国際セミナー"障害者の健康増進とスポーツ"開催報告

管理部企画課国際協力係

 当センターでは病院に健康増進センターを設立し、障害がある人々の健康づくりとスポーツ普及に関する活動を行っています。この活動を更に発展させ、国内外の情報を得ることを目的として、3月2日(土)に国際セミナーを開催いたしました。
 当センターはWHOの指定研究協力センターとして毎年国際セミナーを開催しています。今回は日本が所属するWHO西太平洋地域事務局の担当オフィサーであるPuline Kleinitz氏に基調講演者として2年前に発行された障害に関する世界報告書(World Report on Disability)の概要を講演していただきました。
 世界報告書の概要版については当センターが日本語訳を作成しホームページ上で公開しています。
http://www.rehab.go.jp/whoclbc/japanese/worldreport.html

 基調講演では、世界74カ国からの報告を網羅し、障害がある方々が内容のチェックを行ったこの報告書は、各国の政府や市民社会に対し、障害がある人々の現状と対応に関する分析を提供し、障害者権利条約の実行を支援することを主な目的として作成されたことや、報告書の概要として、障害となるバリア、障害像、医療、リハビリテーション、支援、環境、教育、雇用、最後に推奨される行動について記載されていることが紹介されました。
 スポーツに関しては、社会の理解と認識の重要性、インクルーシブスポーツを実現するための能力開発と資金、プログラムの企画から障害がある人々を含めることの重要性を述べました。


写真1
写真1
 
 基調講演の後は、海外3カ国、国内4人の専門家による発表を行ないましたので概要を紹介します。
  • ① タイの障害者健康増進研究所長のWachara Riewpaiboon氏にはタイにおける障害がある人々の健康増進に関する取り組みを紹介していただきました。
     タイでは障害のある人々の70%は農村部に住んでおり、低教育、低所得の状況にあります。一方で2005年から障害がある人々の健康増進プログラムが進み、現在までにバリアに関する研究、社会参加を強化するための取り組みなどが行なわれていることが紹介されました。
  • ② ドイツ車いす連盟の指導委員会委員長であり、障害がある人々のスポーツ指導に長年従事してきたHorst Strohkendl氏はドイツにおけるスポーツのコミュニティプログラムの活動を紹介し、一般の人々もスポーツの活動の中で障害がある人々を支援することができることを述べられました。
  • ③ 韓国のパラリンピック委員会のメンバーであり、韓国障害者スポーツトレーニングセンターの事務局長であるCho Hyang-Hyun氏は韓国の障害者スポーツ発展のためのパラリンピック委員会の活動について紹介しました。韓国では競技大会に出場するアスリートの数と国の資金協力は年々増加しています。障害者スポーツトレーニングセンターではトップアスリートを育成するためにスポーツ科学に基づいた訓練・環境を整備しており、5年後に韓国で開催される冬季パラリンピックに向けて強化を図っているとの事です。
  • ④ 厚生労働省の障害保健福祉部の君島淳二自立振興支援室長は、わが国の障害者スポーツの現状と課題について発表いたしました。身体障害者スポーツ大会とそのための各県での競技大会の実施をはじめとして、大分国際車いすマラソン大会、車いすバスケットボール大会などが障害者スポーツの普及につながっていること。課題として若い競技者の発掘、練習場所の確保、スポーツに従事する人材育成があげられると述べました。
  • ⑤ 日本の障害者スポーツの要である日本障害者スポーツ協会からは、日本パラリンピック委員会事務局長でもある中森邦男氏に日本における障害者スポーツの発展の経過と過去のパラリンピックから昨年のロンドンパラリンピックまでの日本の成績、選手の強化体制の現状について紹介していただきました。
     国からの助成費は年々増加しているが、順位は上っていないとの事でした。
  • ⑥ 自治体での取り組みとして、横浜市総合リハビリテーションセンターの小池純子センター長には、隣接する横浜ラポールとリハビリテーションセンターにおける地域生活を支援することを目的としたプログラムの紹介をしていただきました。リハビリテーション医療・福祉を支える総合リハビリテーションセンターとスポーツ、文化活動を実施する横浜ラポールが地域の障害がある人々の健康増進のために様々な支援プログラムを実施し、障害がある子どもがヨットセーリングを楽しめるように、NPOと協力して用具の開発や、介助技術の指導等に取り組んだ活動の紹介をしていただきました。
  • ⑦ 当センターからは病院健康増進センターの飛松好子センター長が障害がある人々の生活習慣病や健康寿命の短縮の要因について説明し、健康増進センターにおける健康づくりの取り組みとして行なっている栄養、運動、保健の各方向からの支援、人間ドック、健康教室等の実施と健康状態の調査について紹介しました。もう一つの柱である障害者スポーツを支援・推進するための取り組み、パラリンピック選手へのメディカルチェックや練習の場の提供等の活動について発表しました。

最後に会場の参加者からの質問とディスカッションがあり、4時間に亘るセミナーを終了しました。
 
写真1
写真2
 
 今回のテーマは障害がある人々の生活に大きな影響をもたらす健康状態の維持と直近のパラリンピックで人々が注目したスポーツに焦点を当てました。 講演者によってテーマの重心が異なり、全体として一つの方向に向かったものにはならなかった部分もありましたが、当センターとしてもこれから推進していく課題であり、各国との連携や、セミナーに参加していただいた皆様からの声を活かして健康増進事業を進めて行きたいと考えております。
この場を借りてセミナーに参加していただいた皆様に感謝いたします。
 


戻る(o)