第34回業績発表会 優秀賞、奨励賞及び特別賞受賞者コメント
                企画・情報部企画課

平成29年12月22日(金)に行われた、第34回業績発表会で優秀賞、奨励賞及び特別賞を受賞された10名の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。

○優秀賞
自立支援局第二自立訓練部清水 健
学院リハビリテーション体育学科梅崎 多美
自立支援局理療教育・就労支援部近藤 和弘
研究所障害工学研究部東 祐二
自立支援局理療教育・就労支援部小林 菜摘
研究所感覚機能系障害研究部灰谷 知純
研究所運動機能系障害研究部愛知 諒

○奨励賞
病院リハビリテーション部清水 麻由子
研究所脳機能系障害研究部林 奈々

○特別賞
秩父学園療育支援課久郷 英伸

【受賞者コメント】
<優秀賞>
自立支援局第二自立訓練部 清水 健
演題:「機能訓練終了後の頸髄損傷者におけるADLの自立度の変化とその要因」

 このたびは私どもの発表に対して身に余るご評価をいただき、大変光栄に存じます。調査にご協力いただきました当事者のみなさまに、この場をお借りして御礼申し上げます。
 今回の調査から、頸髄損傷者の自立支援においては、長期間の対応がその後のADL能力の維持に必ずしも寄与しないことが示唆されました。頸髄損傷者のリハビリテーションは、障害の特性等から長い期間を要する場合が多々あります。当課においても、年単位の長期入所によるサービスを提供したケースが多く見受けられます。しかし、この中にはプログラムの工夫や設定目標の適正化等により、利用期間の短縮化が可能であったと推測されるケースが少なくありません。よって、早期の社会参加を目指すにあたり、支援者側の意識の変革が必要だと感じています。いっぽうで、当センターの職員間では各部署の連携に関する認識が浸透しつつあり、病院から自立支援局への移行が円滑に行われる機会が増加しています。より効率的な支援へとつなげていくため、この連携のさらなる強化が重要であると考えます。
 頸髄損傷の方々を多く受け入れる施設としての役割を再認識し、より質の高いサービス提供に向けた努力を継続する所存ですので、今後ともご指導いただけますよう、よろしくお願いいたします。
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学院リハビリテーション体育学科 梅崎 多美
演題:「義足ユーザー(陸上競技初心者)へのサポート体制 −学科間連携研究−」

 この度は、優秀賞という身にあまる評価をいただき、誠にありがとうございました。学院内の異なる学科で連携をしながら研究を進めてきましたが、この場をお借りして今回の報告に協力していただいた皆様にお礼申し上げます。
 2020東京パラリンピック競技大会を2年後に控え、選手発掘事業や体験イベントが数多く開催されており、認知に向けた取組みが広がっています。スポーツ用義足に関する研究も年々増え、陸上競技用義足を装着して疾走している姿を目にする機会は多くなっていますが、我が国においては安全性に対する報告はなく、義足使用に対してのガイドラインがないのが現状です。製品や走行フォームの研究報告が圧倒的に多くなる中、一握りの競技選手に注目が向けられるのではなく、中高生を含む一般の方が普段の生活の中で走ることを楽しむためにも、使用に関しての指標が絶対に必要であると考えていました。将来的に安全で永く走り続けるためにも、足部選択の時期や留意点、トレーニング方法について実施可能な方法を提案することが今後の課題です。
 まだまだ明らかにしなければならない項目ばかりですが、専門職が存在する当センターだからこそ実践できる研究であり、今後も継続して検討していきたいと考えています。
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自立支援局理療教育・就労支援部 近藤 和弘
演題:「就労移行支援における「農園芸」訓練について ― 花リースの取り組み ―」

 花リースの取り組みは、就労を目的とした就労移行支援の訓練として行っています。平成29年3月から始め、まだ手探りの状態ではありますが今回このような賞を頂きありがとうございます。訓練室の利用者には「皆さんが活動してきたことが評価されたために頂けました。ありがとうございます。」と報告しました。皆さんの反応は、少しびっくりしたような表情と(思ってもみなかった)拍手が起こりました。
 花リースの内容は、①利用者が担当の鉢を持ち種から花を育てます。②各利用者がお客様に選ばれるように手入れを行います。③お客様(センター職員等)に選ばれた鉢は、栽培担当者が配達を行い、その後の管理(灌水、消毒、撤去等)も行います。そして、次の注文をしていただけるようなお客様対応を身につけることが大切です。花リースの取り組みは、働く目的が分かりやすいことが特徴です。お客様を意識して行うということは、励ましやお褒めの言葉を頂ける反面、ご意見やクレームもあり緊張感もあります。今後、春にはチューリップ、初夏にはヒマワリでセンターを飾れるように準備をしております。外来者や職員の皆様が少しでも心和んで楽しんでいただけましたら幸いです。
 この訓練の背景には、「農福連携(ノウフク)」、「農業」と「福祉」との連携といった考え方が全国的に広まってきていることにあります。
わが国における農業就業人口と耕作放棄地は、平成7年(4140千人。244千ha)、平成27年(2097千人、423千ha)です。農業就業人口は20年間で半減し、反面、耕作放棄地は倍増しています。また、75歳以上が3割(約650千人)を占めています。今後も減少傾向は加速化していくものと予想されます。耕作放棄地について423千haは、およそ東京都(218千ha)の2倍にあたります。
農業側は高齢化、担い手不足が深刻化しており、特産物と言われる作物も作りにくくなっている地域もあります。農水省が担い手として期待している中に障害者が含まれます。福祉側にとっては、障害者の新たな職域として農業関係が期待されています。農業が障害者の心身に及ぼす好影響も多く報告されています。厚生労働省では一億総活躍社会の施策の一環として国を挙げて取り組みが始まっています。その他、2020年東京オリンピック・パラリンピックには、「ノウフク」の食材を利用しようという働きもあります。
 しかし、障害者が農業分野で就労することはハード面ソフト面で課題が多くあるのも事実です。そのような中で、「障害者が農業で働けるようにすることは、誰もが働ける方法を考えるヒントであり、ノウハウを構築していくことは大きな可能性がある」と、期待を寄せる先駆的な農家も現れています。
 花リースの取り組みが、少しでも利用者の就労意欲の向上と新たな就労の場(農園芸関係)を考える一助になることを期待して受賞のコメントとさせていただきます。

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研究所障害工学研究部 東 祐二
演題:「障害当事者のニーズを起点とした支援機器開発に関する人材育成の取組み」

 この度は私どもの発表につきまして「優秀賞」というご評価をいただき、大変感謝申し上げます。
 障害工学研究部では、その使命として、(1)障害機能の生体工学的な計測・評価技術や低下した機能を代替・補償・回復するための技術の開発(2)障害者のQOL向上、社会参加支援に寄与すること、リハビリテーション工学の発展、人材の養成に努めることを掲げ、研究に取組んでおります。
 支援機器開発に関わる人材育成の領域では、障害当事者のニーズにシーズ(技術)を上手くマッチングさせる必要があります。しかしながら、それは必ずしも上手くいっておらず技術先行型の開発物が多いことが指摘されています。そこで、我々は、多様な障害を有する障害当事者が利用されている自立支援局のスタッフの皆様とチームを組んで、機器開発に際してニーズを起点とすることを最優先と位置づけて、必要で有効な機器を開発すべく人材育成プログラムの開発に試行錯誤しつつ取組んで参りました。私自身は本プロジェクトに参加してまだ2年ですが、これまで、いくつかの機器開発に携わってきた者の一人として本取組みには共感できる点が多く、素直に関わりを持つようになりました。
 本プロジェクトの特徴は、医療・福祉系(OT・PT・SW等)、工学系(電子、機械、ロボット、建築等)、デザイン系(プロダクトデザイン、美術等)の専門家を目指す学生達がそれぞれの専門的役割を持って取組むところにあります。今回の発表でお示しした内容は本取組みの開始当初から蓄積された3年間の成果やノウハウを整理して公表したものです。
 結果として、プロジェクトに参加した学生は満足感に関する肯定的コメントが大半でした。
 また、学生が障害やニーズを学ぶことの意義を実感するなかで、本来の専門的役割やチーム内での役割に気づくことを促す本取組の有用性がわかってきました。
 今回は、専門性が向上する初期過程である在学中から相互連携の重要性を学ぶ取組みを行いましたが、今後はこれに加えて、臨床現場の専門家やメーカー等で働く人材のキャリア形成に寄与するプログラムの実現を検討しています。このような取り組みに、興味をお持ちの方は、ニーズの立場、シーズ(技術)の立場等各々のお立場で是非ご協力お願い致します。
 今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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自立支援局理療教育・就労支援部 小林 菜摘
演題:「発達障害者の就労移行支援における日常生活訓練の取り組み(1)〜実施概要の報告〜」

 このたびは標記演題において優秀賞をいただき、誠にありがとうございます。心より感謝申し上げます。就労移行支援課発達障害支援室では、モデル事業で得られた知見に基づき、就労の基盤となる生活面の支援と就労支援を一体的に支援可能な体制を整備しました。特に日常生活訓練においては、利用者の支援ニーズを的確に把握するため、個々の必要に応じて、平成25年度から宿泊体験プログラムを、平成27年度からは自宅への訪問訓練を実施して参りました。日々、アセスメント結果や利用者のニーズから訓練内容について試行錯誤を重ね、よりよいサービスを提供できるよう微力を尽くしてきましたが、その取り組みに関して評価いただいたことに発達障害支援室一同、感謝すると共に、身の引き締まる思いです。
 当室を利用されている発達障害のある方の中にも、作業能力は高くても、日以上生活上の課題が多く、就労が長続きしないという方があとを絶ちません。安定した就労が叶うかどうかは、ご本人達が社会生活を送れるか否かを左右する重要なこととなります。これからもより良い就労支援の実践に取り組んでいきたいと考えております。
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研究所感覚機能系障害研究部 灰谷 知純
演題:「吃音者の社交不安スクリーニング質問紙(LSAS-J)の回答傾向」

 今年度の業績発表会にて、吃音のある方の社交不安の特徴に関する研究で優秀賞を受賞しました。同じセッションでは、吃音に関する臨床的・疫学的なインパクトのある演題がほかにもあったのですが、優秀賞を授与していただけたことをうれしく思っております。
私の専門は臨床心理学で、心理的支援の文脈の中で吃音症が扱われるケースを時に見聞きします。心理療法、特に認知行動療法と呼ばれる心理療法を用いる支援の中では、吃音症は社交不安障害の文脈の中で問題を捉えられることが多く、発話に関する場面での社交不安に特に焦点が当てられ、支援が進められることが多いように感じています。
 今回の研究結果は、吃音のある方の社交不安は、吃音があるとは限らない社交不安障害患者の方等との社交不安とは特徴が異なるということを定量的に示したものでした。臨床的には知られていること、あるいは想像されることを、定量的なデータを通して示したという点で評価していただけたのではないかと考えています。また、今回の研究では、「電話」場面に対して吃音のある方は特に強い社交不安を示すことがわかりました。「電話」という発話以外で対処しようがない場面で強い社交不安を示すのは、まさに吃音症ならではの特徴だと言えます。ただし、すべての吃音のある方が電話場面で強い不安を示すとは限らないため、実際の支援の現場ではケースバイケースで対応する必要があることは確かですが。
 今回の研究は、当センターの研究所・病院にお越しになられた吃音のある方を対象に分析を行ったものですが、研究指導をしていただいた森浩一先生からのご意見がなければ実現には至りませんでした。また、データ入力のために快くカルテの貸し出しにご尽力いただいた北條具仁様、この研究の前駆段階となる研究の分析過程から何度もご相談に乗っていただいた酒井奈緒美先生にも大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。
 今回の研究結果を、リハビリテーション分野だけではなく、私の専門である臨床心理学分野の方々にも知っていただくことで、吃音のある方の社交不安を心理的治療で扱う際の一助になればうれしいです。今後は、実際の心理的治療によってこれらの吃音のある方の社交不安がどのように変化するかを検証し、より臨床的意義のある研究に発展させていきたいと思います。
 このたびはありがとうございました。
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研究所運動機能系障害研究部 愛知 諒
演題:「脊髄完全損傷者における嗅粘膜組織移植前後のリハビリテーション実施経験」

 この度は、標記演題を優秀賞としてご評価いただき、誠にありがとうございます。日頃、ご指導・ご協力いただいている関係各位に心から御礼申し上げます。
 近年、再生医療研究の進歩に伴い、脊髄損傷後の機能回復を目指す試みが進んでいます。現在、本邦で唯一行われている慢性期脊髄完全損傷者を対象としたものでは、大阪大学医学部付属病院が行っている嗅粘膜組織移植があります。当センターでは一昨年度より「再生リハ室」を設置し、嗅粘膜組織移植後の患者を受け入れてリハビリテーション効果の検証を行っています。これまで他施設で行われてきたリハビリテーションプロトコルに、当センター独自の取り組みとして、ロボティクスを用いた歩行リハビリテーションおよび評価を実施することと、機能改善のメカニズムを検討するための評価を設定することの2点を加えて効果検証を進めています。
 現在までに実施してきた2症例においては、リハビリテーションの実施を困難とするような事象は起きておらず、大変順調に経過しています。これまでのリハビリテーションの効果としては2症例ともに明らかな随意性の改善には至っていないものの、その端緒となるような結果が精緻な検査によって明らかになってきています。また日常生活動作で重要となるような境界領域(体幹部)の機能改善を認めており、これは今後再生医療を検討する上で非常に重要な知見であると言えます。
 今後は、症例数を重ね、効果検証及び機能回復のメカニズムの検証を進めていき、最終的には再生治療後の身体機能改善を促す効果的なリハビリテーションプロトコルの確立を目指していきたいと考えています。
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<奨励賞>
病院リハビリテーション部 清水 麻由子
演題:「当院脊髄損傷患者の過去15年の傾向−脊髄損傷医療における国リハの役割−」

 この度は「当院脊髄損傷者の過去15年の傾向」に対して奨励賞というご評価を頂き誠にありがとうございました。この場をお借りして、今回の発表に際しご指導・ご協力下さいました皆様に御礼申し上げます。
 近年、日本の高齢化率の上昇に伴い、リハビリテーション医療の現場では高齢化と重症化が進んでいるといわれています。脊髄損傷医療の現場も例外でなく、脊髄損傷者の高齢化、障害の重度化、特に不全四肢麻痺の増加が問題となっています。
 今回、過去15年の診療録から調査した結果、当院においても全国の傾向と同様に脊髄損傷者の高齢化が進んでいることがわかりました。このような高齢の不全四肢麻痺患者に対するアプローチ方法については引き続き検討していきたいと思います。
 また全国の病院と比較して、当院では若年層の脊髄損傷者が多い傾向にありました。若年脊髄損傷者の社会復帰の支援は当センターの役割のひとつであり、病院と自立支援局の連携を活かすことでよりよい支援につながると感じております。
 今後とも脊髄損傷者に対する支援の向上に取り組んで参りたいと思いますので、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。
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研究所脳機能系障害研究部 林 奈々
演題:「周辺視野を用いたSSVEP-BMIに適した視覚刺激」

 この度は発表内容につきまして身にあまる評価を頂き、誠にありがとうございました。本研究に携わらせていただくことになりましてからはや2年になろうとしています。
大学で行ってきましたマウスの脳活動のイメージング実験研究から大きく方向転換し、ヒトを対象とした脳活動計測実験へと飛び込みました。右も左もわからない状態から実験や解析方法までご指導いただきました神作憲司室長をはじめとした先輩方々には深く感謝申し上げます。
 本研究は、当センター研究所脳機能系障害研究部の脳神経科学研究室にて、脳波を読み取り機械を操作するブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)の最適化にむけた基礎研究のひとつです。周辺視野を用いたBMIは、眼球運動も難しい方の外界とのコミュニケーション手段になる可能性があります。今後も地道な生理実験を継続し、BMIへ応用していくことで、より多くの患者・障害者の方々の生活の質の向上へと繋げたいと思っております。この度は誠にありがとうございました。
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<特別賞>
秩父学園療育支援課 久郷 英伸
演題:「発語のない自閉症児への排泄支援について」

 この度は、標記演題について特別賞というご評価をいただき、誠にありがとうございます。自分には縁のないものと思っておりましたので、授賞の通知を受け唯々驚きました。
 業績発表会が終わって思うことは、この栄誉は決して自分だけの成果ではないということです。この場をお借りして、日頃より、ご指導・ご協力いただいている関係各位に心から御礼申し上げます。
 自閉スペクトラム症のある人々の多くが、排泄の自立に困難を示す傾向にあります。今回の対象者についても不適切な排泄行動があり、時には目を伏せたくなるような場面に遭遇することがありました。それでも、ここまできたのには対象者に寄り添い、日常場面の観察とアセスメントに基づいた支援を、寮職員が一丸となって行ってきた結果だと思います。この支援の成果を機に、今後は対象者の好きな事や得意な分野を広げ伸ばすよう支援し、将来の生活が豊かになるよう繋げていければと考えます。
 今回報告した内容に限らず、様々な障害特性や能力の異なる利用者を支援するのに、答えは一つではないのかもしれません。一人ひとりの利用者と向き合い、その方にとってより良い支援を実践し、意義のある発信をしていけるよう努力してまいります。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
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