情報ICT・IRTシステムの効果③

-高齢者施設における情報支援ロボットの活用-

背景と目的

世界に先んじて超高齢社会を迎えた日本の要介護者数は622万人となっており、増加の一途をたどっている。同時に高齢者を受け入れるための入居型施設も13525施設に増加している一方で、施設で働く介護者の不足は深刻な状況にある。このような社会状況の中,介護者不足を補いさらに安全で効率的に介護者の介護量軽減するためにロボット技術を応用した情報ICT・IRTシステムの導入が進められている。高齢者施設において情報ICT・IRTシステムの効果を検証するためには、ロボットの機能と介護現場の状況のマッチングを図った上で、入居者と介護職員の関係とその生活を考慮する必要がある。そこで本研究では現場の状況に合わせたロボットの利用を実施し、実際のロボット使用に関わる利用者、介護職員双方の行動実態を把握することにより有用性を確認することを目的とした。

対象

対象者は、特別養護老人ホームの1つのフロアにて生活している入居者と介護職員とし、そのうち共有生活部分であるリビングルームで活動した入居者21名(男性6名、女性15名、平均年齢84.75歳、HDS-R平均得点5.92点)と介護職員8名(男性5名、女性3名、平均年齢36.5±14.24歳、平均経験年数8.05±5.93年)とした。

倫理的配慮

国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会にて承認されており,対象者である介護職員並びに入居者およびその家族より同意を得た.

方法

研究方法は、タイムスタディによる行動観察とした。特別養護老人ホームのリビングルームにPepper(ソフトバンクロボティクス株式会社)を導入して、導入前と導入直後、導入2週間後のロボットの使用状況及び入居者21名とスタッフ8名の日中の行動を比較した。タイムスタディとは、作業を要素に分割し時間を尺度としてその要素を測定、評価し改善する手法である。1日あたりの行動観察時間は7.5時間(10:45-18:30)とした。データ収集方法は、評価者3名をリビングルーム(130平米)が見渡せる場所に配置し、1分間毎にリビングルーム内の入居者とスタッフの行動を観察し記録した。特筆すべき項目については、対話内容についても記録した。 また、ロボット導入による経時的な効果を検証するために、スタッフに対して、ロボット導入1週間後、3週間後にSystem Usability Scale(以下、SUS)とQuebec User Evaluation of Satisfaction with assistive Technology Version 2.0(以下、QUESTを実施した。評価期間は、2017年3月1日~27日とした。

結果および考察

結果、ロボットに関わる人びととその生活の影響によっての運用方法が変化していることが判明した。また、集団体操場面において有効に活用することができ、介護職員の負担軽減並びに入居者の活動の質の向上につながっていた。一方で、使用されなくなったアプリケーションがあった。これはインタフェース操作や音声認識といったロボットの機能が原因であると考えられ、今後の機能改善によって更にロボットの活用が進むものと考える。

本研究によって、ロボットに関わる人びとの視点で生活を把握し評価することにより、高齢者施設における情報支援ロボットの活用効果が示された。

参考

1.Mio Nakamura, Noriko Kat, Eiji Kondo and Takenobu Inoue, Verification of Effectiveness of Introducing Communication Robots in Residential Facilities for the Elderly, The 11th Conference on Rehabilitation Engineering and Assistive Technology Society of Korea 2017, KINTEX, Goyang, Korea, 2017

2.Mio Nakamura, The effectiveness of communication robot at the Nursing home, Beijing International Rehabilitation forum, Beijing International Exhibition Center,Beijing,2016

3.中村美緒, 高齢者入居施設での コミュニケーションロボットの 安全性・有効性に関する評価研究, 第7回国際医療福祉大学大学学会,国際医療福祉大学大田原キャンパス,2017

4.中村美緒, 西浦裕子,吉村英樹,藤原翔平,井上剛伸, 高齢者施設におけるコミュニケーションロボット「ペッパー」使用場面の抽出-専門職と開発者を交えたワークショップによる検討-第51回日本作業療法学会,札幌教育会館,北海道,2016

5.中村美緒,美谷島直行,藤原翔平,井上剛伸, 高齢者入居施設におけるコミュニケーションロボットの有効性評価, LIFE2016,東北大学青葉キャンパス,仙台,2016