〔特集〕
衣料開発と国リハコレクションの活動
研究所長 小野栄一
病院 看護部長 大舘千歳
看護部 障害者の衣料開発に関する検討会

 はじめに
 本年度は「わたしStyle!」をテーマに、国リハコレクションを開催しました。国リハコレクションは、着たい服がどこでも手に入るような環境促進のために、当センターの利用者、障害をよく知る職員と外部の様々な専門家が協力し(図1)、「おしゃれ」をキーワードに開催しています。障害を持つことで生じる衣服の課題があり、それらは次のような言葉、『ジーンズでコンサートに行きたい! フォーマルも欲しいよね。
えっ、体に合わすと注文服? 既製品で手に入ると助かるね。日本中、どこでも買えるといいよね。脱ぎ着が楽だとうれしいな。やっぱりひとりで着たいよね!』などで表現されます。
 経緯、活動
画像:障害に配慮したおしゃれな衣服の研究・開発・普及促進に向けた取り組みの図 図1: 障害に配慮したおしゃれな衣服の
研究・開発・普及促進に向けた取り組み
 2011年に文化服装学院文化・服装形態機能研究所の協力の下、国リハコレクションとしてファッションショーを開催しました。翌年から関連する複数の機関・企業等の協力で多数の展示も行うようになり、衣服の試作では、その後、リフォームスタジオ(株)、Smile Essence(合)、浜西ファッションアカデミーのご協力をいただき、現在に至っています。
 作製した衣料のモデルは、手漕ぎの車いす利用者、電動車いす利用者、片麻痺のある方、下肢装具や義足の利用者、義手の利用者、視覚障害のある方です。
画像:国リハコレクションのロゴマーク
 配慮した点は、ご本人が着たいと思える服であること、おしゃれであること、着脱しやすいこと、姿勢や体形に合うこと、動きを妨げないこと、排泄支援や入浴支援につながることなどです。そのため、見た目だけでなく実用性が問われます。その成果等は、ホームページや配布資料でご関心ある方々に情報発信しています。
 「衣服作りを通じて」、すなわち「障害を持つ人、看護職員、衣服製作の専門家等が、衣服への要望・課題検討、体型採寸、試作品の試着・作製を通じて」、その途中で配慮面や工夫の仕方などを検討し、作成した障害に配慮のある衣料を国リハコレクションなどの展示やショーで紹介しています。また、各種機関(障害当事者団体、NPO、公的機関、学校、企業)にショー開催や展示出展(本年度は24機関)にご協力いただき関連情報の提供をしています。
 展示では、地域では北海道から岡山県まで、衣料のみでなくお出かけなど、生活支援、社会参加につながるもの・ことを、おしゃれをキーワードに幅広く情報発信しています。
URL:http://www.rehab.go.jp/ri/event/fashion/top.html
 看護師の関わり
 『服を着る』ということは、日常の中で当たり前のことで、そして楽しみの一つになります。リハビリテーション目的で入院してくる患者さんは、更衣訓練が開始すると、着やすいボタンやボタンフック、ファスナー、ループの改良など行なっていきます。更衣訓練は、患者さんの着たい服(生活や外出、通勤・通学)ではなく着やすく、また介助しやすい衣服で訓練を行なっていきます。障害のある方は、受傷前は『おしゃれ』に過ごしていても、受傷後は好きな洋服でおしゃれをしたいという思いがあるがなかなかできない状況にあります。
 衣料開発において看護師は、患者さんが着たい服、おしゃれを楽しみたいという思い、生活するときに衣服において何に困っているのか、どのようにしたら自分での着脱が楽になるのか等を聞くことです。採寸や仮合わせを進めていく中で、細かな、具体的な意見を聞くことができます。また、自分の生活の視点でいろいろな問題点やなぜこのように衣服を開発したいのか意見を聞きます。その意見や思いから大きな発見をすることがあります。看護師はその発見を他の患者さんに伝えていく重要な役割があります。
 ファッションショーは、ご家族が見守る中で行なわれました。少し緊張していましたが、ショーが終了するとご家族や同じ病棟の患者さん、友人などに囲まれ本人、家族の表情も明るくとてもいい笑顔で記念写真を撮っていました。その笑顔を見て、自分が着たい服を着ることが生きていくことにおいてとても重要なことであると思いました。
 障害があることであきらめてしまったファッションは様々あると思います。しかし、工夫次第で着ることが可能となり、それが『楽しみ』や『自己表現』の一つにつながります。そして私たち看護師は、患者さんのファッションに対する思いを聴き、日常生活動作のなかでの衣服の問題などを一緒に考えていくことが今後の衣料開発につながると思います。
以下、本年度の国リハコレクション(2017年10月21日開催)で紹介した衣料です。製作協力:浜西ファッションアカデミー
二部式バスローブ(オリジナル)
入院中、浴室から病室に戻る際を想定して作製しました。着脱しやすい巻きスカートで二部式にしました。
車イスでの自走時にじゃまにならない短めの袖丈にし、前の打合せを深めにすることにより動いてもはだけないようにしました。
画像:二部式バスローブ(オリジナル)の解説
シャツ(リフォーム)・ジーンズ(同左)・尿パックカバー(オリジナル)
シャツは着脱しやすいよう上二つのボタンはマグネットボタンにしその下は縫い止めてあります。脇も大きく開くようにファスナーを取り付けてあります。
ジーンズはボタンをマジックテープにしループを取り付けました。ジーンズに合わせ、尿パックにデニム地でカバーも作製しました。
画像:シャツ(リフォーム)・ジーンズ(同左)・尿パックカバー(オリジナル)の解説
キュロットスカート(オリジナル)・下肢装具ひざカバー(同左)
キュロットスカートには、トイレ時のずり落ち防止のために肩掛けゴムが内蔵されています。座位に合わせて後ろを深めにしてありますが、立位の時はベルト分を折り込むと自然なシルエットになります。
ひざカバーは下肢装具での洋服の擦れを防ぐためで、共布を使用しているため目立ちません。
画像:キュロットスカート(オリジナル)・下肢装具ひざカバー(同左)の解説
スーツ(オリジナル)・ブラウス(リフォーム)
ブラウスは袖が細く義手が通らないので、着丈を短くしその布で袖幅を広げました。
スーツも義手を考慮し袖にゆとりを入れ、後ろ身頃にはソフトプリーツを入れて運動性を向上させました。気切のカニューレがかくれじゃまにならない衿元もデザインしました。
画像:スーツ(オリジナル)・ブラウス(リフォーム)の解説
ドレス(オリジナル)
画像:ドレス(オリジナル)の解説
着脱に配慮して上下二部式にしました。
下半身がパンツ、エプロン式スカート、ネット状飾りで構成されていて取り外し可能なため幾通りもの着方が可能です。スカートの裾には巻き込み防止の固定ベルトがあります。
ドレス(オリジナル)
画像:ドレス(オリジナル)の解説
上下二部式ですが、上半身のウエスト位置にフリルがあるため分かれているように見えません。
車イスでの自走に負担が少ないように袖無しですが、フリル状の飾りで袖があるようにデザインしています。