平成27年度第1回点字図書室ボランティア研修会実施報告

テーマ 「障がいのある人への支援 〜利用者ニーズとボランティア活動〜」
講師 早稲田大学人間科学学術院教授 畠山卓朗先生


6月19日(金)13:30〜15:30 理療教育課点字図書室ボランティア研修会を開催しました。点字図書室は、ボランティアグループに教科書や専門書の点訳、音訳を依頼しています。また、カセットテープや音訳をデイジー編集により、章、節、ページ、索引で自由に飛べる図書の提供もおこなっています。点字図書室を利用するのは、視覚障害のある方で、あんま、はり・きゅう師の国家資格を目指す利用者のみなさんです。
 今年度、点字図書室では、電子書籍の普及を背景に、従来の複製図書から、より利用者ニーズの高いコンテンツの製作へと転換を図ろうとしています。よって、ボランティアさんには新しい支援技術に興味を持っていただきたいという願いがあります。
 そこで、第1回の研修会は、利用者ニーズと支援のあり方について考えてみることを目的としました。講師の畠山先生は、元々は電子工学のエンジニアで、工業用のロボットの研究をされていましたが、リハビリテーション分野に移られました。そこで28年間に及ぶ重度障害のある方一人ひとりの支援をとおし、様々なコミュニケーションツールの研究開発をされました。今回、先生がお話しされた内容は、利用者さんから「もう、来なくていいです。」と言われたこと、支援の失敗を重ねた末に先生ご自身が気づき得られたものでした。また、実際の支援の様子と当事者の方を動画にてご紹介いただきました。
写真:講演する畠山卓朗先生
■ Assistive Technology
 講演の冒頭は、アシスティブテクノロジー=支援技術という言葉を、わかりやすくご説明いただきました。登れそうもない崖の下にいる人が、自分で登れるという見通しがつけられるような踏み台が用意されている絵がスライドに映し出されていました。踏み台そのものがアシステブテクノロジーで、点訳や音訳は、情報保障であり、アシステブテクノロジーであることがわかりました。

■ コミュニケーションとは自分の意思でできることの証
 畠山先生が考えるコミュニケーションは、人、動物、生活環境、社会、自然、最近ではパソコンの向こう側にいる人まで含め対象としています。
 生後5ヶ月から人工呼吸器を外せない重度の障害がある男の子が、ベッドの上で小学2年生となり、人生初の句読点混じりの文章を書いた様子が動画で示されました。生まれつき、ことばを持たない彼が、なぜそれができたのか、その背景には、訪問教育を受ける中で担当の先生とつくりあげたサインを使い、意思を伝える練習をしてきたという背景があったそうです。ここで、畠山先生から、当事者の方が、実は内的言葉をたくさん持っているという気づきを投げかけてくださいました。
写真:研修会の様子
■ 先読み問題
 察するという親切心が、障がいのある人のコミュニケーション、自己表現の場を奪ってしまうことを学びました。先読み問題は自分自信にとって大変身近でわかりやすいコミュニケーションの問題です。
講演後の研修会アンケートの中でも、参加者から高い関心が示されていました。
画像は、先読み問題について取り上げられた時の様子です。

■ 支援者が持つ知識が可能性を引き出す  一個しかボタンが押せない人がいたら・・・
 支援のボランティアは、自分の専門技術だけに閉じこまらないでください。自分が知らないからダメと簡単に言ってしまうことで、支援を必要としている人の人生を閉ざしてしまことがある。と、先生ご自身のボランティア経験をとおし、専門外であっても困っている人がいたら何か方法があるかもしれないという発想の転換の大切さについて語られていました。

■ 技術より、人と人との関係性が大切
 伝えたい、受け止めたいという関係性が重要です。在宅訪問サービスを15年間やってきましたが、ほとんど家族がやってしまっていて、自分では何もしていない利用者さんがいました。これは、生かされているという状況で、生きていることにはならない、つまり、自己の世界に押し込められてしまう。そこで、踏み台をご用意することで、コミュニケーションが広がります。みなさんの支援はどこをやっているのでしょうか?と、ボランティアさんに問いかけをしてくださいました。
 技術を届けるのなら、技術が素晴らしい人が対応すればいい。畠山先生の関心ごとは、人の気持が変わることで、人と人との関係性が重要であると語られていました。

■ スモールステップの原則
 大きな技術だと、利用する人は、私には関係ないと思ってしまいます。その人の生活に働きかけるような小さい技術のほうが関心ごとになり、それが大きな価値観となります。例えば、テレビのチャンネルを替えるようなことです。そうするとご本人が動き出します。これが本当の支援と畠山先生は考えているそうです。つまり、誰かが支援し続けることではなく、ご本人が小さい技術を利用して自分自身で生活できる可能性が広がるということです。

■ みかけのニーズから真のニーズをめざす
 一生懸命望むとおりに支援しても利用者さんに振り向かれないことがあります。喜んでもらえない、それはなぜか? つい相手のせいにしたくなりますが、そこで、考えたいのが、ニーズをうまくつかめていたのかという問いかけでした。

ニーズには3つの要素があるとのことでした。(上田敏氏 リハビリテーションを考える, 青木書店)

 デザイアー(desire)  願望・欲求
 デマンド (demand) 要求・要望
 ニード  (need)   必要性

 デマンドとニードを一緒にしてしまうケースがある。利用者さんには喜んでもらえない、そのような支援をしてしまうのは、やさしい支援者に多い。そして、同じことを繰り返していると、畠山先生は語られていました。

■ できる できない
 目しか動かすことができない、良い言葉がでない・・・と、してしまうと、できないこと探しになってしまいます。目を動かすことができると置きかえてみましょう。ボランティアのみなさんには、よかった探しができる支援者になってほしいです。と、畠山先生から呼びかけがありました。

■ 共感者としての視点
 エピローグとして、畠山先生が、28年間かかわったリハビリテーション分野の仕事で得た、利用者さんを捉える3つの視点を教えていただきました。
「対話者」としての視点 利用者さんに近づいて息を感じる距離でみる
「観察者」としての視点 利用者さんの周辺の環境をみる
「共感者」としての視点 位置関係は変わらないが、利用者さんに映っている視点で環境をみる
 畠山先生は、28年間リハビリテーション分野で研究開発と、利用者さんの支援をされてきましたが、3番目の共感者としての視点がわからなかったそうです。共感者としての視点はお互いに喜びを感じる時であるといいます。
 喜びというものはわかっているようで、わかっていないものです。当事者から学ぶことは多く、ご講演後もまだまだ勉強中ですという先生のお言葉に、支援者としての真摯な姿を重ねてお教えいただきました。

受講した方のアンケートの一部をご紹介します。(聴講者 36名)

○音訳ボランティア 国リハ音訳の会デイジーあんず
 真のニーズ、大切だと思いました。ひとりよがりにならず、本当に必要なもの、事を出来ることから、始めたいと思います。

 まず、ありがとうございました。このような会に出席し、受講させていただくチャンスを支えてくださったリハセンター関係者の方々に御礼を申し上げます。ボランティアにかかわり、継続してきたことに自分自身少し満足、おごりを持っていた(?)己にいたく反省させられました。
 こんなに「真摯」な気持ちにさせられ、反省を致しましたのは、・・・学生時代も今日のように真面目に耳を傾けていたならば、もっと異なる人生があったのでは!とまたまた、反省。ありがとうございました。

○点訳ボランティア 国リハ点訳の会
 畠山先生の素晴らしい支援のお話し、大変役立ち、有難うございました。点訳活動をして、直接利用者さんのお顔を拝見することはありませんが、きょうのお話しを心にとめて、活動に力を注ぎたいと思います。

 長い間、ナースをしていた時に、四肢麻痺、脳性マヒ等の患者と接していました。 ニーズの把握、コミュニケーションの難しさを痛感する毎日でした。先生のお話しをもっと早く聴くことができたら、もっと患者に良い看護ができたかもと思いました。

○デイジー編集ボランティア デイジー所沢
 第一歩を考える内容の研修は、初めてで大変興味深く、今後のボランティアに係わる姿勢や考え方の大きな参考になります。先生のHP も拝見させていただき、家族にも今日のお話しを伝えたいと思います。ありがとうございました。

 大変有意義なお話しで、参考になりましたが、実際に利用者の方と接するチャンスが無いので、ボランティアを「意識」して、考えておきます。
久しぶりにこうしたお話しをきく機会に恵まれ、頭の中、全開にしてききました。直接音訳の話しではありませんでしたが、エネルギーをもらった気がします。ありがとうございました。

○その他(当センター職員)
 久しぶりに畠山先生のお話しをお聴きできました。発達障害の支援を主にしていますが、3つの視点について、あらためて、現在通っている方に考えてみると、見直さなくてはならないことが多々あると考えさせられました。どうもありがとうございました。



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