走査式ワープロ(Scan−Pen)の研究開発について

 キーボード代替装置は、重度な障害があるとはいえ、身体の一部の制御がある程度可能な肢体不自由者を対象としています。しかし障害の程度がさらに重く、入力スイッチを1または2個しか操作できない障害者も多いのが現状です。走査入力式ワープロとは、そのような重度の肢体不自由児・者用の意志伝達装置や書字装置として開発したパソコンのソフトウェアです。

 開発した、あるいは研究中のソフトウェアは、以下のとおりです。

(1)MSX用ソフト(ひらがな版)
(2)PC9800系MS−DOS用ソフト(ひらがな版、漢字版、高機能版)
(3)Windows95用ソフト(ひらがな版)
 このソフトを使用する上で注意すべきことは、粗大動作しかできない脳性麻痺者や手指の力がわずかしかない筋ジストロフィー患者が利用するため、そのような障害者の身体特性に合わせた入力スイッチをアレンジする必要があることです。これまでに開発した主要な入力スイッチは次のとおりです。

(a)各種の入力スイッチ

@空圧スイッチ
脳性麻痺児・者用に最も多く対応しているスイッチで、レンズ掃除用のブロアを使用して圧力センサーをオンオフさせます。ブロアをヘッドレストや専用台に取り付け、頭部を左右に動かして使用することが多い。写真はベッドに寝たきりの障害者が操作している例です。

ブロアスイッチ使用例

ブロアスイッチの拡大

  空圧スイッチ(ブロア使用)

A呼気スイッチ
空圧スイッチと同じ圧力センサーを使用します。口からの呼気と吸気で操作できるため、頸髄損傷者などの四肢麻痺者に適したスイッチです。

呼気スイッチ

  呼気スイッチ

Bタッチスイッチ
筋ジストロフィー患者や空圧スイッチを使用できない脳性麻痺児・者が利用するスイッチです。手指や皮膚が金属の入力部に触れることで発生する電気的なノイズを増幅し、入力としています。スイッチ形状は障害者に合わせて作ることができます。

タッチスイッチ

  タッチスイッチ

C瞬きスイッチ
赤外線を眼球にあてて開眼時と閉眼時の赤外線反射量の差によりスイッチをオンオフさせるものです。眼球やまぶたの随意運動しかできない最重度の障害者に適しています

瞬きスイッチ

  瞬きスイッチ

(b)ソフトウェアの内容

MSX用ソフト(ひらがな版)
家庭用のテレビに接続できる簡単なもので、数十文字の文章を書くのに適した入門用のソフトです。

PC9800系MS−DOS用ソフト(ひらがな版と漢字版)
障害者が意志を伝達したり簡単な日記をつけられるようにする目的で開発されました。複雑な編集機能はないので長い文章を作成することには適していません。ひらがな版ではひらがなのみの文章しか扱えませんが、漢字版には漢字変換機能が付加されているので、漢字かな混じりの文章を作成することができます。さらに音声出力装置を接続して、音声ガイド付きのワープロにすることが可能です。これまでの経験では、耳から文字を覚えさせられるために、ひらがなを完全に覚えていない障害者には極めて有効な手段であることがわかりました。

ひらがな版

  ひらがな版の画面

漢字版

  漢字版の画面

PC9800系MS−DOS用ソフト(高機能版)
市販のワープロ・ソフト(VJE-Pen)に肢体不自由者用入力モジュールを付け加えたソフトです。したがってVJE-Penと同じ機能があり、文字の飾り付けや範囲を指定したうえでのコピーや削除など、複雑な編集操作を行なえます。漢字版では物足りないと感じ始めた重度の肢体不自由者を対象としています。文字選択用のウィンドウは文章作成の邪魔にならないよう小さくし、走査式選択を2回行って初めて文字が確定する2階層構造の選択方式を用いています。

Windows95用ソフト
平成8年度から開発はじめたもので、まだひらがな版しか完成しておりませんが、これまでのひらがな版のなかではもっとも機能が充実していて、障害者には使いやすいソフトウェアになっています。今後は???

Windows版

  Windows版の画面



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