日本における頸髄損傷者のリハは、基礎的身体能力の回復・ADLの獲得・余暇的活動や生産的活動(たとえば絵筆を使用した絵画、パソコンを使用した事務的仕事の習得など)の習慣化等を目標に行われている。中でも完全損傷者のADL獲得においては、頸髄のどの部位を損傷したかによって、獲得できる動作が大きく変わってしまうため、Zancolli分類を用いてレベル別に予後予測し支援している。
海外ではASIA(アメリカ脊髄損傷協会)の脊髄損傷の神経学的分類基準がスタンダードとされており、結果がすべてデジタルで表現できるためにデータベース化に適している。しかしASIAの判定では、一髄節ごとの大まかな評価しかできず、各々の点数を見たときに、残存機能を十分把握することが困難である。一方Zancolli分類は、頸髄損傷者の機能レベルの判定を目的に開発されたものではなく、四肢麻痺の上肢機能再建を行うための分類として開発されたものであるが、特にC6を中心とした一髄節の中でも幅広い機能差を持つクラスを表現するに適した分類方法であるといえる。
しかし、自立支援局3施設(国立障害者リハビリテーションセンター自立訓練部、自立支援局伊東重度障害者センター、同別府重度障害者センター)での評価方法を調査したところ、徒手筋力テスト(以下、MMT)のプラス(+)とマイナス(−)の解釈や、Zancolli分類「with・without・strong・weak」 の解釈に相違があることが分かった。結果として、筋力評価・段階分けにばらつきが見られ、データ共有が困難な状況となっていたため、共通の評価基準を定めることとした。今回の取り組みは、理学療法士を中心に平成23年よりスタートし、話し合いを重ねることで3施設共に納得する形で統一することができた。
今後は、共通の評価基準を用いることで、自立支援局3施設間でのデータ共有が可能となる。現在は、今回の検討結果に基づき、各施設の作業療法士を中心に『障害程度別標準期間及びADL獲得レベルの標準化』を進めている。
国立三施設間共有事項
●「MMTで使用する段階について」
MMTについては、「新・徒手筋力検査法原著第8版」に基づき9段階を使用する。ただし、2+に関しては足底屈筋の強さを段階づけるときにのみ用いる。
●「MMTの留意点」
①徒手による抵抗のかけ方は、「抑止テスト」にて行う。
②上腕三頭筋MMT3以上の検査肢位について
「新・徒手筋力検査法原著第8版」に基づいた肢位以外に、車いす座位肩関節180°屈曲位・背臥位肩関節90°屈曲位での測定を認め、身体状況に応じて対応する。
③円回内筋MMT3以下の検査肢位について
「新・徒手筋力検査法原著第8版」に基づいた肢位以外に、車いす上前屈位での測定を認め、身体状況に応じて対応する。
●「Zancolli分類原表(with・without・weak・strong)の解釈」
「with」MMT3から5、「without」MMT0から2、「weak」MMT2−から3、「strong」MMT3+から5とする。
「C4レベルからZancolli分類C6BⅢまでの分類について」
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上腕二頭筋 |
腕橈骨筋 |
長短橈側 手根伸筋 |
円回内筋 |
上腕 三頭筋 |
橈側 手根屈筋 |
C4レベル |
0〜2 |
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C5A |
3〜5 |
0〜2 |
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C5B |
3〜5 |
3〜5 |
0・1 |
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C6A |
3〜5 |
3〜5 |
2−〜3 |
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C6BⅠ |
3〜5 |
3〜5 |
3+〜5 |
0〜2 |
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C6BⅡ |
3〜5 |
3〜5 |
3+〜5 |
3〜5 |
両筋0〜2、あるいは 一方の筋3〜5※ |
C6BⅢ |
3〜5 |
3〜5 |
3+〜5 |
3〜5 |
3〜5 |
※上腕三頭筋と橈側手根屈筋の両筋がMMT0〜2、あるいはどちらか一方の筋がMMT3〜5かつ他方の筋がMMT0〜2の場合にC6BⅡとなる
「Zancolli分類C7AからC8BⅡまでの分類について」
クラス/筋名 |
4・5指伸筋群
| 2・3指伸筋群
| 母指伸筋群
| 4・5指屈筋群
| 2・3指屈筋群
| 母指屈筋群
母指球筋
| 浅指屈筋
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C7A |
3〜5 |
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C7B |
3〜5 |
2−〜3 |
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C8A |
3+〜5 |
3〜5 |
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C8BT |
3〜5 |
2−〜3 |
0〜2 |
C8BU |
3〜5 |