補装具費支給制度に関する研究

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研究課題: 補装具の適切な支給実現のための制度・仕組みの提案に関する研究

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研究目的

補装具費支給制度は本邦における福祉用具の公的給付の根幹をなす制度である。補装具の価格は補装具費支給基準により定められているが、特に義肢・装具・座位保持装置(以下、義肢等)については基本価格、製作要素価格の項目が多岐にわたることに加え完成用部品を用いることから、その供給に要する費用と価格のバランスを適正に保ち続けるための仕組みが十分に整えられているとは言いがたい。また、全国の更生相談所の補装具判定における基準解釈の違い、地域格差の是正をなくし、公平・公正な判定の考え方の意識を統一する必要があると考えられる。

本研究は、義肢・装具・座位保持装置の価格を適正に設定する仕組みを整えるとともに、完成用部品の機能に基づく整理を確立することで、障害状況に適応した適切な補装具が支給されるための制度・仕組みを提案することを目的とする。これにより、これら補装具の利用者の社会参加・自立を促進することを目指す。

研究期間・経費

研究組織

※所属・役職等は研究プロジェクト当時のものです。

研究代表者

研究分担者

研究協力者

研究概要

具体的な課題設定として、完成用部品の機能区分を整備することを中心に据え、それと完成用部品の価格および利用者の機能との関連づけを行うこととした。それを基に、価格の決定や支給判定、申請手続きを適正かつ円滑に行う制度・仕組みを提案した。

そのために、<課題1> 完成用部品の機能区分整備、<課題2> 製作費用の包括的把握方法と簡便なデータ更新方法の確立にかかる研究、<課題3> 補装具費支給判定基準マニュアルの作成、<課題4> 機能区分を踏まえた完成用部品申請手続きの整備 の4つの小課題を設定した。

<課題1> 完成用部品の機能区分整備 の成果

平成26年度骨格構造義足の完成用部品機能区分表のイメージ画像です。

まず、米国で使用されている義肢装具の機能区分(Lコード)に着目し、その調査を行った。これより、国内の完成用部品への適用の可能性を確認した(H25年度)。その結果を受けて、既存の骨格構造義足の機能について調査を行い、合計976点の部品の情報を入手し、機能区分の初版を作成した(H26年度)。 さらに、それらの調査・分析結果を基に機能の定義付けとその妥当性を確認し、研究の立場からの提案として完成用部品の骨格構造義足について機能区分表を作成した(H27年度)。

<課題2> 製作費用の包括的把握方法と簡便なデータ更新方法の確立にかかる研究 の成果

義肢等の製作事業者に対するアンケートを実施し、人件費単価が平成23年度の調査結果よりも低い値となっている点、利益率が平均値より利益率の低い事業所のほうが高い事業所よりも多い点、費用構成については昭和53、54年度の調査結果と比べて費用に占める素材費・作業人件費以外からなるその他の費用の割合が高くなっている点、平成21年度の調査結果に比べて素材費が6.8%上昇している点を明らかにした(H25,26年度)。これらの結果は、平成26年度末の補装具費支給基準改定の参考となった。また、現行の部品リストから、機能区分内の部品の価格を調べたところ、平均48.0%と、ある程度大きなちらばりがあること、将来的に機能区分毎固定価格制を併用することで必要な部品を供給しつつ全体のコストを抑えられるとの推計が得られた(H27年度)。

<課題3>補装具費支給判定基準マニュアルの作成 の成果

補装具費支給判定基準マニュアル 更生相談所職員限定版 の表紙画像です。

更生相談所長協議会補装具判定専門委員会に寄せられたQ&Aを分析することで、151項目のQ&A暫定版を作成した(H25年度)。さらに作成したQ&A(暫定版)の更生相談所における6ヶ月試用後のアンケート調査を実施し、8割以上から役立っているとの回答が得られ、得られた結果を基に、暫定版の修正点を決定した(H26年度)。最終的に、更生相談所職員を対象とした限定版(Q&A189問)と医療関係者、市町村職員等支援者を対象とした公開版(Q&A71問)に分けてマニュアルを作成し、骨格義足完成用部品の機能区分表も盛り込み、義肢判定の際に役立つものとして完成させた(H27年度)。

<課題4>機能区分を踏まえた完成用部品申請手続きの整備 の成果

完成用部品指定申請の手続きについて、Microsoft Excelを用いた電子申請の様式を整え、実際の指定申請に使用したところ、その後のアンケートの結果から、電子化したことによる効率化、正確性の向上が確認された(H25年度)。さらに、指摘された問題点に基づき、様式、記入要領、説明会での説明方法の改善を行い、その効果が示された(H26年度)。また、機能区分の運用上必要な情報を整理するとともに、完成用部品登録申請を通じて集約することを想定した様式改訂案の作成、さらには、運用上の問題点についてまとめた(H27年度)。

成果のまとめ

課題1から4の成果を受け、補装具費支給制度に関する提案をとりまとめた。短期的には、機能区分表の公開による共通認識の促進と価格の平準化であり、長期的には、機能区分の整理に基づいた価格設定と利用者の機能を結びつけた適正な支給判定の促進を提案した。

成果の公表・活用

本研究では、2回の公開研究会を含めて、補装具費支給制度に関わる多様なステークホルダーとの協働により、複雑な制度や仕組みに関する実行可能性の高い提案を行うことができたと考えている。価格については、平成26年度末の価格改定に寄与する成果が得られており、マニュアルは更生相談所での実際の業務で使用され、その効果が示されている。完成用部品の申請手続きについては、本研究の成果により、電子化が実現した。研究のコアに据えた骨格構造義足の機能区分については、専門性や経験、知識の異なる関係者が、共通の認識を持つための重要なツールとしての役割が、改めて確認された。多様なステークホルダー間での情報の共有が、利用者を中心として、補装具費支給制度を効果的に、円滑に運用するためには必要不可欠である。機能区分は、そのコアとなる共通言語となり得る。さらに、部品の機能と利用者の機能、部品の価格とを結びつけることにより、適正な補装具利用が、さらに促進される可能性が示された。補装具費支給制度の課題を改めて浮き彫りにしたとともに、その解決の方向性を示すことができた点は、本研究の重要な成果であると考えている。

今後、骨格構造義足以外の完成用部品について、機能区分を作成すると共に、機能区分表の普及に向けた活動を実施する予定である。

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謝辞

本研究遂行にあたりご協力を頂いた日本福祉用具・生活支援用具協会 義肢装具部会、日本義肢協会、日本義肢装具士協会、一般社団法人日本車椅子シーティング協会、日本義肢装具学会等関係機関、およびご協力頂いた方々に、この場を借りて謝意を表す。また、兵庫県立総合リハビリテーション中央病院 名誉院長 澤村誠志先生には、公開研究会に、お忙しい中遠路お越し頂き、貴重なお話しを頂きました。深く感謝申し上げます。

研究成果物

研究報告書

成果物

開催公開研究会

問い合わせ先

国立障害者リハビリテーションセンター研究所
  福祉機器開発部 石渡 利奈(いしわた りな)
  障害福祉研究部 我澤 賢之(がさわ けんじ)
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最終更新 2017年 1月26日