〔巻頭言〕
これからの国立障害者リハビリテーションセンターに向かって
総長 岩谷 力

 


 平成21年3月25日付けで「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会報告書」が公表されました。この報告書は障害保健福祉部長が招集した有識者による検討会(構成員17名、座長 伊藤利之横浜市リハビリテーション事業団顧問)において5回の検討会を経てまとめられたものであります。
 国立更生援護機関は設置後50年、国立障害者リハビリテーションセンターは設置後30年を経過し、社会情勢、障害のとらえ方、障害者福祉の理念などは設置当時から大きく変化し、ノーマリゼーション理念に基づく障害者施策が推進された結果、障害者を取り巻く環境も大きく変化しました。数年前より、センターにおいて、更生援護施設は、利用者ニーズや社会の要請に応えるために、来し方を振り返り、未来を開拓すべき時期に達していると認識され、平成17年4月26日に「更生訓練所の運営に関する合同委員会報告」が、平成19年12月26日に「国立身体障害者リハビリテーションセンターの今後のあり方に関する検討会中間報告書」がまとめられてきました。このたびの報告書は、総務省からの指示もあって、国立更生援護機関全体の今後のあり方が本省においてまとめられたもので、センターが今年30周年を迎えることもあって、我々にとっては大きな意味を持つ報告書であります。
 報告書では、国立更生援護機関の基本的な役割は、障害者リハビリテーションの中核機関として医療・福祉サービスの提供、生活機能全体にわたるリハビリテーション技術の研究開発、人材育成、医療・福祉施策等の向上のための提言、障害児・者の自立と社会参加および生活の質の向上のために先導的・総合的取り組みを通しての技術的助言、指導などにより障害者基本法に基づく国の責務を具現化することとされています。
 国立更生援護機関の持つべき機能として、
 ① 総合的リハビリテーション医療の提供
 ② リハビリテーション技術、福祉機器の研究開発
 ③ 専門職員人材育成
 ④ リハビリテーションに関する情報収集および情報提供
 ⑤ リハビリテーションに関する企画・立案
 ⑥ 国際協力
 ⑦ 障害福祉サービスの提供
があげられ、機能を一元化し、統一的な方針のもとに事業運営をすることが提言されました。
 今回の報告書は、平成19年12月26日にとりまとめた「センターの今後のあり方検討会の中間報告」において、今後の到達目標として取り上げられた、
 ① 少子高齢社会における多様な障害に対応する「国立障害者リハビリテーションセンター」
 ② 先進的リハビリテーション医療実践、政策福祉推進の中核的機関
 ③ 研究・開発、実践・検証、人材育成、関連情報発信の統合型機関
 ④ 社会生活を支える保健、医療、福祉、労働支援サービスモデルの確立と一体的提供
 ⑤ 戦略的運営体制による効率的な事業展開
を基盤に、障害を持つ人々の医療・福祉に経験が豊かな学識経験者の委員の先生方の国立障害者リハビリテーションセンターへの期待がまとめられたものであります。その期待の大きさに、身が引き締まる思いがします。
 端的に表現すると、新しい国立障害者リハビリテーションセンターは障害者の保健・医療・福祉の総合臨床研究機関ということができます。障害者の保健・医療・福祉ならびに福祉機器の研究開発、人材育成、情報提供に活動中心を置く機関であります。
 報告書には総合的リハビリテーションという語がありますが、総合とは、障害を持つ人々の自立と社会参加を達成するために必要となる医療、福祉サービスを包含するという意味であります。障害を持つ人々がリハビリテーション医療として、疾患管理、二次障害予防、機能回復、基本的日常生活活動能力を習得した後に、切れ目なく福祉サービスを利用して社会生活技能さらに職業能力を習得し、自立生活能力を身につけ、社会に定住する過程の支援を活動領域とするということであります。
 また、リハビリテーションに関する企画・立案あるいは戦略的運営とは、我々が、国の障害者施策の具現化を目指してセンターの運営方針、研究計画を策定し、その活動・事業の成果を検証して、本省に提言していくということであります。
 このような事業活動を積み重ねることにより共生社会の構築に貢献することが、これからの国立障害者リハビリテーションセンターのミッションであります。
 創立30周年の記念すべき年に次代の国立障害者リハビリテーションセンターへの第一歩を踏み出すという歴史的な転換点に出会うことができることを好機ととらえ、全職員一丸となっての努力を切に願うものであります。