情報ICT・IRTシステムの効果①
-独居高齢者を対象とした生活支援ロボットシステムの効果検証-
背景と目的
高齢者の生活形態の変化から独居高齢者が増加している昨今,介護保険法が改正され,介護予防の重点化,地域包括ケアへの移行が掲げられ,高齢者を地域で支える体制構築が喫緊の課題となっている.MCI及び認知症者が住み慣れた環境で,主体的な生活を維持することが今後の高齢社会において重要となる.そこで対話型情報支援ロボットによってスケジュール管理,行動支援を行い,独居高齢者の自立・自律した生活を支援するシステムを構築した.本研究では,開発した生活支援ロボットシステムを実生活場面に導入し,独居高齢者の生活リズム及び服薬行動に与える影響を明らかにする.
対象
対象者は自立型高齢者施設に入所中の高齢者7名及び在宅高齢者4名の合計11名であり,意思疎通が可能で,聴覚機能が正常である者とした.対象者の認知機能はMMSE-J及び日本語版COGNISTATによって評価した.情報支援ロボットとしてNEC製PaPeRo iをプラットフォームとして用い,支援内容は対象者本人,家族及び介助者に対するヒアリングにより,決定した.本システムによる効果を検証するため,人感センサを用いた行動センシングによって高齢者の生活リズム(起床時間,就寝時間,睡眠時間,短い外出,長い外出,トイレの回数,夜間トイレの回数)の指標を検出した.また服薬状況は研究実施者による残薬数確認及び介助者への聞き取りによって調査し,飲み忘れ回数及び行動達成率を算出した.ロボットによる支援期間は1か月(Robot Support phase: 以下RSp)で,ロボットによる支援がない導入前1か月をベースライン期間(Baseline phase: 以下BLp)として設定した.統計解析には服薬行動達成率に関してはWilcoxon符号付順位検定を,生活リズムに関しては反復測定分散分析を用い,危険率5%とした.本研究は,国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
結果
対象者の平均年齢は81.5±4.2歳,MMSE-J平均得点は24.3±5.1点であり,COGNISTATによる評価では,全対象者において1つ以上の項目で認知機能低下を認めた.服薬状況は11名中7名で有効データを得られ,服薬行動達成率はBLp(93.6%)とRSp(96.4%)で有意差は認められなかった(p=0.068).しかし,全対象者の服薬行動達成率は増加,もしくは維持を示した(図1).MMSE-Jのカットオフ値(23/24点)によって2群に分けた結果,≧24点の群では,日中のセンサ発火数の増加(F[1,8]=26.06, p=0.001),睡眠時間の減少(F[1,5]=11.52, p=0.019),日中トイレ頻度の増加(F[1,5]=8.95, p=0.030)を示した.他方で≦23点群ではどの項目においても有意差は認められなかった(図2).
図1 服薬行動達成率(n = 7)
図2 MMSE-J得点群別のセンサ発火数および生活行動比較(n =11)
考察
服薬行動に関しては,生活支援ロボットシステムの導入前後で行動達成率に有意差は認められなかったが,全対象者において行動達成率の向上もしくは維持する結果となった.このことより,本システムによる情報支援によって,高齢者の低下した認知機能を補完し,自立した生活を支援することが可能であることが示唆された.MMSE-Jの得点による分類により,≧24群は日中センサ発火数の増加を示した.さらに睡眠時間の減少,日中トイレ回数の増加を示した.これは,生活支援ロボットシステムによる情報支援によって,独居高齢者の日中の活動時間が増えた結果,トイレ頻度の増加に反映したと考えられた.