記憶障害を有する患者へのアプローチ
〜記憶の補償手段獲得と活用への取り組み〜

病院 医療相談開発部 心理 四ノ宮美恵子・山田麗子・土屋和子・川嶋明子・緑川晶・尾崎聡子・乗越奈保子

 当院でもこの数年、記憶の補償手段獲得に向けた指導と患者への対応方法に関する家族指導を行ってきたが、これらの患者には記憶障害に加えて発動性低下、知的機能の低下、遂行機能や注意の障害などが見られ、それらも踏まえた指導が求められるようになってきた。そこで、心理担当では高次脳機能障害の訓練プログラムの検討が開始されたことに伴い、記憶の補償手段獲得に向けた指導をプログラムに組み込み指導方略の検討を開始した。そこでは、生活が時間経過と場面の変化の中で営まれていることを踏まえ、指導を単なる断片的な事象の記憶補償にとどまらず日常生活活動全般の自己管理を目指したものとして、メモリーノートは自己管理のための行動記録表として位置づけて指導を開始した。
 指導開始にあたっては、心理査定の結果を踏まえ補償手段獲得の必要性を説明しながら動機付けを行う。その上で訓練開始前後の朝と夕方30分ずつメモリーノートを利用した指導を開始する。朝は前日に記入済みの当日の予定、訓練やその他やるべきことをメモリーノートを活用して確認する。各訓練場面ではスタッフの協力を得て訓練内容や指示事項を記入するように習慣化を図る。夕方は当日の予定が滞りなく遂行されたか自己評価させ、さらに翌日の予定を記入させる。外泊時には、家族も指導に参加してもらい、退院後の生活を想定しながら患者、家族、スタッフの三者で話し合いながら予定を立てて記入させる。その予定をできるだけ遂行し実際行動を記録させる。このかかわりを、家族が補償手段の必要性を理解し患者への対応を学習する機会としている。
 これまでの指導実践から、患者本人の能力や関心、リハゴールに合った無理のない指導方略を検討すること、リハの進行や退院後に想定される生活に合わせた指導方略の見直しが常に必要であること、記憶の補償手段を獲得し継続して活用していくためには家族や様々な機関のスタッフの理解や援助が必要であること、自己認識の変化をとらえながら補償手段活用に向けて動機付けを繰り返し図っていくことの重要性が確認された。




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