平成25年度 障害者週間記念特別講演の開催について
                企画・情報部企画課

去る、12月6日(金)当センター講堂において、障害者週間記念式典に引き続き、又野亜希子さんをお招きし、特別講演を開催しました。

 特別講演には当センターで開催した国リハコレクション2012に当事者モデルとして参加していただいた又野亜希子さんに「車イス生活でのファッションライフ〜手軽に手頃に自分らしいオシャレを〜」と題して、講演いただきました。

 『交通事故で怪我をし、頸髄損傷となりました。その入院中は生きることに自暴自棄になっていて、「おしゃれ」にはまったく関心がありませんでした。
 頭はぼうず頭で寝癖も気にせず、服はスウェットで外出していましたが、9年経過し、お気に入りの雑誌を購読し、流行を意識して「おしゃれ」を楽しめるようになりました。  私の理想のファッションライフについて、歩いていたころのように何気なく1人で買い物に行ってふらっとお店に入って、気に入ったものを手にとって、試着をして。そのような買い物をしてみたいと思います。
 でもそれはなかなか難しいことです。
 1人で買い物に出かける。町にはバリアがいっぱいあって、なかなかそうふらっと買い物にでかけるなんて難しいです。
 また、既製品の服も立っている人に合わせて作られています。見たのと手にとって着てみるのでは大違いです。どれほどの服で失敗したことでしょう。何着も何着も着てみては失敗、買い物は大変でした。
 実際に既製品の服を着て思ったことは、まず、トップス(上半身)の丈が短いです。車椅子に座っていると手を動かします。そうするとだんだんだんだん丈が上がってきてしまいます。頸髄損傷の場合、腹筋・背筋がききません。どうしても下腹・背中がでてきてしまいます。
 そしてボトムス(パンツ)について、立っていたころのパンツはきつくてとてもはけません。座っているのでゆとりがあるもののほうがはきやすい。日頃はいていたものよりワンサイズ、ツーサイズ大きなものでないとはけません。
 スカートもはいてみたい。しかし、市販の物ですと丈が短いので、ちょうどよい丈のスカートを探すのは本当に苦労しました。スカートのデザインもブレア・プリーツそうしたものしかはけません。タイトやペンシルスカートなどはとてもとてもはけません。
 アウター(ジャケット・コート)は長めにできているので、車椅子に乗るともたついてしまい、見た感じもとても悪くなります。
 スーツのジャケットも本来ならば体にフィットしたものが素敵に見えるのですが、やはりゆとりがないととても着ていることができません。
 靴についてです。車椅子生活になると足がむくみます。また、痛みがわからず、靴擦れがおきてしまいます。退院してから何度も靴擦れをおこしました。幅ひろの靴でないとはけません。また、幅くつでお気に入りのものにであうことはなかなかありません。それならば、オーダーして作ろうと思いました。
 まず、靴をオーダーして作りました。その後服もオーダーで作りました。それはそれは着心地のいいものができました。でも、それを毎年着るか、毎年履くか。やっぱり流行のものが着たくなります、履きたくなります。そのときの気分にあったものがほしくなります。やはり難しいと思います。』
 実際に着ている服の紹介を行いました。
 『キュロットについて国リハコレクションで作ったもので、ボタンの変わりにマグネットになっています。握力が極端に弱いので、非常に使いやすいです。形も立体的になっているので、着ていて背中がでてくることがありません。
 アウターについてこれも国リハコレクションで作ったもので、やわらかい素材で丈もちょうどいい。こうしたものは車椅子を漕いでいて非常に使いやすいです。ボタンも強力なマグネットになっていますので、非常に着易いです。
 靴は底がゴムになっていて、車椅子から落ちないようになっています。またベルトが付いていて、車からの乗り降りの際に脱げない様になっています。
 ショッピングについて、理想とするのは気軽なショッピングです。好きなときに出かけて、好きなブランドのお店で好きな服を着る。でもそれはなかなか大変です。そこで利用するのがネットショッピングです。インターネットで買い物することは「買い物」についてバリアフリーにしてくれました。自分の好きな時間に好きなブランドを購入できる。また、買ったものは宅配されて家で試着できる。もしも体にあわなければ返品することができる。お店に買いにいくときにはなかなかズボンの試着は難しいので家に持ち帰ってから試着します。体に合わなかったらまたお店に返しに行くことになります。これでは手軽に「おしゃれ」を楽しむことができません。 インターネットは短時間で検索し、購入することができます。
 また、手頃に「おしゃれ」をすること、これも非常に大切だと思います。高いお値段を支払って「おしゃれ」をすることは大変なことです。手頃に好きな服が手に入る。これも「おしゃれ」を楽しむ大きなポイントだと思います。そして自分らしい「おしゃれ」をする。
 手頃なショッピングについてファストファッションがあります。ファストファッションとは流行を取り入れつつ低価格に抑えた衣料品を大量生産し、短いサイクルで販売することになります。国内外でたくさんのメーカーがあります。
 障害のある人が流行にトライしたいが、日頃自分に合う服を見つけるのでさえ大変であるのに、流行の服を手に入れることはなかなか難しいです。 でも、このファストファッションでは手軽にトライすることができます。インターネットで検索すると通常店舗に置いていないサイズもあるので、非常に便利です。
 次に「自分らしいおしゃれ」ということについてお話します。「自分らしいおしゃれ」はとても大事だと思っています。人の好み、価値観、障害、生活のスタイルによって環境、体の状態等によって望むファッションは人それぞれ異なると思います。
 車椅子生活になったばかりのころ、歩いていたころのおしゃれの感覚ばかり追い求めていました。よく「おしゃれは我慢」といいます。歩いていた時からその言葉に共感していました。どんなに苦しくても細身のデニムをはき、どんなに足が痛くても高いヒールを履き、どんなに肩がこってもシルエットのよいぴったりとしたコートを着ていました。車椅子生活になっても、我慢だと思っていた時期があり、かわいいスカートや細身のジャケットがいいなあと思い購入して着てきました。でも障害者にとって我慢は危険なことでした。褥瘡や体調不良の原因になってしまいます。障害者になって9年経って障害のある自分をちょっと受け入れられるようになってきました。そうしたことでファッションについての感覚も変わってきました。やっぱり着易いもの、動き易いものに自分の好みや流行を取り入れていきたいと思うようになりました。無理なく流行を楽しみたいと思うようになりました。
 今は購入したもので「おしゃれ」を楽しんでいます。でもこれからスタイルも体の状態も変わっていくでしょう。そこで思うことはオーダー・リフォームです。
 オーダー・リフォームも手軽で手頃なものでないとやっぱりおしゃれできません。ですので、そのようなことができるネットワークが広がることを願っています。
 「おしゃれ」をすること。それは心を元気にしてくれる、心を前向きにしてくれる、心を健康にしてくれることではないかと思っています。
 先日講演活動で地方に電車で行くことがありました。特急電車に乗って向かいました。駅員さんがなんでもやってくれますので、電車での移動は何の不安も無く安心だと思っていました。その路線はカーブが多く非常に揺れました。車椅子専用の席にいたのですが、ふとした拍子に車椅子ごと転倒してしまいました。気づくと回りの方々が優しく助けてくれて、椅子に座らせてくれました。このことはものすごくショックな出来事でした。
 無事に講演が終わり、帰りは駅員さんにお願いして椅子席に座らせてもらいました。無事に都内のターミナル駅に戻ってきました。ふと外を見るときれいな町並みが眼に入ってきました。それを見た瞬間久しぶりに涙がでました。車椅子生活になりたてのころは過去を振り返り、また歩きたい、なんで私だけと思いよく泣いていました。9年経ち気持ちは前へ前へとなり過去を振り返ることはなくなりました。でもそんなハプニングをきっかけに涙がでてきました。「私なにやっているのだろう」と思いました。電車を降りて、車椅子をこいでいると、周りはきれいな人ばっかり、「私はなんでこんな車椅子で・・・」自分がみすぼらしく、みじめに感じていました。そんな中、駅の構内に大きな鏡がありました。
 そこにふっと写った自分・・・
 そんなにみすぼらしくありませんでした。
 そんなに恥ずかしい姿ではありませんでした。
 自分の好きなスーツを着てバックを持って、靴を履いていました。
 入院していたころのみすぼらしい自分とはまったく違う自分が鏡の中にいました。
 その瞬間
 「よし、明日からまた頑張ろう! 今日のことはいい経験になった。」
 と思えました。
 「おしゃれ」をすることが自分の精神のためにもこんなに大事なことなのだと感じました。
 1人でも笑顔の障害者の方が増えることを願います。』
  講演活動でお忙しい中、「障害者とファッション」についてご講演いただいた又野亜希子さんにこの紙面をお借りして厚く御礼申し上げますと共に、ますますのご活躍を祈念して障害者週間記念式典特別講演のご報告とさせていただきます。
写真:講演を行う又野亜希子さん



戻る(o)