“体験”は、いつでもドキドキから…
〜 平成26年・宿泊体験訓練 〜

理療教育・就労支援部 就労移行支援課
発達障害支援室 藤原 幸久

 発達障害支援室では、就労に向けて必要とされることを、さまざまな体験を通じて考え、習得できるよう支援を行っています。職業生活を安定して続けていくためには、業務遂行能力が高いということだけではなく、生活面での安定が非常に大切です。しかし、通所の就労移行支援では、日常生活上の支援ニーズを知ることは難しいため、年に1回、宿泊体験訓練を実施しています。今年は11月13〜14日の一泊二日で、三浦半島で実施しました。
 訓練は事前準備からスタートしました。宿泊に際して、現地のどんな点が知りたいかを話し合い、利用者代表と職員が現地に赴いて、ルート確認や宿舎の状況を報告できるよう写真に撮影。戻ってからは報告会を行い、予想気温を調べ、それらを踏まえて一泊二日の旅に必要な持ち物をセレクトし、自分用のチェックリスト作り…と準備を行いました。

<不安な思いを抱えて…>
  当日は気温が低いながらも晴天。準備段階では、訓練以外の場所で集団で行動できるのか、眠れないのではないか、修学旅行などによい思い出がない…など、不安を訴える方も多かったのですが、一人も欠けることなく集合しました。ラッシュが不安と話される方もいたのですが、混んでいる車内や乗り換え時にも落ち着いて行動していました。
 品川で合流し、鉄道ファンにとっては見所の多い京浜急行の景色を楽しみながら三崎口へ、さらにバスに乗り換えて三浦キャベツの畑の中を抜け、海辺の公園に到着しました。栄養管理室で用意していただいたお弁当で昼食の後は、少しリラックスして散策したり、アイスクリームを買ったりと思い思いに過ごし、いよいよ海辺のハイキングへ。海から木枯らしが強く吹きつけ、荷物を背負って足下の悪い岩場や歩きにくい砂浜を進むことになりましたが、淡々と歩を進めて宿泊施設のYMCA三浦ふれあいの村に到着しました。
 宿泊室では、2段ベッドの中に畳まれていた布団を敷きましたが、敷、掛けの区別が付きにくかったり、全部を広げたものの重ねる順が分からなかったり、シーツを上手く挟めずに悩んだりといった姿も見られました。
 ベッドメイクの後は食堂で夕食。配膳は日頃の調理訓練の成果が活かされ、盛りつけも丁寧に行って、全員で美味しくいただきました。入浴では、潮風で冷え切った体を大きく暖かいお風呂であたためたのですが、カラスの行水の人、手順や持ち物を丁寧に確認しながらゆっくり入浴する人など、本当に様々でした。
 入浴後は自由時間として過ごしていただいたのですが、寒さと緊張による疲労感からか、うとうと居眠りする人が続出。22時の消灯時には全員がスムーズに床につきました。準備の段階では、日常的に眠りが浅い、他人と同室では眠れなかったり目が覚めてしまうのではと不安を訴える方も多かったのですが、入眠できていました。
写真:宿泊体験訓練1日目の様子

<まぐろ、ごろごろ…>
  二日目の朝は6時起床。起床が辛そうだったり、起きてからのアイドルタイムがとても長い人もおり、通所時の朝の辛そうな様子につながる部分が見られましたが、全員がしっかり目を覚まし、揃って食堂で朝食。洗顔や歯磨きなど身支度を整え、居室の清掃をし、三浦ふれあいの村を後にして、まぐろで有名な三崎港に向かって出発しました。
 バスを乗り継いで到着した三崎の市場では、地魚や冷凍まぐろの競りを見学。カチカチに冷凍されたまぐろに産地と重さが書かれた紙が貼られ、尾びれの上を切り落としたものが見本として並べられます。最初はただ物珍しそうに眺めていたのですが、そのうち「これは美味しそう」「これは自分の体重とほぼ同じ」などと話しながら、市場を倦かず眺めていました。
 昼食には早い時間だったので近くの施設にお土産の下見へ。大きな店内での自由時間では、お店の人の営業トークに丁寧すぎる相づちを打つ姿も見られましたが、何を、誰に、どのくらい買っていくのか迷いながら考え、適切な買い物という生活面の安定のための大切な要素を無事にクリアしていました。
 下見後は市場併設の食堂で食事。マグロやしらすなど、魚中心のメニューの中から好きなものを注文して美味しくいただき、先ほど目星を付けておいた土産を購入して帰路につきました。
 始発駅の三崎口から特急電車に乗ると、うとうとする人もちらほら…。それでも全員無事に乗り換え、山手線で二班に分かれて、それぞれ帰路につきました。
写真:宿泊体験訓練2日目の様子

<生活を整えて長く働いていくために…>
  訓練はこれだけでは終わりません。週明けにはみなさんに、体験のふり返りの一環として感想文を書いていただきましたが。「電車通勤に向けて希望が持てた」「日の入りを見ながら青春を満喫できた」「他の人の意外な一面が見られた」「市場は見方を変えると怖い場所だと思った」など、個性的かつ多様な感想が寄せられました。
 支援機関や企業からも「仕事ができることもさることながら、生活が整っていることが大切」と伺うことは、年々増えているように感じますが、宿泊体験訓練はこうした部分にフォーカスしたものです。日常の訓練ではうかがい知れない一面を見せていただいたことを今後に生かし、就職後の生活をより充実させていくための支援につなげていきたいと思います。

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