非言語情報の脳認知処理過程の解明

感覚機能系障害研究部 西谷信之

 1861年および65年にフランスの外科医ブローカー (P. Broca, 1824 - 1880) が,左 後下前頭部を含む脳障害による失語症例の報告をして以来,同部 (Broca 野)は言語の 表出に係わる運動性言語野として定着している. しかしこれまで,多くの臨床症例お よび近年の目覚しい技術進歩に基く研究の結果,Broca 野は言語表出以外に,物品命名, 単語想起,統辞処理等に関与していることが示唆されている.

 果たして,Broca 野の持つ本来の機能とは如何なるものであったのか.

 そこで優れた時間・空間分解能を有する全頭型脳磁場計測装置 (Magnetoencephalogram:MEG)を用いて,非侵襲的にBroca野を含む脳全体における認知 情報処理システムと,言語機能障害例における脳病態生理を明らかにしてきた.

 その結果,非言語情報処理に係わる脳内部位と時間経過が明らかとなり,その処理機 構の中で Broca野は,動作・表情等の観察・模倣システムの中心にあると考えられた. さらにこのことから, 言語機能獲得以前のヒトのコミュニケーションにおける進化の過 程で,Broca野が重要な役割を担ってきたことを示唆した.

 今回論じた内容の一部は,The Proceedings of the National Academy of Sciences, USA, vol. 97, No. 2, 2000 に掲載された.




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