〔特集〕
吃音がある自閉スペクトラム症の人への対応

病院第三診療部 児童精神科医長 金 樹英

 当院の児童精神科外来は平成25年に開設し、聴覚障害、視覚障害、肢体不自由などの障害があり、精神障害(発達障害を含む)の併存が疑われる方の診療をしてきました。当院の成人吃音外来からも現在まで60名以上の方を紹介していただき、平成25年から5年間は初診患者195人について精神疾患併存の調査もさせていただきました(Kim et al.,2021)。その結果を含め、吃音のある自閉スペクトラム症(ASD)の人への対応についてご紹介します。

1 吃音に併存する精神疾患

 吃音も他の発達障害と同様、精神疾患が併存することが多く、なかでも社交不安障害(SAD)は吃音者の40~50%に併存し、SADに対する認知行動療法(CBT)などの治療が吃音の再発予防やQOL向上に有効であることが報告されています。
 前述の成人吃音外来での調査では、初診患者の3分の1に精神科通院歴があり、これを含めた52.3%(102人)に精神疾患の併存がありました。ASDは26.4%(52人)に併存し、精神疾患の中で最も多い診断でした。ASDが併存した52人のうち、精神科通院歴は40.3%(21人)にありましたが、ASDと診断されていたのは2人でした。

2 ASDの評価・対応

 ASDは生育・生活歴、学校・職場での情報、本人との面談・心理・言語検査等を総合して判断します。
 各国のガイドラインに示されるように、ASDは「早期発見・早期治療」が重要で、「早期治療」には発達障害者支援法で定められた教育・就労における支援の利用や、合理的配慮などによる二次障害の発症予防も含まれます。発達障害の治療は、必ずしも障害の治癒ではなく、ハンディキャップの補償による発達促進、二次障害の予防や併存症への対応が目標となります。ASDに対しては、CBT、環境調整(他機関連携、ペアレント・トレーニングなど含む)、薬物療法などのさまざまなアプローチが有用です。生きづらさが吃音だけでなく、ASDの併存も要因であることがわかれば、ASDに適した対応ができます。ASDの就労支援により就労できた、ASDの環境調整で遷延する精神障害が改善した、という例を当科では経験しました。

3 今後の展望

 既知の疾患の影に他の疾患が隠れてしまう現象はdiagnostic overshadowingとよばれ、救急外来での知的障害・精神障害者の誤診・死亡率の高さが米国で報告され注目されました。「吃音」は、ASDのある人にとってはセルフモニタリングの弱さやこだわりといった特性により困難の原因をそこに焦点化し、周囲にとっては「質問内容と返答がずれる」「表情が硬い、視線が合わない」といった症状を説明する、diagnostic overshadowingをおこしやすい診断とも言えます。当院は、各障害に精通したスタッフがいて、それぞれの「ものさし」と照らし合わせた多角的な所見が得られ、diagnostic overshadowingを防ぎやすい環境にあります。これを活かし、吃音を含む発達障害の重複障害の評価・支援についての実践・研究を進め、広報・研修を通して障害者のQOL向上に寄与していきたいと考えています。