人工内耳を適応した盲ろうの2症例

第ニ機能回復訓練部 田内 光 ・福本聖子・牟田美希子
立石恒雄
九州保健福祉大学 倉内紀子

[はじめに]
 盲ろう患者にとって、情報収集の方法は触覚に頼る場合が多く、一般社会で生活するには非常に大きなハンディキャップを背負っている。これらの人の聴覚が利用可能となれば、その恩恵は計り知れないものがある。今回我々は、盲ろう患者2例に人工内耳を適応し、著効が得られたのでビデオにて報告する。

[症例1.]
 I.O.さん、S13.10.31生の女性で、ベーチェット病による両眼光覚弁(全盲)および両側感音難聴(全ろう)の患者である。平成5年4月、54歳時に当センター更生訓練所に入所した。入所後聴力の悪化を繰り返し、最終的には右耳134dB以上のスケールアウト、左は105dBとなった。平成8年6月27日、57歳時に右耳に人工内耳植込み術を施行した。手術は22チャンネルすべての電極が挿入されたが、顔面神経刺激のため合計17個の電極を使用し、平成8年7月23日、音入れを行った。音入れ時、既に我々の問いかけを言葉として認識、人の笑い声なども認識できた。聞き取り検査では、単音節64%、単語66%、文章63%と良好な成績を示した。現在は右耳に人工内耳、左耳に耳掛形補聴器を装用し電話の聴取も可能であり、自宅にてマッサージ治療院を開業している。

[症例2.]
 K.T.さん、S12.9.19生の男性で、悪性リンパ腫の治療中に敗血症でショックを起こし、視力障害と聴力障害を起こした。コミュニケーションは手のひらに文字を書いて行っていた。平成10年9月21日、生活訓練目的にて当病院に入院した。入院時の聴力は、平均聴力レベルで左右ともに134dB以上と補聴器の効果は全く認められなかった。人工内耳の適応のための検査にて異常はなく、12月15日に右人工内耳植え込み術を施行し22チャンネル全ての電極が挿入された。翌11年1月14日に音入れを行った。音入れ時太刀川さんという呼びかけも理解でき、その後の成績も単音節40%、単語72%、文章75%と良好な成績を示した。現在日常会話はほぼ支障なく可能となっている。

[まとめ]
 一般に読話能力が高いほど人工内耳の成績は良好と言われている。今回、読話のまったく不能な視覚障害の患者2例に人工内耳手術を施行し、非常に良い成績を得た。このように良好な結果を得られたのは、聴覚しか手がかりがない全盲患者の聴覚機能は非常に優れており、最大限活用されうるためと考えられた。




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