『糖尿病と眼』

第二診療部長  仲泊 聡


1. 糖尿病ってなに?
 糖尿病は、尿に糖が混ざるところからその名前がついた病気です。そのような状態は、血液の中にブドウ糖が多くなりすぎることによって生じます。そしてこれは、インスリンというホルモンの働きが悪くなることによって生じるのです。
 では、インスリンとは一体何をしているものなのでしょう。
 インスリンは、血中のブドウ糖を細胞内に取り込むときに必要になるものです。このため、インスリンが不足したり、働きにくくなると血中のブドウ糖は細胞に取り込まれずに血中に残り、その結果、血液の中のブドウ糖の量、すなわち血糖値が上昇することになります。ここで見落としてはならないことは、体中の細胞がそのために充分なブドウ糖を取り込めなくなりヘタレてくることにあります。

2. 糖尿病合併症の一つ"糖尿病網膜症"
 糖尿病が長く続くと様々な合併症を生じます。糖尿病合併症には、太い血管が障害されるものと、細い血管が障害されるものがあります。前者では脳卒中や心筋梗塞が生じ、後者では糖尿病網膜症、糖尿病神経症、糖尿病腎症が生じます。そもそも網膜は、眼のフィルムにあたる役割をもっている組織ですから、そこに支障をきたしては一大事です。これらの合併症の発症には、高血糖だけでなく、高血圧と高脂血症が大きく関係します。
 ところで、糖尿病網膜症は、昔、糖尿病性網膜症と言っていました。しかし、今は正式な眼科学用語として糖尿病網膜症で統一されています。この記事を見た方は、今後、間違えないようにお願い致します。

3. 失明原因のトップ
 2009年に私達が行った調査から推定しますと、良いほうの眼の矯正視力が0.1以下の人はわが国に約11万人いるようです。糖尿病網膜症は、以前より中途失明の原因として有名でしたが、医療の進歩によって、失明する方が大分減ってきています。しかし、良いほうの眼の矯正視力が0.1以下の人の原因疾患としては、糖尿病網膜症が全体の約2割と今だにトップです。

4. 糖尿病網膜症ってどうしておきるの?
 高血糖が続くと網膜の細小血管に異変が生じます。細小血管というのは動脈から毛細血管になる直前の細い血管のことです。そして、ここが詰まると毛細血管に血液が行かなくなります。体の細胞は、毛細血管から酸素と栄養を受けます。細胞が酸素不足、栄養不足になり、眼の網膜では部分的に浮腫を起こします。そして、SOSのサインである血管内皮増殖因子が出されることになり、これを受けて、酸素や栄養を運ぶために血管が新しく生えてきます。しかし、この新生血管は非常にもろくて破けやすく、そのうえ眼球内の本来血管があまりないところにも生えて、さらに破けて出血しいろいろと支障をきたすことになります。
 硝子体は、眼の中央にあって本来血管のない透明なゲル状の組織です。そこに出血が生じると、眼の中が血の海となり見えなくなります。これが硝子体出血です。この出血はやがて引けてまた見えるようになりますが、線維成分が残り、これが収縮して網膜を内側から剥がしてしまい網膜剥離となります。一方、眼内の水の循環にもこの新生血管が悪さをします。排水溝に血管内皮増殖因子がたまり、新生してきた血管が排水溝を詰まらせ、非常に治りにくい緑内障を引き起こすことになります。
 このように糖尿病網膜症では、網膜自体の弱さも生じますが、それ以上に硝子体出血や緑内障が生じ、失明に至ることになるのです。

5. 糖尿病網膜症っていわれたらどうする?
 糖尿病と糖尿病網膜症は、よく木の病気に例えられます。糖尿病は幹の病気で、糖尿病網膜症は枝の病気です。幹の病気が治らなければ枝の病気は治りません。幹の病気が治っても手遅れになると枝は落ちてしまいます。だから、早期発見早期治療が大切です。幹の病気はなかなか自覚できません。枝に病気が出てきて初めてその怖さがわかります。しかし、そのときは既に幹の病気はかなり進行しているので、枝だけ治すということはできないのです。要するに糖尿病網膜症と言われた場合、すべきことは、幹の病気である糖尿病自体をしっかり治療することにつきます。最近ではインスリンをはじめいろいろな薬が改良されてきました。しかし、それでも食事療法や運動療法がかわらずに大事です。

6. 糖尿病網膜症の治療
 糖尿病の治療を行いながら、同時に糖尿病網膜症の手だてを行うこともあります。しかし、糖尿病網膜症の治療には、元の様にすっかり良くするというものはありせん。網膜に新生血管が発生しそうだとわかったら、レーザーによる治療を行います。片目に約1500発もの小さな火傷をレーザーでつけます。これは、血管内皮増殖因子を出す細胞を減らすことが目的なので、視力がよくなるということは期待できません。ただ、視力は網膜の中心部分の状態によりますので、周辺網膜にレーザーを当てることで中心を保たせ、できるだけ視力を落とさないようにします。しかし、それでも病状が進んで硝子体出血が発症した場合、器械で眼の中を掃除します。これが硝子体手術です。
 最近では、器械と手術手技が進歩し、ある程度の視力改善が見込めるほどになりました。これが、糖尿病網膜症の失明率の低下に大きく貢献しています。それでも、この手術を受けなくてもいいように糖尿病をしっかり直すことが第一であるということは言うまでもありません。

7. 糖尿病にならないために
 最後に、糖尿病にならないためにはどうしたらいいかお話しします。
 糖尿病の予防はなんと言っても食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足にならないようにすることです。そのためにしなければいけないことは、色々なところに色々と書かれています。しかし、ご飯を控えてもそれ以上にお菓子を食べていてはだめです。運動して足腰を痛めてしまう人もいるでしょう。言うは易し行うは難しというのが糖尿病予防です。そこで、たった一つだけアドバイスをします。それは、適正体重を栄養士さんや内科の先生に聞いて、それに向けて体重測定を行うことです。
 体重測定は朝食前後と夕食前後と就寝前の一日5回行います。こうすることによって食事と運動と体重の関係を体得することができます。そして、同時に食欲が抑えられます。体重が減らないうちは食事制限が不足していると判断します。これまでなかなかダイエットがうまくいかなった方には、この方法はとくにお勧めです。

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