北米リハビリテーション工学カンファレンス 2012 参加・発表報告

研究所 中村美緒
 2012年6月30日から7月2日、北米リハビリテーション工学カンファレンスがアメリカ合衆国のボルチモア市で開催された。このカンファレンスは、北米地域で毎年開催されている学会である。エンジニアをはじめ作業療法士(以下OT)や理学療法士(以下PT)といった専門職や障害当事者など、リハビリテーション工学に関わる者が参加し、今回の参加者は3日間で約500名であった。(写真1)また、このカンファレンスを主催する北米リハビリテーション工学協会では、ATP(Assistive Technology Professional:福祉機器専門家)という福祉機器に精通した専門家の資格を設けている。そのため、カンファレンスでは、口述やポスターでの発表以外に49ものワークショップが開催されていた。ワークショップは専門職が資格を維持するための生涯教育の一環として行われていた。多くの専門職がこのカンファレンスに参加していたのはそのためであったのだ。現在日本には、福祉用具の専門家と言えば、福祉用具プランナーや福祉用具専門相談員といった資格があるが、専門職の間のこれら資格の認知度は低いと感じる。アメリカのように、生涯教育も含めてリハビリテーション工学に関するカンファレンスを開催するシステムは、非常に合理的で、専門職における福祉機器の認知度も高まるのではないかと感じた。
 今回、福祉機器開発部(井上、硯川、木下、筆者)では、新しく開発された福祉機器の臨床評価〜車いすからロボティックスまで〜」というテーマで東京大学の二瓶美里氏と共にワークショップを開催した。日本人のワークショップは唯一我々だけであり、不慣れな点も多かったが、質疑を通して参加者と臨床評価に関する意見交換をすることができた。新しい機器における臨床評価手法は、まだ確立されていないため、この様な意見交換の場は、今後、評価手法を確立していくためのプロセスとして非常に重要であると感じた。また、筆者はポスターにて、パナソニック株式会社と共同研究しているロボティックベッドの臨床評価について発表した。(写真2)質疑を通して、韓国やアメリカの福祉機器の臨床評価の現状を知ることができた。これらの国でも、やはりはじめは我々の評価と同様、専門職に試乗、聞き取り調査を行っていたが、彼らと我々の評価の相違点は、次の段階の評価である。彼らは、引き続いて専門職に聞き取りを行っているが、我々は、早い段階でユーザを対象に試乗や聞き取りを導入していた。質問者らもその点に興味を示していた。英語能力の問題で質問者の話を完全に理解しきれない部分もあったが、海外の研究者と直接情報交換できたことは大変有意義であり、今後ロボティックベッドの評価を行う上で参考にしていきたい。
 カンファレンス期間中に、Kennedy Krieger Instituteを見学する機会を得た。(写真3)このInstituteは、脳、脊髄、筋骨格系の障害のある人々の生活の向上のために、治療やケア、研究を行っている、国際的に認められた機関である。小児や青年を対象とした施設であり、患者ケア、研究、専門的な訓練、特殊教育、コミュニティー支援といった5つの活動を行っていた。Instituteには、水治療法、OT、PT、STなど多くの診療部門があり、先進的治療が受けられるようになっていた。特に興味を持ったのは、シーティングクリニックである。ここでは福祉機器業者がInstitute内に常駐しているのだ。これはInstituteが地域一帯の中核的存在で、遠方から来所する患者に対し迅速で適切な対応が迫られているためではないかと思われる。国リハでも、週1度シーティングクリニックが開かれており、県外からも患者が来院している。シーティングクリニックの利用患者数や業者の雇用形態等の問題もあるが、日本でもこのようなシステムを取り入れられるとよいのではないかと感じた。また、Institute内のセラピーガーデンは、感覚統合的要素を導入した遊び場だけでなく、車いす走行の練習場にもなっていた。(写真4)
 ボルチモアはアメリカの東海岸にあり、ワシントンDCから車で1時間ほどの場所に位置した大きな都市である。チェサピーク湾の奥部にあり、古くから天然の良港として知られ、カニやエビなどのシーフード料理が名物である。また、ベーブルースが誕生した町で、ボルチモア・オリオールズの本拠地でもあることから野球に関して有名な場所でもある。夜の9時ごろまで明るいこともあり、学会終了後に会場の周辺を散策した。会場ホテルは海辺に面しており、近くには美術館や水族館、ショッピングセンターなど多くの観光スポットがあった。次はぜひ観光で訪れてみたい。
 最後に私事ではあるが、今回の出張にて往復2回のロストバゲッジに遭遇し、行きは発表用のポスターが紛失し、帰りはスーツケースが無くなった。また、天候不良によって飛行機が遅延し、日本への乗継便にのれなかったなど、様々なトラブルに見舞われたが、どうにか無事に帰国することができた。
 今回のカンファレンスを通して知り得た、福祉機器に関する最近の北米での傾向や情報を、今後の研究活動に活かしていきたい。
 
(写真1) RESNAカンファレンス会場にて (写真2) 数日遅れで到着したポスターの前で
写真1 RESNAカンファレンス会場にて 写真2 数日遅れで到着したポスターの前で
 
(写真3) Kennedy Krieger Instituteにて (写真4) Institute内のセラピーガーデン
写真3 Kennedy Krieger Instituteにて 写真4 Institute内のセラピーガーデン
 
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