します。
演習課題は事前に指定した内容や場所に基づいて実施され、学生間でほぼ課題内容が変わらない、白杖歩行技術のベースとなる技術や考え方を身につける「各歩行技術の習得」の課題を前半に、テーマとしては学生間で変わらないものの、具体的な内容や場所については訓練士役の学生が個別に課題設定していく「応用課題」を後半に実施します。各課題とも、実際の訓練のように訓練生役の各学生の能力や状況に合わせて進めていくため、課題の進捗や演習回数は学生によって異なります。正規のカリキュラム内に全ての課題を実施できなかった場合には、その他の時間に補習を行い、全ての課題を1年次に終わらせます。
成績評価としては、講義については1年次の年度末に行われる選択式と記述式の2つの筆記試験により評価します。演習については、同じく1年次の年度末に行われる実技評価試験(自らの白杖技術の習得状況についての評価)と、前述の2年次の4月に行われる新1年生に対して訓練を行う指導評価試験(歩行訓練を実施する能力についての評価)により評価し、特に後者に重きを置いた採点がなされます。
資料2 歩行演習の様子