認知機能特性に適した情報呈示方法

認知症高齢者に対する生活情報支援ロボットの効果的な情報伝達方法

-認知機能レベルに応じた音声情報について-

背景と目的

認知症高齢者数は急増し, 活動的かつ主体的な生活を維持することは非常に重要である.我々は,認知症高齢者の日常生活行動を促す情報支援ロボットシステムの開発を行っている.重度認知症者にとって,行動を工程に分けて情報伝達をする方が分かりやすいとされているが,Mild Cognitive Impairment (MCI) ~軽度認知症者にとっては情報が過分であり,結果として判断力などの認知機能が低下する可能性も考えられる.そこで本研究では,ロボットの音声情報に関し,認知機能レベルや特性に応じた情報伝達方法を明らかにすることを目的とした.

対象

症例は,有料老人施設に入居する女性(A氏,82歳)であった.MMSE得点は18点であり,特に記憶障害と見当識障害が顕著であった.

倫理的配慮

国立障害者リハビリテーションセンター研究所倫理審査委員会にて承認されており,対象者およびその家族より同意を得ている.

方法

有料老人施設入居者を対象とし、Mini-Mental State Examination(MMSE)総得点が概ね17~27点であり、MCI~軽度認知症疑いのある者の中から15名選択した。情報支援ロボット “PaPeRo” を使用し,合成音声による課題呈示を行った.「服薬」,「血圧測定」,「片付け」という生活行為を課題とし,1回あたり約30分,1週間に3日間,合計2週間施行した.情報伝達方法は3パターン設定し,各週の1日目は課題の全容を1文で伝える Talking Pattern 1(TP1),2日目は課題を2工程に分けて伝えるTP2,3日目は3工程を丁寧に伝えるTP3とした.遂行できた工程数/全体の工程数(%), Performance Rate(PR)を算出した.

結果

全ての課題で,1週目のTP1で課題を完遂できず(PR=71.4%「服薬」,60.0 %「血圧測定」,14.3 %「片付け」),課題工程に分けて情報伝達するTP2とTP3ではPRが向上した.2週間目も同じ課題を繰り返すと,「服薬」でTP1でもPRが100%となった一方,工程数の多い「片付け」ではTP1で課題を完遂することはできなかった.

考察

記憶障害を有する高齢者に対し,課題内容を工程に分け丁寧に呈示した方が適していると考えられた.課題を繰り返すことで学習され,徐々に情報伝達方法をシンプルにできる可能性が示唆された.

参考

Nishiura Y, Inoue T, Nihei M. Appropriate talking pattern of an information support robot for people living with dementia : a case study. Journal of Assistive Technologies, vol. 8, issue. 4, 177-187, 2014