視覚障害者用音声ワープロについて

 今日のように視覚障害者の社会参加が増え、一般就労も実現される時代においては、視覚障害者が晴眼者とのコミュニケーションのために漢字かな混じり文で手紙や書類を作成する機会が増大しています。

 視覚障害者がパソコンを用いて漢字かな混じり文を書く際にもっとも問題となるのは、日本語に多い同音異字の漢字をいかに区別するかという点です。つまり「きょう」と入力して漢字変換した場合、「強」なのか「教」なのか判断できないことです。このためNRCD-Penが開発されるまでの音声ワープロは漢字点字による入力方式を用いていました、その場合は数千字の漢字点字を新たに覚えなければならないため、利用者に多大な苦痛を強いる結果になっていました。

 当研究部で開発した音声ワープロは、
@同音異字の漢字を区別する方式として、新しい方式を提案している
A健常者用ワープロを音声化しているので、豊富な機能があるうえに、ファイルの互換性も高い
という特徴をもっています。

 すなわち@については、「きょう」と入力して漢字変換した場合、「強」であれば「つよいのきょう」と、「教」であれば「おしえるのきょう」と音声で説明して漢字を区別します。このような区別は、晴眼者が通常よく行っていることで、中途失明者にとっては容易に理解できる方式といえます。

 音声出力装置には当研究部で開発した音声漢字ターミナルが使用されました。この装置にはJIS第1、第2水準の漢字の説明辞書が搭載されており、音声での漢字の区別が可能です。またひらがなとカタカナの区別は音の長さや高低を変えて、簡単な訓練で判別できるようになっています。なおバッテリ込みの装置重量は670gで、簡単に持ち運びも可能です。

 一方そのような漢字ターミナルを応用したワープロ・ソフトについては、晴眼者用の市販ソフト(VJE-Pen)を音声化しました。この結果、二つの文書を同時に編集できるなどの豊富な機能のもった音声ワープロ(NRCD-Pen)が完成しました。

 国立リハセンター更生訓練所に入所中の訓練生による評価結果によれば、5、6時間程度の訓練で基本操作を習得できることがわかりました。これらの研究は、主として昭和60年から63年にかけて行われ、本ソフトは数百人の視覚障害者に利用されたと思われます。研究は終了しましたが、本研究で提案した同音異字の漢字区別法は、その後多くのソフトウェアに採用され、同音異字区別の標準になっています。


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