禁煙のすすめ

健康増進センター 冨安幸志

 今は昔、カナダ人から英会話の個人レッスンを受けたことがありました。彼は毎日タバコを吸う88歳になる知人がとても健康で元気だという事例を話し、喫煙していても長生きできるという論理を得意気に話していました。しかしあるとき風邪をひき、二階へ上がる際に呼吸苦のため階段を這ってようやくたどりついた経験をしたことから、二度とタバコは吸わないと決心し、それ以来やめてしまいました。
 孫の誕生を期に仕方なくやめた人、マージャン中に咳を指摘され意地でやめた人、様々な理由から禁煙に成功した人と話しました。
 逆に禁煙にまったく無関心な人(タバコをやめる気の無い人)に対しては、その考えを聞き受容する。こちらの見解や気づいたことを伝える。いつでも相談にのれるようにする。以上3点が推奨されています。へたに意見すると人間関係にひびが入ってしまいます。
 少しでも禁煙に関心を示してもらえればしめたもの。準備、実行、維持と確立された禁煙プログラムに従って進んで行けます。
 大阪がん循環器病予防センター 中村正和先生の「医療や産業現場での禁煙支援・治療実際」という産業医向けの講義を昨年9月に傾聴してきました。

まずはタバコの害の話から
 禁煙の重要性をお伝えします。図1にありますように喫煙の悪影響は肺や気管支だけでなく全身に悪影響をきたすことから「重要かつ優先順位が高い健康課題である」のがお分かりいただけるでしょう。煙の中には有害物質が多く含まれ(図2)、副流煙とよばれる間接的な受動喫煙からの影響もばかにはできません。アルコールやコーヒーなどの嗜好品には昔からそれらの摂取が健康に良いという論文や発表が多くなされていますが、残念ながらタバコに関しては内科関連では良い話は聞いたことがありません。

図1
図2

タバコをやめると?
 疫学調査の結果では図3のように10年以上の年月が経つと肺がんの死亡率は非喫煙者に近づき下がってきます。禁煙の効果が年月とともに確実に現れてくることがわかります。早くやめるとそれだけ早く良くなることもあるのです。
図3

なぜそれでもタバコはおいしいのか
 タバコをやめにくいのはタバコの依存性にあります。身体的依存(ニコチンへの渇望)と精神的依存(習慣)があるためです。禁煙後にいらいらや不眠などが出現するのはタバコそのもののせいであり、やめることは決して楽ではないのです。

楽にやめる方法は
 禁煙に対する思い込みを一度リセットしてみましょう。自分の意思の力だけで克服しようとせず、手助けしてくれる医師や薬剤を上手に使うようにします。今はいい薬が手軽に使える時代なのです。
 何かを実行する過程において、さまざまな要因で失敗することはよくあります。もし禁煙に失敗したとしても、「禁煙に失敗はつきものであり、今回の経験が次回に役立つプロセスである」と考えます(あきらめない)。
 昨今、カウンセリングや薬物療法を提供してくれる医療機関は増えてきています。禁煙補助剤を使った治療のメリットは主に3つあります。(①比較的楽にやめられる。②より確実にやめられる。③あまりお金をかけずにやめられる。)
 治療期間は大体12週間で1日1箱のタバコ代より安い医療費で済みます。特にヘビースモーカーの人には気軽に禁煙外来を訪れていただきたいと思います。
 「1日数本だから自分は大丈夫」という軽度スモーカーの人には図4を参考にしてみて下さい。その場合大切なことは禁煙開始日を設定することです。年初め、誕生日、結婚記念日など自分にとって特別な意味のある日。盆休みや正月休みなど仕事が一段落して時間にゆとりのあるときが理想的です。

図4
余談ですが・・・1mg
 タール含有量が1mgという健康志向?のタバコが出現した頃の話です。
 外来患者さんがタール1mgのタバコは美味しくなく3mgのものなら美味しいと話してくれました。健康とタバコをいかに両立させるかを真剣に模索しているようでした。当時の私は間髪おかず、「どちらにしても良くないのでやめてください」と無下にお答えしました。
 iPS細胞が人口に膾炙する昨今ですが、まったく無害でタバコに代わるタバコより美味しいものを人間の英知を集めて、開発して欲しいものです。

 本稿の図はNPO法人 日本人間ドック健診協会 編集発行 「健康読本 もっと」から引用させていただきました。
 本文は昨年12月に本館4階講堂にて実施された第53回国立障害者リハビリテーションセンター健康教室での内容をもとに構成しました。

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