第32回業績発表会優秀賞、奨励賞及び特別賞受賞者コメント
                企画・情報部企画課

平成27年12月18日(金)に行われた、第32回業績発表会で優秀賞、奨励賞及び特別賞を受賞された10名の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。
○優秀賞
病院看護部鏡味 麻里子
学院義肢装具学科徳井 亜加根
自立支援局総合相談支援部土屋 温子
学院手話通訳学科市田 泰弘
研究所感覚機能系障害研究部森 浩一
病院看護部髙橋 美枝子
病院障害者健康増進・運動医科学支援センター矢田部 あつ子
病院第二診療部林 知茂

○奨励賞
研究所脳機能系障害研究部髙野 弘二

○特別賞
神戸視力障害センター山田 裕基

【受賞者コメント】
<優秀賞>
病院看護部 鏡味 麻里子
演題:「脊髄損傷者の麻痺域の下肢骨折に対する危険因子」

 この度は、思いもかけない評価をいただき大変光栄に思っております。この場をお借りして、調査にご協力いただきました全国頸髄損傷者連合会の代表者様はじめ会員の皆様、また、研究初心者で何度も道に迷った時、研究の意義を共に語り合ってくれた看護師の仲間、いつも快くご指導くださった緒方徹医師、そして所属していた大学院の指導教員、ゼミ仲間の皆様に厚く御礼申し上げます。こうして文章を書き連ねながら、多くの方々のご協力と支えにより発表に至ったことを改めて感じております。
 私が頸髄損傷で下肢骨折の方の看護を経験した時、褥瘡予防、ADL維持の難しさ、また、活動を制限されるご本人の精神的負担など多くの事を学びました。そして、何より骨折予防への教育の必要性を感じ、参考図書など調べてみましたが「下肢の取り扱いに注意する」程度で、具体的な答えが得られなかったことが研究のきっかけとなりました。先行研究では、看護師によるものでは褥瘡・尿路合併症に関する文献はかなり多くありましたが、下肢骨折に関するものは数件にとどまっており、脊髄損傷の方への健康指導、合併症予防に携わる看護師の関心を高めていく必要性も感じました。看護系学会でもポスター発表をしましたが、テーマの認知度は低いように思いました。確かに二大合併症と言われる褥瘡・尿路系疾患程多くはありませんが、残念ながら下肢を骨折され外来受診をされる方がいらっしゃいます。今回の調査で骨粗鬆症について説明を受けたことがあるという脊髄損傷者は、回答者の2割程度でした。まずは合併症としての認識を高めていくような働きかけがリハビリテーションサービス提供者に求められているのではないかと感じております。
 外来通院している頸髄損傷の方が「俺たちも健康寿命を延ばしていかなきゃいけないんだよ」と仰っていました。大きな役割が求められていると実感した言葉でした。
 この度の「賞」のお力添えをいただき、本研究が一人でも多くの方の目に触れ、下肢骨折予防への取り組みの一助となれば幸いです。
今後ともご指導の程よろしく願い申し上げます。
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学院義肢装具学科 徳井 亜加根
演題:「高位頚髄損傷患者のADL向上に有効だった拘縮矯正用前腕回内補助装具」

 この度の発表をご評価いただき、ありがとうございます。義肢装具士は文字どおり義肢装具の製作・適合が業務ですが、義肢装具は使いこなしてこそ機能を発揮できます。しかし,義肢装具士は使いこなすための訓練については専門外です。そのため、訓練は共同演者である井上作業療法士長が担当しました。医師や療法士,義肢装具士が一丸となり、加えて患者さんが「食事動作を獲得するんだ」と意欲をもって一緒にリハビリを実施した結果が、受賞という形で評価されたのだと思います。また、今回製作した装具は日常生活動作に用いるものであり、受賞は共同演者だけではなく、毎日の装具装着や装具に合わせた食事のセッティングを担当してくれた看護師、看護助手の皆さん、そして「この装具をもっと広めてください」とおっしゃって下さった患者さん御本人と御家族の協力があってこそのものだと思っています。この場をお借りして感謝申し上げます。
 井上作業療法士長は15年以上も前から「頚髄損傷者における日常生活動作獲得のためには前腕回内位保持が重要である」と学会等で発表していましたが、作業療法士の力だけでは限界があり、義肢装具士による装具製作は念願でした。ようやく装具が完成し、予想どおりADL全介助と言われていた患者さんが食事だけでなく歯磨き、スマートフォン操作、そして書字まで可能になりました。特にスマートフォン操作は自由な外出が制限されている頚髄損傷者にとって重要なスキルであり、電動歯ブラシを御自身でネット購入できたときの患者さんの笑顔は忘れられません。「自分の力で何かをする」ということを諦めかけていた高位頚髄損傷者が、能動的動作を獲得できた今回の2症例は、高位頚髄損傷者のリハビリに携わる者の希望となりました。今回の受賞を心から喜んでくださった患者さんには、今後この装具をさらに発展させることで恩返しをしたいと思っています。
 当センターは義肢装具士が常駐する全国でも数少ない施設の1つであり、今回の症例を通して義肢装具士がもっと早くに対応できたのではないかと反省すべき点もありました。もっと敏感にアンテナを張り、他職種が必要と感じるものを迅速に製作、提案することは、義肢装具分野の発展につながると信じています。そして、それは当センターの義肢装具士が担うべき役割であり、今後も他職種からの相談に柔軟に対応したいと思います。
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自立支援局総合相談支援部 土屋 温子
演題:「頸髄損傷者における介護支援実績データの分析について  〜利用開始時から訓練終了時までの介護量および介護内容の変化〜」

 この度は、私たちの「頸髄損傷者における介護支援実績データの分析について〜利用開始時から訓練終了時までの介護量および介護内容の変化〜」について過分なる評価をいただきありがとうございました。
 介護部門では、自立訓練を利用されている頸髄損傷者において日頃、日常的に行っている介護内容や介護量について個々に介護記録を記載し、利用開始時から終了時までの変化についてデータ化しまとめを行っています。
 今回の発表では、記録の不十分な箇所もあり入所時から終了時の介護内容を再度、抽出する事や実施していない介護内容(項目)も多くデータに含まれていたため全介護内容(項目)のから主な介護内容(項目)を抽出することに難を要しました。
また、利用者全体の介護量・内容ではなく終了された利用者4名についての分析だったため今後は、介護内容(項目)の検討や利用者全体での介護量・内容をまとめていく事が求められると感じました。
 今後も、データ化・分析の継続と必要性を共通認識として質の高い介護を目指していく事が大切であると思います。
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学院手話通訳学科 市田 泰弘
演題:「学院手話通訳学科におけるインターネットによる動画配信」

 今回は、学院手話通訳学科の取り組みについてご評価いただき、ありがとうございました。
 手話という言語はその特徴から紙ベースの媒体になじまず、学科の成果を発信していく際にも多くの制約がありました。昨今のインターネットにおける動画発信の一般化は、それらの制約を一気に解消する可能性を秘めたものです。そのような時代の変化に対応しつつ、入学志願者の減少という現実を前に広報の充実が求められている中で、国立の養成機関としてふさわしい動画配信のあり方を探っていきたい、というのが今回のテーマでした。その取り組みが今回評価されたことにより、今後の活動に弾みがつきました。ありがとうございました。
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研究所感覚機能系障害研究部 森 浩一
演題:「「言う直前チェックリスト」による成人吃音の非流暢改善の試み」

 図らずも優秀賞をいただきまして恐縮しております。というのも、吃音は障害者手帳の対象になりにくく、「ことばが繰り返すだけ」くらいに軽く思われているのではないかという危惧と、そのような疾患(ないし障害)の研究をしているという負い目があります。数年前に吃音を苦にして看護師が自殺したことなど、メディアでも吃音が話題になることが増えはしましたが、まだ十分には日の当らない分野にご注目いただき、大変ありがたいことと感じております。
 吃音は幼児期と小学校高学年以上とで全く異なる様相を呈します。幼児期は吃音に困ることはあっても悩むことはほとんどありません。小学校からは、からかわれたり恥ずかしく思ったりで悩むことが多くなります。この頃から不思議なことが起こり始めます。最も顕著で,かつ誤解されやすいのは、症状の状况依存性です。ほとんどの吃音者は、歌や独り言では吃りません。これらで吃ると、神経原性(脳外傷や脳卒中による)吃音など、普通の吃音(発達性吃音)とは違う疾患を考えます。「吃りで困る」と言って来院しても、吃音検査をしても吃らないし、吃ってみて下さいと言っても吃れない、ということもよくあります。
 そこでこの「不思議」の中身を考えてみることにしました。古典的な吃音治療では、吃る症状をどのように抑えるか、ということが中心でしたが、先行研究も参考にして、患者さんからの聞き取りや推測から、吃る前にしていること(内的過程)を調べました。それでできたのが今回のチェックリストです。吃る前にするという項目をしないようにして話すと吃らない(吃れない)ということがわかりました。「吃ってはいけない場面ほど吃る」という患者に共通する体験がありますが、これを論理的に考えると、吃らないようにと思ってする内的行為によって却って吃音症状が生じているという仮説に至ります。治療としては「吃ってはいけないと考えない」という認知療法が良いことになりますが、「吃ってはいけない」と思ってしまう場面で「吃っても良い」、または「吃るかどうかは関係ない」と考えることができない人がほとんどです(当然ですが)。しかし、具体的な内的行為を個別に明示することで、それらから吃音症状に至ることを抑止することが可能になります。頻度で重みをつけて点数化すると、吃音者はほとんどが15点以上(満点は80点)で、吃音にあまり悩まないか、ほとんど吃らない人(回復した人)は15点以下になりました。認知療法の導入と、治療経過の観察に有用な質問紙ができたと考えています。
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病院看護部 髙橋 美枝子
演題:「医療安全対策チームによる「医療安全パトロール」の活動報告」

 この度は業績発表会において優秀賞をいただき本当に嬉しく思っております。私の発表した業績がセンターの皆様から高く評価していただけたのは、私1人ではなく3名のメンバーの協力と支援による賜物と深く感謝しております。
 今年度私は「医療安全管理担当」の命を受けて、新設された「医療安全対策チーム」において活動することとなりました。今年度の活動は主に職場内のラウンド(医療安全パトロール)を実施して、危険箇所の有無や安全上の問題について点検を行い、現場の職員が気づいていない「潜在的な危険」を発見し指摘することとしました。とはいえ、普段は他部署の職場のすみずみまで立ち入ったことはなく、医療安全パトロールと称して他部署への入室がどのようにしたらスムーズに受け入れられるか戸惑いました。立場を換えてみて、日々自分たちが主な職場としている場所に職種の違うスタッフが立ち入り、職場環境についていろいろ指摘されるということはどのようなものだろうかと考えました。そのため医療安全パトロールの開始にあたっては、受け入れがスムーズに行えるための工夫を考えました。いろいろな意見を出しあった結果、「医療安全パトロール」と明示した腕章と背中にゼッケンを装着してラウンドすることとしました。この出で立ちは効果的に受けいれられているように感じています。医療安全パトロールの看護師3人がラウンドをしにきたというより、「医療安全パトロール隊」が来たというイメージで受け入れられているように感じています。現在までに10箇所の部署の医療安全パトロールを実施してきましたが、主に危険な箇所について写真を活用して指摘させていただきました。その結果、それぞれの部署が指摘事項について自主的に改善に取り組み、たちまち整理・整頓が進み目に見えて変化していく様子に私たち医療安全対策チームとしては驚きました。しかし、危険と指摘しても建築上致し方ない、職場の特性でそうせざるを得ないということもありました。私たち医療安全対策チームでは限界を感じる現実もあり、そうした現状の改善に取り組むためにいろいろな立場の方々に知っていただき、ご意見をいただける機会となることも期待して業績発表会で報告させていただきました。今後とも宜しくお願い致します。
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病院障害者健康増進・運動医科学支援センター 矢田部 あつ子
演題:「中途視覚障害者の身体活動量とその関連要因」

 日頃の健康管理業務において、中途視覚障害者の肥満傾向や生活習慣病などに対する保健アプローチは、障害特性や心理面など個々のもつ背景を理解するための充分な時間が必要であり、支援の難しさを感じています。そのためケースワーカーや病院スタッフなどの関係者との連携を軸に、個々の利用者の健康について自分が出来る支援は何かを模索しているところです。
 今回の研究は、身体活動の向上が健康の維持増進につながることから、身体活動量測定を行い中途視覚障害者の活動状況を確認しました。さらに身体活動に関連する要因を明らかにするために、ICFに視座して活動増加に必要な支援を導き出しました。結果として移動と情報の障害に必要な福祉的支援の充実と、福祉・医療・保健が連携し同時に支援を行うことが身体活動の維持増進に必要であり、経年的に支援の見直しが行われることが望まれることを確認しました。
 研究を通して、障害者の健康維持増進には、各部門の連携が欠かせないことが明らかになりました。そして地域では必要な支援や資源の不足から、活動が減少している障害者が多くいることが懸念されました。視覚障害者に限らず、障害者の加齢や障害の進行に伴う活動制限に対し、経年的に活動状況を確認し、早期に必要な医療や福祉につなげる支援を行うことは介護予防につながると考えます。地域包括ケアの構築がすすめられる中で、障害者の健康増進や介護予防の取り組みが促進されるための地域の仕組みづくりについて、今後も検討を重ねていきたいと考えています。
 このたびは過分な評価を頂き、本当にありがとうございました。また研究協力頂いた養成施設利用者の皆さんに深く感謝いたします。今回の受賞を励みに、これからも自身の経験を着実に積み上げ、前向きに業務に取り組んでいきたいと思います。
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病院第二診療部 林 知茂
演題:「視野狭窄患者に対する訓練の効果判定」

 このたびは優秀賞という過分なるご評価をいただき、大変感謝申し上げます。今後の国リハ生活の励みにしたいと思います。
 振り返ってみますと、口頭発表スライドを作成する段階で、導入部分をどうするか迷っていました。その時に、仲泊先生から「視覚リハの全体像をみてみよう」と言われ、視力障害のケアと視野障害のケアの違いに改めて気づかされる場面がありました。
視野狭窄患者に対するケアは、ほとんど視野が無い場合と、見えている部分がある場合でのケア方法に違いが無いのが現状です。仲泊先生が開発したアクティブ視野計の活用方法を隣でのんびりと眺めていた私にとっては、研究テーマの根源を振り替えるとても良い機会となりました。
 これまで臨床ばかりで、大学でも研究チームに属したこともなく、少年期からロールプレイングが苦手な私にとっては、あらゆる研究テーマの漠然としたものに魅力を感じることがありませんでした。仲泊先生の押しては引く勧誘文句に乗っかり発表を担当しましたが、今回のテーマは患者さんの日常生活改善に直結する可能性があることや、研究テーマの一つの守備範囲は狭いけれども、その積み重ねが大きな意味を持つことに触れ、はじめて研究することの意義が少し理解できた気がします。
  今回気づかされたことを大事にして、日々の診療から学ぶことを、今後の視覚リハビリテーションに結びつけられないか考えてみたいと思います。
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<奨励賞>
研究所脳機能系障害研究部 髙野 弘二
演題:「ALS患者を対象としたBMI長期実証評価に基づく機器の改良と運用方法の改善」

 この度は発表させていただいた研究についてご評価いただき、誠にありがとうございました。
 今回の発表は、これまで脳神経科学研究室で研究開発を行ってきたブレイン-マシン・インターフェイス(BMI)機器を患者・障害者の方が日常的に使用できるようにするための準備となる研究です。BMI機器を必要とされる方々は、とても多くの家電などに囲まれた生活をされている場合が多く、微弱な電気の変化である脳波によるBMIを使用するには、それぞれの方々の環境に合わせて対応が必要になります。今回、当事者の方々が生活される場である、御自宅や病院で実験を行うことで、ほんの一部ではありますが、現状のBMI機器を実用化に向けるために、どのような問題があり、どう解決していくべきかという問題を示すことが出来たのではないかと考えております。とは言いましても、まだ解決していくべきことは多くあります。今回、奨励賞をいただきましたのも、これらの問題の解決にも精力的に進めていくように、とのことであると考え、今後も励んでいきたいと思います。
 最後になりましたが、本研究を行う上で様々に助力をいただきました皆様、実験にご参加いただいた被験者の方々に御礼を申し上げて本文を締めさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
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<特別賞>
神戸視力障害センター 山田 裕基
演題:「障害を否認する中途視覚障害者への支援〜自己効力感を高める視点をいかして〜」

 平成27年度第32回業績発表会において、「特別賞」の栄誉をいただき、誠にありがとうございました。今回の受賞は、研究とその発表にあたって、協力・助言をいただいた皆様のおかげであり、この場をお借りして深く感謝を申し上げます。
 本研究を進めるなかで、支援を通じて自分自身も成長させていただいていること、前向きになったクライエントの笑顔が私にとって大きな力となることを改めて感じました。
 今回の受賞を受けましたことを胸に、これからも精進を重ねて、より良い支援の実践・研究に取り組んでいきたいと考えております。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
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