〔特集〕
中期目標総括
国立障害者リハビリテーションセンター 総長 中村 耕三

 センターは昭和54年に「国立身体障害者リハビリテーションセンター」として設置されて以来、障害者リハビリテーションを担う国立機関としてその役割を果たしてまいりました。30年を経過するに当たり、平成20年から21年にかけて厚生労働省において国立更生援護機関の今後のあり方が検討され、施設間で共通する機能を一元化し、統一的な方針の下で事業運営を実施していく必要性が示されました。
 それにより、平成22年4月に更生訓練所、視力障害センター、重度障害者センター及び秩父学園を自立支援局として統合し、平成24年度末には塩原視力障害センターが廃止されました。
伊東重度障害者センターの統合への取組も進められています。運営の面では、平成22年度から第1期の中期目標(平成22−26年)を定め、国立の機関としての事業の実施に努めております。
 第1期中期目標の5年間をふり返りますと、人口の高齢化に伴う障害者の高年齢化の進展等があり、障害状況や支援ニーズはますます多様化しています。法・制度的にも、平成23年の改正障害者基本法、平成25年の障害者総合支援法などの見直しがあり、平成26年2月には「障害者の権利に関する条約」が我が国で効力を生ずるなど、新たな局面を迎えています。平成23年3月には東日本大震災を経験し、障害者に対する防災対策が強く認識されるに至っています。平成25年9月には、平成32年(2020年)の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が決まり、障害者のスポーツ・健康増進への関心も高まってきています。
 このような状況の中で、センターは平成27年度からの第2期中期目標を定めました。その骨子は以下の通りです。

【国立の中核機関としての役割の遂行に関する事項】

1.リハビリテーション医療の提供
(1)先進的リハビリテーション医療の推進
(2)安全で質の高い障害者医療・看護の提供
(3)障害者への健康維持増進・保健サービスの提供
(4)臨床研究開発機能の強化
(5)臨床サービス、臨床研究開発の情報発信
(6)人材の育成
(7)病床利用率等の向上
2.障害福祉サービスの提供
(1)自立支援局内全施設の一体的事業運営
(2)質の高い障害福祉サービスの提供
(3)重度障害者に対するサービス提供の充実
(4)事業成果向上への取組
(5)地域貢献への取組
(6)利用率の向上
3.障害者の健康増進推進、運動医科学支援
(1)健康増進プログラムの開発及び提供
(2)健康増進に関する事業の推進及び普及
(3)障害者アスリートへの支援と医科学研究の推進
(4)障害者スポーツ・レクリエーション参加者の拡大
4.支援技術・支援機器・支援システムの研究開発
(1)臨床現場を有する特性を活かした研究の推進
(2)障害者の自立と社会参加を支援する研究の推進
(3)国の政策立案に資する研究の推進
5.リハビリテーションに関する専門職の人材育成
(1)社会のニーズを見据えた障害関係専門職の育成
(2)教官の資質向上
(3)専門職に対する研修機能の充実
6.リハビリテーションに関する企画・立案
(1)部門横断的な企画立案及び調整
(2)運営委員会の開催
7.リハビリテーションに関する情報収集及び提供
(1)事業成果の全体集約及び提供
(2)利用者のニーズに応じた情報の発信
(3)効果的な広報活動の展開
(4)業績発表会の開催
(5)全国の支援拠点機関の中核センター機能の発揮
(6)情報基盤の構築及び運用管理
8.リハビリテーションに関する国際協力
(1)WHO指定研究協力センターとしての貢献
(2)JICAを通じた技術協力
(3)国際協力活動の推進と成果の発信
(4)福祉機器の国際標準化への協力

【業務遂行能力の向上と業務運営の効率化に関する事項】

1.倫理的組織的風土の構築
(1)業務品質の向上推進
2.事業、運営に携わる人材の計画的育成
(1)職員の研修会の実施
(2)知識の伝承
3.効率的な業務運営体制の確立
(1)コスト削減意識の向上
(2)電子化事務の促進
4.災害等緊急時の危機管理の充実
(1)防災意識の向上
(2)災害時の対応等

【歳出予算等の改善に関する事項】

1.歳出予算の効率的執行
(1)効率的な予算執行
(2)効率的施設運営について
2.国有財産等管理体制の充実
(1)管理体制の強化
(2)施設環境整備計画について

 ポイントは3つあります。1つ目は、多様な支援ニーズの変化に応える「障害者支援・研究・人材育成の先導的・総合的展開」を図ることです。センターには国立の中核機関としての取組が求められています。先導的な取組、病院・自立支援局・学院・研究所の連携による総合的な取組、一般的なクリニカルパスに乗らない障害への取組、国の政策として求められる課題への取組等です。
 2つ目は、これらの取組の実際や成果を広く公表し、社会に還元していくことです。これも国立機関としての重要な役割の一つです。社会に発信することは、成果が社会に還元されるだけでなく、障害のある人が必要とするニーズの内容が社会に伝わり、それは障害者リハビリテーションの推進にプラスとなります。
 社会への発信の役割を果たしていくためには、その成果や取組の実際を取りまとめる必要があります。業務を取りまとめるにあたっては一般の人々に理解される形での指標化が重要です。業務を取りまとめ指標化することは、社会への発信のみならず、当センターに蓄積されることで、次の実践に繋がり、さらに良質な教育や、サービスの提供に繋がっていきます。このサイクルを効果的に回して行くことが、取組の重要なポイントです。
 3つ目のポイントは、この中期目標、そして各年度の運営方針を着実に実行するため、中期目標、各年度の運営方針、組織目標と各職員の業績目標を一致させ、PDCAサイクルが有効に機能する取組を導入することです。組織目標と各職員の業績目標を具体的にし、可及的に外部からも理解されるような、業務の内容を特徴づける指標の設定に努める必要があります。
 各部門ではそれぞれ一般的な指標として、利用者数、利用率などが使用されますが、それら一般的指標だけでは国立の中核機関としての取組が社会に届かないからです。センターでの具体的な取組の例をあげてみますと、例えば、障害者の健康増進は、先導的で、病院と自立支援局の連携による総合的な取組が必要な課題です。高次脳機能障害は一般的なクリニカルパスにのらない障害であり、国の政策としても重要です。補装具完成用部品の評価は、国の政策遂行に必要とされる事業であります。これら先導的、総合的、政策的な取組は、一般的な指標では表すことができません。
 もう一点、大事なことがあります。このように連携して総合的に取り組む事業が可能であるためには、各部門のいわゆる「日常の実践」が確実に実現できていることが重要であり、我々センターの基盤であるということです。
 平成27年度は、この中期目標の初年度の年です。皆様のご理解とご協力をお願いいたします。