パラリンピック・スポーツ調査報告書
「ソチ2014パラリンピック冬季競技大会」
                障害者健康増進・スポーツ科学支援センター
山下文弥

障害者健康増進・スポーツ科学支援センターでは、スポーツ支援事業の一環として、競技者の活動、スポーツ大会での運営体制の調査を目的に、ソチパラリンピックの開会式・アルペンスキー種目の滑降を視察してきましたので、体験した現地情報も含めて報告いたします。

大会概要
大会名:「ソチ2014パラリンピック冬季競技大会(通称:ソチパラリンピック)」
大会期間:2014年3月7日(金)開会式〜16日(日)閉会式 10日間
開催国ロシア(ソチ)
*黒海沿岸地区
 (アイススレッジホッケー・車椅子カーリング)
*クラースナヤ・ポリャーナ山岳地区
 (アルペンスキー・クロスカントリー・バイアスロン)
参加選手数約650名
開催規模5競技 72種目
実施競技アルペンスキー(新種目:スノーボードクロス)
クロスカントリースキー
バイアスロン
アイススレッジホッケー
車いすカーリング
【日本選手団の概要】
参加人数選手20名(アルペンスキー12名、クロスカントリー・バイアスロン8名)、コーチ・役員22名、本部役員13名の総勢55名で、個人種目を中心とした構成でした。(1月31日現在)
 
*出展:ソチ2014パラリンピック冬季競技大会
日本代表選手団ハンドブック(2014年)
公益財団法人日本障害者スポーツ協会
日本パラリンピック委員会[発行]


【1日目:日本出発〜モスクワへ】
海外は、13年ぶりで、調査が決まった日から緊張していました。
 3月6日、日本時間13時に成田を出発し、約10時間のフライトを終え、現地時間18時30分にモスクワに到着した時には、ほっとしました(時差は−5時間)。その後、空港近くのホテルへ向い、その日は、打ち合わせを兼ねて夕食となりました。


【2日目:ソチ〜開会式へ】
モスクワからソチまでは、飛行機で2時間30分です。
 ソチは、トルコ・ブルガリア・ルーマニアなどが囲む黒海に面しており、ロシアでは南部で、日本の札幌と同じ緯度に位置します。海・山に挟まれた環境は、ロシア国内でも有数のリゾート地で、避寒地でもあり、気候は温暖です(*)。滞在期間中、早朝は、5℃前後まで冷えますが、日中は15〜17℃と、比較的過ごしやすい環境でした。
 空港到着後、すぐにセキュリティチェックのためのスペクテーターパス(身分証明書)を渡されました。今大会では、入場の際に、観戦チケットのみで入場することは出来ず、このスペクテーターパスの提示が必ず求められました。競技会場は、勿論のこと、ソチに入る公共交通機関など、すべてのゲートで、数回のセキュリティチェックを受けました。
写真1:開会式セレモニー写真1. 開会式セレモニー
 オリンピックパークには、アイススレッジホッケー・車いすカーリングの会場が併設されていました。また、スポンサー企業を中心とした、各種ブースが設けられ、多くの人で賑わっていました。
 開会式が行われたオリンピックスタジアムは、満員御礼で、開会式開始5分前から、人が波打つ様子と大きな歓声に包まれていました。
 プーチン大統領の開会宣言を受け、平和の祭典が始まりました。セレモニーでは、雪をイメージした衣装や演出、映像を駆使した表現など、圧倒的な迫力でした(写真1)。
(*)ソチオリンピック・パラリンピック 安全の手引き 在ロシア日本国大使館


【3日目:アルペン競技視察】
競技1日目は、アルペンスキーの視察をしました。
 当日は、晴天で、大量の使い捨てカイロと防寒着のフル装備で、会場入りをしたのですが、会場まで、雪はなく、砂利道を歩き、汗をかくほど暖かい気候でした(写真2)。
写真2:アルペンスキー競技会場入口写真2.アルペンスキー競技会場入口
 会場までは、バス・ゴンドラでの移動でした。ゴンドラは、15人ほど収容できる物と車椅子の方が3名乗車可能な物も見受けられました。このゴンドラからは、選手村やオリンピックで使われたハーフパイプ会場跡を見ることが出来ました。トイレは、見る限りスロープが備え付けられていました。常設してある機材などは、全て、オリンピックでも使用したものが活用されていたようです。
 アルペンスキーの会場は、ローザ・コテル・アルパイン・センターと呼ばれ、スタンドは満員で、アルペンスキーの人気の高さを感じました(写真3)。
写真3:アルペンスキー競技会場写真3.アルペンスキー競技会場
 自然が頼りの屋外競技会場では、滑走前に、硬化剤で雪を固めて調整する等、コース作りに追われている状況も見てとれました。
滑走は、視覚・立位・座位の順番に行われ、日本選手は、立位2名、座位4名のエントリーでした。
 私が視察したアルペンスキー種目の滑降は、一発勝負で、最高速度100km/hにも及ぶ競技です。コンマ1秒を争う、限界ギリギリのパフォーマンスは、会場を沸かせていました。約半数の選手が、転倒するなど、コース環境が厳しいことが見て取れました。終盤には、激しく転倒し、ヘリで救急搬送される選手も出てしまう状態でした。
 その直後、狩野選手が、圧倒的なスピード、正確なターンでゴールし、電光掲示板にトップタイムが掲示された瞬間、会場全体が大きな歓声と拍手に包まれ、日本選手団初の金メダル獲得は、言葉には表せない興奮を覚えました。
 興奮冷めやらぬまま、ホテルでの夕食は、金メダル獲得を思い浮かべながら、ウォッカに挑み、30分後には夢の中で金メダルを噛みしめていました。


【4日目:競技視察〜帰国】
ソチ〜モスクワ〜日本へと無事に帰途に着きました。
モスクワ行きの機中では、パラリンピックのメダル情報を機長がアナウンスし、日本選手2個目の金メダル情報を聞くなど、どこもパラリンピック一色でした。


【おいしい料理には体重管理】
滞在中、食事は、ビーフストロガノフやピロシキなど、ロシアの代表料理を頂きました。味付けはやや薄味で、じゃがいも・ベーコン・チーズが添えられていました。空港では、世界三大スープの一つであるボルシチを簡単に頂くことが出来ました。肉食系の私は、やはり、肉との組み合わせがベストメニューでした(写真4)。そんな、おいしい有名料理では、必然と体重が増えてしまいます。
写真4:ランチは、肉料理と世界三大スープ写真4.ランチは、肉料理と世界三大スープ
 そこで、私は、ホテルにあるスポーツジムやサウナを利用しました。早朝ですが、ホテルに滞在しているロシアの方も利用されていました。上半身裸で、筋トレを行なう姿は、威圧感を感じるほどでした。私も負けじと、重たい負荷を見せつけるように、トレーニングを行い、その後は、サウナで回復を図りました。おかげで、滞在期間中は体調も良く、体重増加することなく帰国することが出来ました。

【まとめ】
今回の視察では、実際のパフォーマンスを見て、感じることで、医科学支援の重要性を理解する絶好の機会となりました。
 今後、医科学支援を行うためにも、競技の特性を認識していることは必要不可欠なことだと思いました。選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう医科学的サポートに取り組んでいきたいと思います。
 最後に、今回の視察で、さまざまな方々にご尽力をいただきましたことに、心より厚く御礼を申し上げます。





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