足圧中心動揺の時系列解析を用いた静止直立姿勢安定性の評価

運動機能系障害研究部 野崎大地

【目的】
 足圧中心(Center of Pressure: COP)動揺の測定は、姿勢保持能力を評価する一般的な方法の一つである。ところが、加齢等による姿勢保持能の低下を動揺量の増大によって捉えるという試みは、実はあまりうまくいっておらず、様々な研究者が互いに食い違った報告を繰り返すばかりであった。ただし、過去の研究のほとんどが、動揺の分散値など静的な統計量のみを評価に用いており、その時間的な性質についてはほとんど言及していないことに注意すべきである。
 本研究では、COP動揺の時間的性質をフラクタルの概念を用いて抽出し、姿勢保持能の評価値として用いることの妥当性および可能性について検討する。

【実験方法】
 被験者は男性59名(19-79歳)、女性90名(21-89歳)の計149名であり、事前に測定参加への同意を得た。被験者が30秒間の静止直立姿勢を保持したときのCOP位置の軌跡を測定した。測定は開眼、閉眼、各3試行ずつ行った。

【解析方法】
 COP動揺のパワースペクトルを計算し、両対数軸で表示すると、3本の直線で近似できる。これはCOP動揺が3つの時間スケールで別々のフラクタル次元を持つことを意味する。我々が評価値として用いたのは、それぞれの直線の傾き(3つ)と、これら直線の変曲点の周波数(2つ)である。

【結果・論議】
1. COP動揺がフラクタルとして記述できることは非定常性が強いことを意味するため、従来用いられているような分散などの統計量はそもそも評価値として不適当である。
2. 実際、分散等の静的な統計的指標に比べると、フラクタルを用いて抽出された評価値は試行毎のばらつきが小さく、安定した評価が可能であった。
3. フラクタル解析によって抽出された評価値のうち、3つに年齢との有意な相関が認められた。一方、COP動揺の分散などの静的な統計的指標には年齢との有意な相関は認められなかった。ただし、COP動揺を微分して得られる速度には年齢との相関が認められた。
4. フラクタル解析によって抽出された評価値を用いると、他の被験者の分布から極度に外れている10名程度の高齢者を特定することができた。




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