第28回業績発表会優秀賞等受賞者コメント

管理部企画課

 平成23年12月22日(木)に行われました、第28回業績発表会で優秀賞等を受賞された10名の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。

○優秀賞
自立支援局理療教育・就労支援部 青栁 政治
病院臨床研究開発部 今橋久美子
研究所運動機能系障害研究部 緒方 徹
研究所障害工学研究部 小野 栄一
研究所感覚機能系障害研究部 野代 祐貴
病院リハビリテーション部 餅田亜希子
病院看護部 山中 京子
○ 奨励賞
研究所脳機能系障害研究部 大良 宏樹
研究所脳機能系障害研究部 櫻田 武
○ 特別賞
自立支援局神戸視力障害センター 土志田 武


自立支援局理療教育・就労支援部 青栁 政治
演題:「職場開拓に向けての事業所個別訪問の実施」
 平成23年度業績発表会において、優秀賞という過分な評価をしていただき、大変うれしく、光栄に思っています。正直なところ、これといった顕著な成果を挙げているわけでもないので、まさか自分が受賞者に選ばれるとは思ってもみませんでした。受賞の吉報を耳にし、非常に驚くと同時にご期待に添えるよう頑張ろうと、改めて気持ちを引き締めています。
また今回の異例の受賞という事実が、利用者の就労支援の小さな突破口になれば良いと思っています。
障害者の雇用環境は、企業のCSR活動の一環としての障害者雇用の役割が常態化しつつあることや積極採用に乗り出す企業、そして雇用率向上を目指す企業などで、雇用拡大が更に進むものと期待されています。一方で、歴史的な円高や海外経済の減速を受けて景気の足踏み感が出るなど企業を取り巻く経営環境は厳しさを増し、障害者雇用に影響を及ぼす懸念も予想されます。
このような雇用情勢を背景に、地域において就労移行支援等の各事業所では、就労に向けた様々な取り組みが展開されており、今後、就労支援の取り組みの一つである職場開拓の必要性や重要性は高まっていくものと思われます。
今後の展開としては、今までの反省を踏まえ、「雇用のミスマッチ」を防止するため、利用者一人ひとりのマッチングに重点を置いた職場探しのほか、訪問した事業所への再訪問による情報収集を重点に取り組んでいきたいと考えております。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。


病院臨床研究開発部 今橋久美子
演題:「福祉サービスを受ける中途障害者のQuality of Lifeに関する研究」
このたびは、優秀賞という評価をいただき、ありがとうございました。この場をお借りして、調査にご協力くださった自立支援局利用者の方々、そして毎月調査日程を調整してくださった総合相談支援部、自立訓練部の皆様に御礼申し上げます。
近年、障害者のリハビリテーションにおいて、機能のみならずQuality of Life(QOL)に対する関心が高まり、その主観的評価が試みられていますが、福祉サービスの利用とQOLの関係を明らかにした縦断研究は国内外でも例がありません。この研究を通じてQOLの向上に寄与するようなサービス、あるいは要因は何か、ということを追究したいと考えています。そのはじめの一歩として、サービス利用の前後でQOLはどのくらい変化するものであるか、QOLと生活機能の変化とは関連があるのかどうかを調べています。現在、サービス利用後評価を行っていますが、質問に対する答えからは、毎日のプログラムの成果に留まらず、センター内外の人との関わりや終了後の家庭生活や就労への展望など、さまざまな要因がQOLに関連していることがうかがわれ、数値に表れる部分の背景を明らかにしていくことも大切ではないかと感じる次第です。
この研究の計画と過程において、自立支援局の職員の方々より、多くの示唆と助言をいただきました。また今後の成果をご報告することを目標にして、日々努めたいと思います。


研究所運動機能系障害研究部 緒方 徹
演題:「血中神経損傷マーカーpNF−Hを用いたヒト急性期脊髄損傷の重症度評価」
疾患の予後予測は古くて新しいテーマであり、同時に医療・福祉の分野に欠かせない技術です。今回は脊髄損傷の予後を受傷から数日の時点でなるべく正確に予測しようという目的のもと、患者さんの血液検査における新たな検査項目としてpNF-H(ピーエヌエフエイチ)という物質を紹介しました。pNF-Hは神経が壊れると血液中で上昇するので、この値が高い人ほど重症例であることが予想されます。今回は頚髄損傷14例からなる予備調査の報告でした。もっとも重症度の高い完全麻痺の症例ではpNF-H値は不全麻痺の症例より高くなり、前述のようなpNF-Hの値が脊髄の壊れ具合を反映していることが確認されました。
今後はより多くの急性期脊髄損傷症例での検討を進めるとともに、慢性期の症例や、脊髄損傷以外の外傷性脳損傷などの症例でのpNF-H値を調べていきたいと思っています。国リハ病院や関連施設での測定も予定しており、その結果をまた業績発表会などでお伝えしたいと思います。
患者さんの状態をより正確に捉えることは、新しい治療法の発見ほど華やかではありませんが、着実な一歩になると考えています。今回の受賞を励みに益々頑張っていきたいと思います。最後になりますが、症例のリクルートや血液検査に御協力を頂いた都立墨東病院救命センターの先生方に感謝し御礼申し上げます。


研究所障害工学研究部 小野 栄一
演題:「障害者のニーズに基づいた衣料に関する調査」
この度は、「優秀賞」という思いもかけない賞をいただき、大変有り難く思っています。本業績は冨岡佳代、堤 美穂、田嶋千秋、浅野美子、泉谷義明、道木恭子、赤川詠子、多田由美子、溝口尚美、田村玉美、他看護部一同に、文化服装学院の文化・服装形態機能研究所(所長:伊藤由美子教授)と研究所(筒井澄栄、小野栄一)などが協力し行ったものです。(経緯などは、第28回国立障害者リハビリテーションセンター業績発表会の資料参考 33.障害者のニーズに基づいた衣料に関する調査(PDFファイル)
モデルとなってくださったご本人、ご家族のご協力のおかげで、様々なことを学ばせていただきました。障害をもっている方々の日常生活に密着している看護師らの提案を参考に、ご本人らのご要望になるべく添うように、様々な配慮や工夫を検討しながら衣服の作製を行いました。
本成果の一端は、「国リハコレクション2011」、メインテーマ「あなたの気持ちを叶えたい」としてファッションショー形式で、文化服装学院の方々とセンターの多くの方々のご協力の下、センター主催でご紹介させて頂きました。遠くは北海道、大阪などよりいらした来場者の方々もおり、多くの来場者からご意見、ご要望が多く寄せられました。ご協力、ご参加頂いた多くの方々に厚くお礼申し上げ、感謝いたします。
今回の調査結果、要望などを整理し、北海道から沖縄まで日本のどこにいても誰もが、着たい服を手に入れやすい環境の構築を促進することを目的に、次につながるように計画立案、実行していきたいと思います。
今後とも皆様の温かいご支援、ご協力を賜りますようよろしくお願い致します。


研究所感覚機能系障害研究部 野代 祐貴
演題:「分化誘導過程におけるヒト網膜前駆細胞の可視化の試み」
この度は、発表いたしました「分化誘導過程におけるヒト網膜前駆細胞の可視化の試み」を過分な評価をしていただきありがとうございました。
 現在、有効な治療法がない網膜変性疾患の移植治療を目指して、移植する細胞の作製法の研究を行っています。近年、特に網膜組織の元となる網膜前駆細胞を移植することが治療効果が高いことが報告されました。そこで、今回発表させていただいた研究は、ヒトの細胞から網膜前駆細胞を作り出し、見た目では他の細胞と区別できない網膜前駆細胞を蛍光タンパク質によって光らせて、可視化することを試みたものです。
網膜前駆細胞で特異的に発現が高い遺伝子に着目し、その遺伝子と同じ発現パターンで蛍光タンパク質を発現させる系を開発し細胞に利用しました。その結果、網膜前駆細胞で特異的に発現する遺伝子の発現が高い細胞群の中で、蛍光を発する細胞が観察され、可視化に成功しました。
今後は、可視化の効率を改善し、この可視化の方法を利用して臨床応用可能な網膜前駆細胞の作製の研究を行う予定です。今回の受賞を励みにして、治療に貢献できるような研究を日々努力して行いたいと思います。


病院リハビリテーション部 餅田亜希子
演題:「『成人吃音相談外来』の開設と経過」
平成23年度第28回業績発表会において発表させて頂いた「成人吃音相談外来の開設と経過」にご評価を頂き、大変感謝しております。どうもありがとうございました。
発達性吃音は幼児の5%に発症し、成人の有症率は1%と言われ、吃音に悩む幼児、学童、成人、またその家族は決して少なくありません。しかし、我が国ではこれに対応できる臨床家、および専門相談機関が極めて少ないのが現状です。今回、当センター病院において、「成人吃音相談外来」を開設したことで、これまでよりも多くの成人の吃音の方に対応できるようになったと同時に、従来より相談の窓口としてきた「言語新患外来」において、より多くの未成年の吃音児・者の相談に対応できるようにもなりました。
今回の発表を通して、吃音相談のニーズは高く、当センターが今後担う役割が非常に大きいことを皆さんに知って頂けたことを大変嬉しく思っています。相談の申し込みが非常に多い中、対応できる人員不足により十分な対応はできていませんが、吃音の臨床・研究・教育の発展に貢献できるよう、また何より、一人でも多くの吃音児・者のお役に立てるよう精進していきたいと思います。


病院看護部 山中 京子
演題:「脊髄損傷者の排便に関する調査」
    −退院時の排便の問題は在宅生活でどう変化したか−
平成23年度業績発表会において、優秀賞をいただきました。評価してくださいました諸先生方に、この場をお借りして感謝を申し上げます。
脊髄損傷者にとって大きな問題のひとつに直腸障害があります。排泄の自立はその人の社会復帰や生活の質にも関わる重要な事柄です。
私たち看護師は、入院中を通じて個々の残存機能や在宅生活環境に応じた排便訓練や指導に、日々奮闘しております。
しかし、平成20年度、井草らが実施した「脊髄損傷者の生活の現状を把握するための実態調査」で、「排便に困っている」と答えた人が8割もいることに驚きました。
そこで、平成22年度に社会生活を送っている脊髄損傷者に対して、排便に関する具体的な調査を実施しました。
その第一報の「脊髄損傷者の排便に関する問題とその内容」の結果でも、6割の人が排便に関する何らかの問題を抱えていました。これまで脊髄損傷者にとって、排便の最大の問題は「便失禁」と考えておりましたが、「便秘」であることが明らかになりました。
このことから、今までの入院中の排便訓練や指導を見直す必要があると考え、退院時と在宅での排便状況を明らかにする目的で、第二報となる今回の研究に取り組みました。
その結果、「退院時と在宅で排便の問題はどう変化したか」では、退院時に問題が解決していない場合、在宅においても問題が残る傾向があるというこということがわかりました。
また、在宅での排便に関する問題のかなりの部分は、退院時にすでに現れていて、その後の様子がある程度予測できると考えられました。
一方、退院時に何らかの問題をもって退院した人の場合、そのときの問題のいくつかはその後解決するとしても、解決しきれない問題も残り、また、新たな異なる問題が発生することもあるということがわかりました。
今後は、入院中の排便訓練や指導に有効なアセスメントツールの開発、および排便自立段階に応じた排便管理のできる人材の育成が課題となりました。
脊髄損傷者一人ひとりの排便の問題は、単なる画一的な方法では解決できない困難な問題です。しかし、一歩一歩、その解決に向けて、さまざまな角度から研究を重ねていきたいと考えております。
今後ともご指導をよろしくお願いいたします。


研究所脳機能系障害研究部 大良 宏樹
演題:「P300と定常視覚誘発電位を併用したBMI型環境制御装置」
この度は、発表「P300と定常視覚誘発電位を併用したBMI型環境制御装置」をご評価頂きまして、誠にありがとうございます。
私は、東京工業大学大学院にて認知科学と知能工学の研究に従事しておりました。昨年4月より、センター研究所脳機能系障害研究部脳神経科学研究室にて研究を行なっております。
超高齢社会となった我が国では、加齢、疾病、外傷に伴う障害者の増加が予測されております。ブレイン-マシン・インターフェイス(BMI)は、操作者の意図に基づいて環境制御を可能とすることによって、障害者の自立支援のために役立つことが期待されております。センター研究所脳機能系障害研究部では、BMI型環境制御装置を開発しております。
本年度は、これまで開発してきましたBMI型環境制御装置に、新たに内製の視覚刺激装置と定常視覚誘発電位を検出する機構を開発し、追加することによって、訓練を必要としない、容易に操作することのできる主電源スイッチを用意しました。さらに、BMI型環境制御装置の主な対象となる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の方にご協力頂き、実際に訓練をせずに主電源スイッチを操作することが可能であることを報告させて頂きました。
この様に、その惹起に特段の訓練を必要としない定常視覚誘発電位成分を用いることによって、容易に主電源スイッチを操作することが可能となりました。現在、さらに検出時間を短縮するためなどの新規研究開発を行っております。
今後は、さらにこれらのBMI技術を研究開発し、実用化していくことで、患者・障害者の自立支援へと繋げていきたいと考えております。今後とも宜しくお願い申し上げます。


研究所脳機能系障害研究部 櫻田 武
演題:「多様なリハビリ運動実現のためのBMI型上肢アシストスーツ」
今回発表いたしました「多様なリハビリ運動実現のためのBMI型上肢アシストスーツ」をご評価いただき、誠にありがとうございます。
私は、機械工学ならびに神経科学を専門として、大学院のころより人間がどのように身体を動かしているかについて興味を持ってきました。今年度からは、より応用的な分野にも携わりたいという志の下に、脳機能系障害研究部脳神経科学研究室にて研究を開始しました。
現在開発を進めております上肢アシストスーツは、脳からの信号をもとに機械を操作するBMI(ブレイン‐マシンインターフェイス)技術により、装着者が自身の腕を「動かしたい」と思った時に、ある特定の脳波が検出されるように工夫されており、その脳波に基づいてアシストスーツが動かされます。このような人間の意図や意思を機械に反映させることは、BMI技術を利用するからこそ実現できるものであり、リハビリ訓練を行う際にも重要な要素であると考えています。
本システムを用いた将来的な実用化に向けて、解決していくべき課題や問題点はまだまだ少なくありません。例えば、装着者が「動かしたい」と思ってからアシストスーツが動作するまでの時間差はなるべく短くし、より自然な形で運動を補助しなければなりません。そのためには、アシストスーツ本体の改良に加え、脳波を計測する装置の改良や脳波を効率的に検出するための手法の開発も欠かせません。今後も継続してあらゆる面からの実験・分析を実施しながら、社会福祉への貢献に向けて一歩一歩進んでいきたいと考えています。
最後に、本研究に被験者としてご協力いただきました研究所内外の方々、ならびに共同研究者の皆様に改めて厚く御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


自立支援局神戸視力障害センター 土志田 武
演題:「平成22年度卒業生実態調査分析」
このたびは、特別賞をいただき、係一同大変感謝しております。
今回発表させていただきましたものは、神戸視力障害センターで、按摩・鍼灸という職業教育を受けた利用者の方々が、卒後、職業を含めどのような生活状況にあるのかを調査し、分析した結果であります。
仕事から得られる収入については、決定木を用いた分析を行い、仕事に対する満足度が高く、しかも、専門書や雑誌、インターネット等から仕事に関する知識を得ている者が多い収入となる事等の結果を得ました。
また、仕事から得られる収入は多くはないのに、仕事に対する満足度が高い方がいらっしゃることから、仕事に対する満足度にはどのような成分が関係しているのかを主成分分析を用いて調べてみました。
絆成分(人や社会との交流を持つといった成分。)があり、満足度が高い人では絆成分も多くなっているという結果が得られました。
日常生活については、世論調査との比較を行い、自由時間の過ごし方等では、家の中で一人でもできることが多く、人との交流や外出等は少ないという結果が得られました。
そして、人との交流の少なさを補うという意味が視覚障害者の仕事にはあるのではないかという考察を行いました。
こうした発表を行わせていただきましたが、今後は、上記の検討内容を深める研究を引き続き行うと共に、その課題の解決への取り組みを実践して行きたいと考えております。
特に、視覚障害者が、人との交流が少なく、家の中で過ごすことが多いという結果については、実践的に解決方法を探って行きたいと考えております。
最後になりますが、今回の発表に当たりましては、卒業生の方々を始め、多くの職員の方々にご協力をいただき大変感謝しております。紙面をお借りしてお礼申し上げます。

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